3話 オーク

和人はあれから数時間歩きながら魔物を見つけては狩り見つけては狩りという常人にはあるまじき戦闘ペースで生命の命を奪っている

数にして既に三桁は超えている


ただどの魔物も和人にとっては弱すぎる

従って彼は今ものすごくフラストレーションが溜まっている


「……どいつもこいつもゴブリンゴブリンゴブリンゴブリンゴブリン‼︎あぁぁぁぁぁぁぁ!もっと強いやついないのかなぁ‼︎」


こんなことを大声で口走ってしまうぐらいには

しかしこの大声で近寄ってくる気配を感じる

気配の濃さから先ほどまで軽く捻り潰していたゴブリンではない

その答えはすぐに出る


和人から見て正面の木から突如豚の化け物が出てくる

3mもあり槍を持ったオークである

一般的に冒険者のDランクでなければ叶わないとされる存在であり、今日召喚されたばかりの勇者でも普通なら敵わない…普通なら

和人はそもそもが強者である、それもとびきりの

わざわざ自分から近寄ってきた強敵を目の前にして、もはや考えることはどう敵を蹂躙するかのみ


あぁぁ、いい密度だ、戦意が昂る、鋭く研ぎ澄まされる、もっともっともっともっと…

思えば自分よりスペックが上の生物との戦闘なんて初めてだ


そんな風に考えた瞬間和人の体が弾け出す

和人のレベルからしたら考えられない速度が叩き出されオークの眼前に躍り出る

オークは目の前の存在を叩き潰そうと槍を縦に振り下ろす

和人はそれを僅かな体重移動のみで躱しすぐさま胴を切り込みすぐさま離脱

僅かな時間で行われる命のやり取り

肌がひりつくこの感覚を心から求めていた


…あのオーク俺の剣が全く通らない、胴体は無しだな、なら脂肪の薄い部分を狙うしかないか

今度は俺の番だとばかりにオークが走りその勢いのまま槍を突き出す

その体躯から繰り出されるパワーはそれだけで木を薙ぎ倒す力を持っている

それに対し和人は剣に槍を合わせ後ろに受け流す

パワーは和人より上のオークだが所詮は低ランクの魔物、技術もクソもない

オークは槍を流されたことで無防備に和人の方に近づいてしまい背中を蹴られそのまま倒れる

その後ろから四肢の関節部分を切っていき動けなくなったところで目から脳に刃を届かせる

その瞬間体が光る、レベルアップだ


うーんなかなか楽しめたかな‼︎パワーは俺より上だったし一発まともに食らったら危なかったね、まぁ食らわんけど


それよりもレベル上がったっぽいし暗くなってきてるし今日はここで終わりだな、腹減ったし



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和人は近場の十分に大きい木に陣取りその下で火を起こす

どっかの動画サイトで見た弓切り式火おこしで火を焚きその中に木の枝にブッ刺したオーク肉を突っ込む

焼けるのが待ってる間にステータスの確認をする


霧雨 和人 16歳 魔人

Lv.9

HP 300 / 300 MP 600 / 600

攻撃力 70

防御力 70

素早さ 80

魔力 20


【スキル】:身体強化(神) 剣術(中)

【魔法】:風魔法(極)

【加護】:******


レベルはかなり上昇した

スキルも剣術なんてのが生えてきたので嬉しいのは嬉しいのだが、スキルの発動方法が分からない

なんせこの世界に召喚されてスキル関連の説明はほぼない状態で抜け出したからな

なので今までの戦闘は素の力と技術でやってきた

しかしどこかでスキルの発動の仕方を学ばなければいけない、俺がより強くなる為に

それに俺が魔人に変化?進化?したのも不思議ではあるのだが、まぁどうでもいいかとすぐに思考を放棄する


和人は知る由もないが、この世界の魔人はそもそもが人間の突然変異で生まれてきている

ある日を境に人間だったものが魔人に変化したのだ

ならば召喚されたばかりの勇者にもそれが適応されてもおかしくない

ちなみに人間は人間の子、魔人は魔人の子しか産めないので人間から魔人の子が生まれるなどはあり得ない


まぁ俺が魔人に何故変化したのかなんてどうだっていいな、それのおかげで強いやつと殺し合えるからな

それと明日からはこの馬鹿みたいに広い森の探索だな

強い奴がいそうな方にひたすら進むのみだ

オークも焼けたし今日はこれ食って寝るか


和人は知らない、今自分がいる森がどんなものなのか

世界の3分の1を占める超巨大な謎多き森、魔の森と呼ばれる危険地帯であることを

とはいえ知っていたとして何が変わるわけでもない

むしろ嬉々として突っ込んでいくだろう

和人は重度の戦闘馬鹿なのだから

今日は非常に満足したため気分よく眠れそうだと木の上で横になった和人は思った

明日はもっと楽しくなることを願って


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【?????】

そこは闇に閉ざされた世界

形あるものは存在せず、存在するのは過去の異物

そんな暗闇に閉ざされた世界で今彼女は歓喜に打ち震えている

自分が待ち望んでいた存在がついにこの世界に降り立った

自分の力の半分を注ぎ込みあの忌々しい女神の儀式に干渉した甲斐があった

今日この日この時この瞬間をもって、彼女の寵愛を受けし混沌の申し子が生まれ落ちた

暗闇の中で彼女は嗤う

世界が混沌の坩堝に苛まれることを願って



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【?????】

世界から魔人などという存在自体が汚物の塵を消す為に活動し、争いに終止符を打つ為に召喚した中に異物が混ざり込んでいる

そんな報告を受けたのは勇者召喚が成されてから半日が経過した時だ

これは大問題である

勇者の力を持った魔人などあり得ないにも程がある

何故こんなことが起こったのか大体の察しがつくが今はそれどころではない

早急に対策を打たなければ世界は終わる

いやそれよりも更に最悪が起こることも想定できる

それならばと部下に指示を出し自分も動くべく腰を上げる

愛する世界のために


世界は色々な思惑で動く

加速する世界、成るのは混沌か安寧か、もしくは……

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