開幕の宴

第一節:集結する作家たち

うっすらと曇り空が赤く染まる夕暮れ時、六人の作家が一通の謎めいた招待状を手にして、指定された会場へたどり着いた。

そこはまるで豪華な洋館で、外を注意深く見回す怪しげな警備員たちがその周囲を警備していた。


「なんとも重々しいな、まるで要人を招く場所のようだ……。」大御所作家の神代泰蔵がぼそりと呟いた。

彼は深緑のスーツを着て、警戒の眼差しをあちこちに走らせていた。


豪華な扉を開けると、そこには眩いばかりのシャンデリアと、長いテーブルが目に飛び込んできた。

テーブルには豪華な銀製食器が整然と並んでおり、まさに“宴”という言葉がぴったりだった。

すでに到着していた作家たちは、互いの顔を見合うのもままならない様子で、ぎこちなく目をそらし合っていた。


沈黙を破ったのは、軽妙洒脱な若手人気作家、守屋漣だった。

「おー、みんなそろったか。どうも、守屋です。あ、神代先生も。なんだか本格的な会ですね。」

陽気に会釈しつつも、どこか浮ついた興奮がその目に宿っている。

館内をきょろきょろと見渡しながら、彼は落ち着かない様子で笑った。


「相変わらず軽薄な男だな。」

神代がやや苦笑しながら答えると、守屋は「まあ硬くはならずにいきましょうよ」と軽口を返した。

そのやり取りを横目に見ていた中堅作家の月代祐紀は、静かに周囲を観察していた。


「……随分と手の込んだ設定ね。警備もやたら厳重だし。料理も豪華だし。」

月代は人間ドラマやミステリーを書くのが得意なだけあって、このような不穏な雰囲気に敏感だ。

微かに漂う紅茶の香りに包まれた中で、完璧すぎるまでの調和に違和感を覚えていた。


一方で、中堅ホラー作家の牧瀬穂乃果は、壁際にひっそりと立ち尽くしていた。

黒いワンピースがその陰影を際立たせていた。

不意に話しかけることもなく、小さなバッグからメモ帳を取り出し、何かを書き込んでいた。


「……静かですね、牧瀬さん。パーティーは苦手ですか?」と大衆娯楽作家の高森雄一が声をかけた。

高森は社交的な微笑みで場を和ませようとしていた。

牧瀬は目を上げて、「まあ、あまり好みではないですね。」と控えめに答え、メモ帳に書かれた内容を振り返っていた。


最後に到着したのは、新鋭のSNS作家、根岸千夏だった。

白いブラウスとジーンズで軽快に中庭から入ってきた。

「皆さん、初めまして」と頭を下げると、守屋が軽く手を上げていた。

「やあ、根岸さん。フォロワーが多いって聞いてますよ。ネット界の申し子ですね。」


「まあ、SNSのおかげですね。そういうのにしか取り柄ないんで。」と微笑む根岸に、神代は少し眉をひそめた。

「まったく、最近の若者ときたら……」と吞み込むように呟き、ため息をついた。


しばらくして、案内役が現れ、静かに「皆様、どうぞホールへお進みください。」と促した。

そこではシャンデリアが眩い光を放ち、まるで映画のワンシーンのように豪華な食卓が広がっていた。


月代が小さく呟いた。

「……相当手が込んでる。この資金は一体どこから?」神代も頷いた。

「スポンサーがいるとしても、これはただ事じゃない。単なる集まりではなさそうだ。」


守屋がグラスを掲げて場を和ませようとした。

「とにもかくにも、せっかくの豪勢な会場だし、楽しみましょう。ところでみんな、最近何を書いてるの?」

話を振られた月代は、「君のラノベと比べると派手さには欠けるかもね」と微笑んだ。

「ラノベだって立派ですよ?」と守屋が笑い、月代は肩をすくめた。

「でも、少し型にはまってるかな。『異世界でライバルと再会』とか、展開が予測しやすいかな。」


「売れりゃ同じさ。ただ、あなたの作品はやや重すぎて、エネルギー消費が必要かもね。」と守屋が返すと、月代は目を光らせた。

「それは好みの問題でしょ?」

横で根岸が笑い、神代は苛立たしげな顔をしていた。


会場の一角では、高森が牧瀬に仕事の進捗を尋ねていた。

「ホラーを書いてます。大きくは変わりません。」牧瀬は淡々と答え、「恋愛とかファンタジーは不得手ですから。」と続けた。

「そうですか……なんだか怖い話を書いてらっしゃる。」高森は視線を外した。


会話が飛び交う中、テーブルには次々と豪華な料理が運ばれ、サービスはまるで高級ホテルのようだ。

注がれるワインは芳醇で、根岸は「写真撮ってアップしたいな」とスマホを取り出しかけたが、そばの黒服が制する。

「写真撮影はご遠慮を」


そんな雰囲気に不穏さを感じつつ、神代は「もし単なる集まりならよかったのだが……招待状には“新たな文学プロジェクト”とあった。

何かあるだろう。」と意味深に言った。

それに対し、守屋は「何か大掛かりな仕掛けがあるんだろうさ。それこそ面白いものになるといいよね。」と笑った。

神代は「やれやれ」と呆れて見せるが、実際には、月代や高森、牧瀬も内心ではその予測不能さに興味をそそられていた。

この会合から何が生まれるか、彼らにはまだ予測がつかなかったが。


こうして六人の作家たちは、それぞれの存在を知り合いながら、次第に豪華で不気味な会場の中へと誘われていった。

豪華でありながらも重々しい予感が立ちこめ、作家たちは思わず立ち話を再開することに。

傍で監視する黒服の警備員たちの冷然たる視線が、この集まりがただの社交場ではないと物語っていた。

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