第三節:デスゲームのルール発表
テーブルには豪華な料理が並び、作家たちはどこかそわそわした様子で座っていた。
クラシックが静かに流れる中、黒服の男性たちが彼らをじっと見つめていた。
部屋の照明がだんだんと落ち、スクリーンには謎めいた仮面の影が現れる。
「さて皆さん、これから新しい文学プロジェクトについてお話しします。全貌をお見せする時が来ました。」
その声に作家たちは互いに顔を見合わせた。
一番年配の神代泰蔵は腕を組んで「何だかくだらない茶番のように思えるが、帰れないとなると厄介だ」とぼそっと漏らす。
その言葉を聞いた月代祐紀は眼鏡を直し、小さくため息をついた。
「何かただ事じゃない気がする」と呟く。
スクリーンの声は続ける。
「ここにお集まりの6人の作家の皆さんには、特定のテーマに基づいた小説を執筆していただきます。作品はネットで公開され、投票と評論家の評価によって順位が決定します。そして、最下位になった方には、“死の淵”すら感じさせるペナルティを受けてもらいます。」
その言葉を聞いて根岸千夏は驚き、「今のって本気?」と、手をスマホに伸ばそうとするが、黒服がそれを許さない。
「これ、冗談でしょう!」
普段は冗談を飛ばすことが多い守屋漣も顔が青ざめる。
「ちょっと待ってくださいよ、罰って何です?本当にそんなことするんですか?」と高森雄一が問いただすが、返事は無い。
ただ、主催者は話を続ける。
「ここから出ることはできません。最後の一人が勝者になるまで、小説を書き続けてもらいます。」
戸惑いつつも、作家たちはその場に従わざるを得ない。
スクリーンの声がまた響く。
「まずは、自己紹介を兼ねたショートショートを書いてください。読者に皆さんの作風を知ってもらう良い機会です。」
ネットでの反応が画面に流れる。
彼らはペンを手に取り始めた。
「これから試される準備運動ってところか」と神代がぼやき、周りからは苦笑いが漏れた。
神代泰蔵のショートショート
神代は不機嫌そうに書き始め、低音の声で読み始めた。
「進軍する兵の足音、甲冑の擦れ合い、吹雪に染まる旗……我が名は朽葉(くちば)の武将なり。人生七十に手が届いた今、この一戦にすべてを賭す。敵か、味方か、いや勝たねばならぬ。たとえ己が命の灯が尽きようとも、その筆は断じて折れぬ。」
会場は一瞬静まり返り、守屋が「うわー、重っ……さすが大御所」と呟く。
月代祐紀のショートショート
次に月代は、自信を持って語り始める。
「深夜の街灯が照らす路地裏に、ひとつだけの小さな影があった。彼女はそこに無数の夢を捨て、ひとつだけの希望を握りしめる。言葉の端々に宿る熱は、自分を語るためだけの静かな炎──それでも、見つけたい。生きる理由を。」
その魅力的な語り口に、周囲からは賞賛の声が漏れた。
守屋漣のショートショート
守屋はニヤリと笑いながらサッと書き、
「“俺? 名ばかりだけど ‘作家’ やってまーす。朝起きて適当にプロット、昼はゲーム、夜中に集中モード。だけど何だかんだで本は売れてるし?──好き勝手に書けば売れる、世の中面白ぇ!” って感じでどうっすかね?」
その一言に場内が笑いに包まれ、「エンタメの鬼才」と称える声が上がった。
根岸千夏のショートショート
根岸はペンを走らせながら
「#自己紹介 新鋭作家の根岸です。高校生のときSNSバズってデビュー。作品はいつも ‘いいね’ください! 好きなこと:写真撮影とお菓子作り、嫌いなこと:アンチコメと勉強。将来は海外旅行しながら執筆するのが夢! この場所でも、みんなフォローしてね?」と続けた。
それを見た月代が「ああ、まさに今時のスタイルですね」と微笑んだ。
牧瀬穂乃果のショートショート
集中していた牧瀬が冷静に語り始める。
「……夜闇の底から伸びる、白骨の手。薄闇に溶ける悲鳴とともに、それは私の名を呼んでいた。 ‘あなたに興味があるの’ と、微笑む唇の裏に覗く牙……私の愛も、その血で染まるのか。」
ぞくりとするほどのホラー調に、守屋が「うわぁ……相変わらず怖え」と肩をすくめる。
その迫力に場は一瞬ヒヤリとした雰囲気になった。
高森雄一のショートショート
最後に高森が朗らかに語る。
「広い野原に、たったひとりの冒険者が立っていた。その足元には地図があり、彼は ‘みんなを楽しませる物語を生むために’ と歩き始める。剣も魔法もないけれど、熱い心とユーモアがあれば乗り越えられる──さあ、この冒険を共有しよう。」
その声には暖かさと安心感が満ち溢れていた。
主催者の声が再び冷たく響く。
「さて、自己紹介はここまでです。これからは課題に基づいた作品を書いていただきます。」
みんな不安を抱えながらもペンを取るしかない。
守屋は「こんなの信じられるわけないだろ」と声を落としつつ、月代は硬い表情でペンを握りしめ「でも書くしかない、か……仕方ないわね」と半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
根岸もスマホの画面を眺められない苛立ちを抱えつつ、「こんなこと、SNSに書いたらバズりそうだけど……書けないか」と自嘲気味に笑う。
牧瀬は黙ったまま、ホラー小説のメモを握りしめている。
そして、高森は唇を噛んで、「これが嘘じゃないなら、読み手の期待を裏切らないものを書かなくちゃ……だが、“裏切る”の意味もずいぶん違うみたいだ」と呟く。
デスゲームという言葉の重みが、宴会の空気を冷たく染めていた。
かつてない恐ろしい“ルール”が、いま目の前に突きつけられている。
六人の作家は、筆を取らねば生き残れないのだと、ようやく理解し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます