第二節:主催者の挨拶と乾杯

豪奢な洋館のメインホールに集められた作家たちは、躊躇しつつも目の前のテーブルの周りに立ち尽くしていた。

四方には黒いスーツの男たちが控え、まるで鷹のように鋭い目つきで周囲を見渡している。

窓辺に置かれたキャンドルが照らす絵画や装飾の美しさは完璧すぎて、どこか圧迫感が漂っていた。


根岸千夏はスマホを取り出し、思わずその光景を撮りたい衝動に駆られたが、隣に立っていた黒服にじっと見つめられ、指を止めた。

「...この場所、本当にSNS映えしそうなのに」と、小声でぼやく。

近くにいた守屋漣はそれを聞いて、肩をすくめて笑った。

「まあ、この場は秘密プロジェクトだからね。写真は我慢するしかないさ。」


話している間に、ホールの正面に設置されたスクリーンが突然光を放ち始めた。

その光が室内を照らし出し、どこからともなく低くこもった声が響き渡る。「ようこそ、皆さん。私はこの“新たな文学プロジェクト”の主催者です。」その声は重みがあり深く、画面には仮面をかぶった男の影が浮かび上がっている。


月代祐紀は進み出ようとしたが、黒服に制されて足を止めざるを得なかった。

何かを言おうと口を開くが、スクリーンの主催者の言葉が続く。

「集まっていただいた方々には、ここで最高の舞台と報酬を提供しましょう。賞金と名声を手に入れるには、ある条件をクリアしなければなりません。」


作家たちは互いに顔を見合わせ、ただならぬ内容を実感しつつも、一抹の不安を隠せない。

高森雄一はちょっとした笑みを浮かべ、「なんだかテレビショーみたいだね」とつぶやく。

神代泰蔵はふん、と鼻を鳴らして、「どこか軽薄に思えるな」とささやいた。


しかし、その言葉も、スクリーンから再び流れる主催者の声にかき消される。

「これから皆様には厳しい試練と規則が待ち受けますから、軽視しないでいただきたい。詳細は後ほど明かしますが、まずはお食事をお楽しみください。では、乾杯を。」


その合図と共にウェイターがグラスを配り、シャンパンの泡が一斉に輝き始めた。その重圧感の中、作家たちは渋々グラスを掲げる。

「乾杯とは言っても…」と月代がつぶやき、守屋は「まあ、せっかくだから飲んでおこうよ」とニヤリと笑う。


ざわめきの中で、牧瀬穂乃果は影に潜むようにしてカバンからメモ帳を取り出し、『骨のささやき』というフレーズを確認していた。

「...暗闇の中で、骨がきしむ音がする。それは人々の悲鳴に...」と呟いている彼女に、通りすがりに根岸が「ここでホラーですか、ちょっと背筋が寒くなってきたかも……」と覗き込み、彼女は微笑んで「つい」と答えた。


そんな時、スクリーンの声は再び響く。

「皆様、今しばらくは食事をお楽しみください。これは序章に過ぎません...」

その声の後に続く笑い声がどこか不気味で、ホール全体に緊張感が広がっていた。その中、作家たちは目の前の料理に手を伸ばしつつも、これから始まる何かに対する興味と不安を抱いて料理に手を伸ばしていた。

控えめに流れるクラシック音楽の下で、新たな出来事が始まろうとしていた。

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