道程
しゆ
3作目
「はぁ……」
ため息が漏れる。
どうして……?
私は悩んでいた。
ただ、何に悩んでいるのかは、実はいまいち分かっていないのだけれど。
何故か心が沈んで、気晴らしをしようといろいろ試してみてもダメで、そのことにまた落ち込んでしまう。
完全に負のループに陥っていた。
「これじゃダメだ!!」
どんよりと沈む気分を振り払おうと、私は気合を入れた。
今日はこの後、花織ちゃんと会う約束があるのだ。
こんな顔を花織ちゃんに見せたくない。
花織ちゃんは優しいから、きっと心配させてしまうだろうし、せっかく会えるのにムードを盛り下げたくもない。
何より、暗く沈んだ顔を彼女に見られたくない。
花織ちゃんには、可愛い私だけを見ていてほしいから。
カーディガンの裾をギュッと握り、パッと離す。
そして放課後になる。
──────────────
「花織ちゃん!やっほ〜!!」
彼女の背中を見つけて、声をかける。
ゆっくりと彼女が振り向く。
「やぁ、一途」
夕焼けに灼かれるように、紅く染まった笑顔で彼女は笑う。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった!待たせちゃった?」
「いや、そんなに待っていないよ。
さぁ、行こうか」
そう言って歩き出そうとした花織ちゃんは、ふと、動きを止める。
ふむ……とこちらを見つめたあと、
「一途、今日何かあった?」
突然の言葉に、声が上ずってしまう。
「な、何もないよ?」
花織ちゃんはふっと息を吐いて目を閉じると、私の手を引いて歩き出した。
──────────────
「か、花織ちゃん!どこに行くの?」
花織ちゃんは無言で歩き続けて、中庭のベンチで止まった。
「座ろう」
花織ちゃんは、ベンチを示して言った。
私が何となく動けないでいると、
「座って」
と再び促される。
──────────────
「もう一度聞くけれど、一途、今日何かあったの?」
2人でベンチに座ると、花織ちゃんは早速切り出す。
「何もないよ」
と誤魔化してみようとしたけど、
「嘘をついても、僕にはお見通しだよ
……ずっと、一途を見てきたんだから」
ダメだ。完全に見抜かれてしまっている。
私は目を伏せて叫ぶ。
「なんにもないってば!!なんにもないの……!!」
……あぁ、私は、なんて可愛くないんだろう……。
花織ちゃんは私を心配してくれているのに、こうやって喚くしか出来ないなんて、なんて醜いんだろう……。
「一途」
スッと、芯のある声で名前を呼ばれて、
私は思わず顔を上げる。
花織ちゃんが、まっすぐ私を見つめているのと目が合う。
花織ちゃんの手が伸びてきて、私の頭を撫でようとするから、私はイヤイヤする子供のように逃げる。
すると、花織ちゃんの手が私の肩を抱き寄せた。
もう、逃げられない。
「一途、少しだけ話をしようよ」
その花織ちゃんの声が、あまりにも優しくて、私は……
「まず最初に、これだけ言っておくね」
「無理して元気になる必要はないんだよ、一途。」
「苦しい時は、苦しんで良いんだ。
悲しい時は、悲しんで良いんだよ」
「たくさん苦しんで、ゆっくり癒していけばいい。
僕達には、時間があるんだから」
「一途が話したくないなら、僕はこれ以上は聞かない。
だから、これから僕が話すことは、もしかしたら的外れな内容になってしまうかもしれない」
「それでも、聞いてくれたら嬉しいな」
「僕はね、一途。
何かに迷ったり、思い悩んだりした時は、昔の通学路を歩いてみることにしているんだ。」
「未来のことは誰にも分からない。けれど、過去は違う。
今までに頑張ってきたことは、けして揺らぐことはないんだ。
だから、壁にぶつかって立ち止まってしまった時は、一度前を見るのをやめて、後ろを振り返ってみる」
「歩き慣れた道で、今までに頑張ってきたことを思い返してみれば、たくさんの努力の欠片が、背中を支えてくれるんだ」
「もちろん、僕と一途は違う人間だから、僕と同じやり方で心が晴れるかは分からないけれど」
「それでも、少しでも、一途の力になりたいと思うよ。
だから、僕の前では、苦しいことも、悲しいことも隠さなくていい」
「一途が、僕に弱っているところを見せたくないなら、もちろん無理して教えてくれなくてもいい。
僕も、無理強いするつもりはないよ」
「だけど、一途が少しでも僕を頼ってくれるなら、もっと僕を信じてほしい」
「だって……僕は君の恋人なんだから」
そう言うと、花織ちゃんは穏やかに微笑んで、もう一度優しく頭を撫でてくれた。
私は、これ以上何も言えそうになくて、震える身体を預けて静かに目を閉じた。
道程 しゆ @see_you
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