青春
しゆ
6作目
「ゴォォォル!!
花渡第一高校に追加点が決まったぁ!!」
ボールがゴールネットを揺らし、観客がわぁっと盛り上がる。
「キャー!!花織ちゃん凄い凄い!!!」
私も飛び跳ねながら、黄色い声援を送る。
私は今、市営のサッカースタジアムでサッカーの試合を観戦している。
どうしてそんなところにいるかと言うと、今日の試合に花織ちゃんが出場しているからだ。
………………………………………………
「え?サッカー?」
「うん。サッカー部の友人に頼まれてね。今度の試合に、助っ人として出場することになったんだ。」
「へぇ~すご〜い!試合の日はいつ?私絶対応援に行くね!」
「今週の日曜日だったと思う。一途が応援に来てくれるなら百人力だね。」
「うん、任せて!!私全力で応援するから!!」
………………………………………………
という顛末があって、私は今花織ちゃんの応援団をやっているわけだ。
試合時間も残り少ないし、得点も3-1でリードしている。
このまま何事もなく進めば、こちらがリードしたまま試合終了だろう。
(今日も花織ちゃんは素敵だなぁ……)
花織ちゃんのチームの勝ちが濃厚になって、少し安心した私は花織ちゃんの勇姿に見惚れてしまう。
汗がきらきらと光って、いつもより3割増しでカッコよく見える。
こんなにカッコいいと、今日で花織ちゃんのファンがたくさん増えちゃうんじゃないかと、ちょっぴり不安になるくらいだ。
(あ、試合が終わったみたい)
私は、カバンからタオルとドリンクを取り出して花織ちゃんに駆け寄る。
「花織ちゃんお疲れ様!!とってもかっこよかったよ!!」
「ふふっ、ありがとう、一途の応援のおかげかな」
私が大興奮で駆け寄ると、花織ちゃんはニコニコしながら迎えてくれる。
「はいこれ、使って」
花織ちゃんにタオルとドリンクを手渡す。
「ありがとう一途。助かるよ。
試合も終わったし、今日はこのまま帰るけど、一途はどうする?
少しだけ待っててくれたら、一緒に帰れると思うんだけど……」
「分かった。一緒に帰りたいから待ってるね!」
私がそういうと、花織ちゃんはパッと笑って
「よし、じゃあ急いで着替えてくるよ」
と言って走って行った。
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試合が終わって、すっかり夕方になった会場のからの帰り道。
目に染みるくらいの夕焼けに灼かれながら、2人で並んで歩く。
「今日はすごかったね〜。花織ちゃんってば1ゴール1アシストの大活躍だったもん」
「チームのみんなもすごく頑張ってたし、一途も応援してくれたからね。
チームの力になれて僕も嬉しいよ」
花織ちゃんがはにかみながら笑うのを、可愛らしく思いながら眺める。
「こんなに大活躍しちゃったら、このまま部員にスカウトされちゃったりして」
私が冗談めかしてそう言うと、花織ちゃんは
「う〜ん、僕の力を必要としてくれるのは嬉しいけれど、部員にはなれないなぁ」
と肩をすくめる。
どうして?と尋ねると
「もともと、怪我をして出場出来なくなった子の代わりに今回だけ特別にって話だったし、それに……」
「実はね、今日の試合に出るのも凄く緊張していたんだ。
たくさんの人に見られながらプレイするあの緊張感を何度も味わうのはちょっと怖くてね。
サッカーをするのは楽しかったんだけどね」
と苦笑する。
恥ずかしいから、みんなには内緒だよ?と言って照れ笑いする花織ちゃんの姿が、なんだかいじらしく思えて、私はつい笑ってしまう。
「あははっ、そっかそっか〜。
花織ちゃんったら可愛いなぁ」
「でも、今日の花織ちゃんは堂々としてて、緊張なんか全く感じなかったなぁ。
サッカーもとっても上手だったし」
と褒めたてると、花織ちゃんは私の方を見て小首を傾げると、
「あぁ、それは……」
「今日は勝利の女神様が応援に来てくれていたからね。
女神様にかっこいいところを見せたくて、気合を入れて頑張ったんだ。
おかげで少し張り切り過ぎてしまったくらいだよ」
そう言ってふにゃっと笑う花織ちゃんの姿に、私は辛抱堪らず抱き着いてしまう。
「い、一途!?
ちょっと待って、僕今汗臭いから!
恥ずかしいよ!!」
そう言って顔を真っ赤にする花織ちゃんがたまらなく愛おしくて、私はさらにぎゅうっと抱き締める。
「花織ちゃんってば!ほんとに!ほんとに!!そういうとこ!!!可愛い!!大好き!!!!」
彼女の胸に顔を埋めながら叫ぶと、
私の頭の上にそっと温かい手が降りてくる。
「……僕も好きだよ、一途。
改めて、今日は応援に来てくれてありがとう。
君が見守ってくれていたから、僕も安心してプレイが出来たんだ」
そう言って、私の髪の毛をそっと梳いてくれる。
2人でくっついたまま、無言の時間が流れる。
今の私達の顔はきっと、今日の夕焼けの何倍も赤いんだろうなぁと、ふと思った。
青春 しゆ @see_you
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