004 魔法学院入学初日:第1部
正面玄関前には、中央の校舎、つまり教室のある建物へ直接通じる通路がある。一階には、壁際に靴箱がずらりと並んでいる。
二階、通路の突き当たり左手に教室に入った。ネヴィラとシャルロットと一緒だ。教室は200㎡の広さに、20脚の机が並んでいる。
様々なグループの生徒たちが、ぎっしり座っている。ネズラ魔法学院の制服を着ているせいか、ネヴィラとシャルロットと一緒で、上品に教室に入っていく自分が、少し嬉しかった。
すると、一瞬にして教室は静まり返った。私たちの足音だけが響き、すぐに全員の視線が私たち三人に向けられた。男子生徒たちは、ネヴィラとシャルロットを、羨望の眼差しと赤面した顔で見ている。哀れな光景だ。
女子生徒たちも、私を同じように見ている。
私たちは、そんな視線は気にせず、空いている席を探した。三列目の、ある女子生徒の隣が空いていたので、私がその生徒の右隣に、ネヴィラとシャルロットが左隣に座った。
その女子生徒は、いまだに私を羨望の眼差しで見つめている。こっそり見ると、彼女は隣の女子生徒と話をしている。耳打ちしているのだ。いわゆる女子トークだろうか。だが、私の優れた聴力ですでに会話の内容は分かっている。
「ねえ、私の隣に座ってるんだけど…どうしよう?」
「ラッキー!私も隣に座りたい!」
彼女たちが話していたのは、そういうことだった。学院の外では、ボロボロの服を着ていただけで嫌な顔をされたのに、今は少し良い服を着ているだけで、羨望の眼差しで見られるなんて…世間の狭さよ。
そんなことを思っていると、その女子生徒が話しかけてきた。
「す…すみません。」
「ん。」わざと無視して、不機嫌さを態度で示した。
「きゃあ!怒ってる顔も可愛い!」
その時、左側から殺気を感じた。振り返ると、ネヴィラが鋭い視線で私を見つめていた。
「ねえ、金髪のモテ男。何か悪いことする気なら、やめておきなさい…よ。」ネヴィラはそう言って、私を睨みつけ、いつでも殴りかかろうかという構えの小さな拳を握りしめている。
「落ち着けよ、ネヴィラ。そんなことするわけないだろ。」
「ふーん…そうだと良いけど。」彼女は左を向いた。
何で急に口調が変わったんだ?嫉妬とか?普段の奔放で明るい彼女とは、また違った可愛らしさだ。
シャルロットも、赤面しながら頬に手を当てて、必死にそれを隠そうとしている。
それを面白く見て、少し笑った。すると、前方の席で、ピンクの髪とピンクの瞳の女の子が、私を可愛らしい眼差しで見つめているのが見えた。
それは、羨望ではなく、話しかけたいと思っているようだが、何かをためらっているような表情だ。
私は笑顔で、左端の最前列に座っているその女の子に手を挙げた。すると、彼女は全身を震わせながら、顔をそむけた。
一体、何が問題なんだ?
その奇妙な始まりからしばらくして、大人の男性が教室に入ってきた。生徒たちは全員、同時に立ち上がった。
男性は、見た目からして30歳前後だろうか。鋭い眼光で、周囲に威圧感、いや、畏怖の念さえ感じさせた。
先生だな、と分かった。
彼は大きなノートを講壇の机に置き、「私はトクダ先生です。これから、魔法の基礎を講義します。」と言った。
「先生、よろしくお願いします。」生徒たちは全員、同時にそう言った。
トクダ先生は軽く会釈し、着席を促した。
私はネヴィラに近づき、耳打ちした。「ネヴィラ、さっきの挨拶は何だったんだ?全ての先生に対して、あれをするのか?」
「普通はしないけど…あの先生は特別よ。ものすごく厳しい先生で、毎年多くの生徒が落第する原因になっているって聞いたことがあるから。」
マジかよ!
ちょっと待って、今気づいたけど…ネヴィラ、一体どうやってそんな情報を知ってるんだ?入学試験で一緒になって、ずっと一緒にいたはずなのに。一体どこでそんな情報を入手したんだ?
「ネヴィラ…」と尋ねようとしたその時、トクダ先生から鋭い視線を感じ、すぐに黙った。
この学院の先生たちは、一体全体…ローザ先生といい、この先生といい、みんな怖いな。
ともかく、トクダ先生は準備を始めた。
魔法の杖を取り出し、壁に向かって魔法を唱えると、巨大なスクリーンが現れた。
そして、講義が始まった。
「魔法は、私たちの周りの全てに存在する。特定の物事に限定されるものではない。
植物、鉱物、動物、そして人間にも存在する。
魔法は、それが宿る対象によって、形や状態を変える。しかし、その本質は決して変わらない。
魔法を感じ、それを操る能力は、人によって、その強弱が異なる。
強い者も弱い者も、皆、自分の中に魔法を宿している。そして、周りの全て、空気、大地、目の前にある生き物…全てに宿る魔法を感じ取ることができるのだ。」
「そして、次のポイント。魔法の属性とは何か?」
「それは簡単だ。主要な属性は四つ。火、水、風、土。そして、これらの属性から、さらに多くの属性が派生する。雷を操る魔法使いもいれば、音を操る魔法使いもいる。鏡や剣を操る魔法使いもいるだろう。無数の魔法の属性があり、それは神の意思、あるいは、我々には計り知れない方法によって、得られる。」
教室に入ってきた時にも見かけた男子生徒が手を挙げた。
「先生、珍しい魔法はありますか?つまり、変わった属性の魔法を使う魔法使いはいるんですか?」
「非常に稀な魔法もある。空を飛び、他の惑星でさえ生きることができる『重力魔法』などだ。」
「先生、闇の魔法はありますか?」別の生徒が尋ねた。
トクダ先生は、一瞬眉をひそめた。「闇の魔法…か?」
「学院の図書館には、闇の魔法について書かれた本があるが…それを操る人間は、歴史上、確認されていない。」
「さらに、闇の魔法には、もう一つの呼び名がある。『凶兆の魔法』だ。なぜそう呼ばれるか分かるか?」
「それは…大災害を引き起こした悪魔が使っていた魔法だからです。」
生徒たちは皆、驚いた様子だった。
トクダ先生は、様々な魔法の種類や、その他多くのことを説明していった。これらは、過去の私にとっては、子供でも知っている当たり前のことだったはずだ。だが、今の私だけが、これらのことを知っている。だから、彼らを責める気にはなれない。
約一時間後、授業が終わると、生徒たちは教室を出て行った。
「おーい、金髪。」
教室のドアの前に、ローザ先生が立っていた。「え?ローザ先生?ヒマリ先生…いや、あの。」
私は彼女の足元から上を見て、特定のポイントに集中した。うん、さっきより大きい。私のエクスカリバーをアーサー王が抜く前に、抜くのに十分な大きさだ。だが、たった一時間で、そんなに大きくなるものなのか?それとも、試験の時、あのゆったりとした服の下に、最初からこんなものがあったのだろうか?
彼女は私を怒った目で睨みつけた。「どこを見ているんだ?」
「すみません。」と私は即座に答えた。
ローザ先生はため息をつき、「まあ、いい。これを受け取れ。」と言った。
金色のカード。VIPと書かれている。「ん?これは何だ?」
「あの時、王宮騎士団第四位との約束だ。特権だ。」
「ほ…本当だ…あの。」
「だが、これだけでは何もできないわ。」
「何ができるんですか?」
「図書館と研究室への入室許可だ。もちろん監視下にあるが、これ以上はできない。」
いや、十分すぎるほどだ。これで、ようやく目的の情報収集ができる。
「ありがとうございます、ローザ先生。」
「ところで、どうやってそんなに早く治ったの?」
「ああ、それについては…泣きの女王が、私の体から呪いを解いてくれたんだ。」
「呪い?ノールヴィアの槍の…?」
「ええ、槍の副作用。持ち主の生命力を奪う呪いを発動させる。」
なるほど、そういう伝説の武器か。持ち主を選ぶ武器。
だが、これは悪魔の武器だ。過去には、似たような武器を使う戦士たちの物語を聞いたことがある。
一度使えば、持ち主の魔力と生命力を奪い続け、最終的には、持ち主を悪魔に変えてしまう。
だが、子供の頃、悪魔の武器に関する恐ろしい理論を聞いたことがある。
魔王カモイは、最強の武器であるクレイマイラツリーに加え、数多くの悪魔の武器を作ったという。
ノールヴィアの槍も、その一つかもしれない。だとしたら、ローザ先生の運命は…
「おい。」
いや…そんなはずはない。子供の頃の噂話だ。それが真実とは限らない。だが、調べてみる必要がある。
「おい、聞こえているのか?」
「…はい…聞こえています。」
どうかしたの?急に黙り込んだけど、大丈夫?」
「ローザ先生、あの槍はもう使わないでください。」
「はあ?あなたに関係あること?」
「先生、冗談じゃないんです!先生の妹さんのこと、そして先生の命がかかっているんです!だから、もうあの槍は使わないでください!」
私は頭を下げて懇願した。こんなに必死になったのは初めてで、少し恥ずかしい。だが、これは非常に重大な問題なのだ。
ローザ先生は戸惑った。「ど…どうして急にそんなことを…?」
「後で説明します。でも、その前に確認したいことがあります。図書館は開いていますか?」
「ええ、開いているわ。司書長のシオリに連絡して、あなたを案内させましょう。」
「ありがとうございます。」
ネヴィラとシャルロットは、他の生徒たちと楽しそうに話していた。
「この地図を持って、青い線をたどって図書館に行きなさい。」
私は頭を下げて、図書館へと急いだ。ローザ先生は「一体どうしたんだろう…」と呟いているのが聞こえた。
目の前に、学院全体の地図が表示された。図書館の位置が、地図上に示されている。西側の建物だ。
入口ではなく、東側の壁の特定の場所に、何かがあるらしい。地図のおかげで、正確な場所を特定できた。
窓の下、ちょうど5cmのところに手を当て、少し魔力を通すと、青い魔法陣が、まるで異世界への入り口のように、輝きながら出現した。
魔法陣を抜けると、白髪でピンクの瞳の眼鏡をかけた女性がいた。「金髪の人?」
「はい。シオリさん、図書館へ案内してください。」
彼女は軽く会釈し、先導してくれた。
シオリさんは、穏やかな雰囲気で、声も足音も、顔つきも、全てが静かで、魔力量も微弱に感じられた。わざと隠しているのだろうか?
私たちは薄暗い通路を歩いた。空気は、非常に淀んでいる。
シオリさんが持っているランプの光だけが、頼りだった。
途中で、彼女は立ち止まった。「何で止まったんですか?図書館はどこですか?」
彼女は人差し指で下を指さした。「これは秘密にしておいてください。」
よく分からなかったが、私はうなずいた。
「カードをください。」
「ローザ先生からもらったやつですね。はい、どうぞ。」
シオリさんは金色のカードを見て、眼鏡が緑色に光った。そして、カードに刻まれた「図書館」の文字も、同じ緑色に光った。
「許可します。どうぞ。」
彼女は指を噛み、血を地面に落とすと、私たちの足元に光が現れた。
よく見ると、それは円形の魔法陣だった。
私たちは、その魔法陣の中へ吸い込まれるようにして、地下へと降りていった。そして、ついに図書館に到着した。
地下へと降りていく途中、無数の書棚が見えた。数えきれないほど、果てしなく続いている。見上げると、天井はどんどん遠ざかり、やがて闇に消えていった。
そして、無事に着地。「これが図書館…!」
広大な空間には、無数の書棚と本が、果てしなく一直線に並んでいる。
驚いていると、静かな声が聞こえた。「さて?何を探しているのですか?」
「ええと…特定の本を探しているんです。悪魔の武器について書かれた本を。」
彼女はしばらく目を閉じ、そして言った。「見つけました。」
すると、遠くの書棚から一冊の本が飛び出し、シオリさんの手元に飛んできた。
「どうぞ。悪魔の武器について、詳細に書かれた本です。」
「ありがとうございます。少しの間、席を借りても良いですか?」
彼女は軽く会釈した。「どうぞ、ごゆっくり。」
私はシオリさんの前にある小さな机の前にある椅子に座った。
本は52ページ。悪魔の武器に関する詳細な情報が書かれている。
私は本を開き、槍に関する情報を探した…
「ディアブロの剣」
「知恵の眼」
「ヴァノム騎士の盾」
見つけた…
「沈黙のノールヴィアの槍」
悪魔の呪いの槍。森やダンジョンを彷徨い、強者を求めて誘惑し、憑依して操り人形にする。元々は、悪魔の軍勢を強化するために作られたもの。
槍に憑依されると、持ち主の体に槍の紋様が刻まれる。それは呪いの印で、最初は薄暗い赤色だが、呪いが強まるにつれて、赤く輝きを増し、刻まれた槍の柄から中央の槍頭まで、縦に広がっていく。
これはまずい。
私は驚いて立ち上がり、呪いを解く方法を探そうとした。だが、その前に…
「シオリさん、外に戻りたいんです。ローザ先生にすぐに会わなければ。」
「かしこまりました。」
彼女は手を上に上げると、魔法陣が下に移動した。
本を読みながら、「出口の行き方は分かりますね。急いでください。」と言った。
私は来た時と同じようにして、西側の建物から外に出た。
そして、中央の校舎、教室へと急いだ。
ネヴィラが、大きな声で言った。「あ!どこに行ってたの?」
ローザ先生は、廊下を歩いていた…
私はネヴィラとシャルロットを無視して、先生に駆け寄った。
「先生!」
ローザ先生は振り返り、息を切らせている私を見た。「ど…どうしたの?」
「先生と、二人っきりで話したいことがあります。」
「何で?」
「説明します。でも、まずは人がいない場所に行きましょう。」
「分かったわ。私の部屋は廊下の…ちょっと待って。」
私は彼女の手を取って、右側の部屋へと走った。
彼女の部屋は、とてもシンプルだった。ベッドと壁掛けテレビがあるだけ。服が散らかっていて、かなり汚い。
…今はそんなことじゃない。
「それで…何で私をここに連れてきたの?何の話?」
私はベッドに座り、目を閉じ、深呼吸をした。「先生の背中を見せてください。」
「はあ!?」彼女は叫んだ。
「何をするつもり?変態金髪!」
「違う!確認したいことがあるんだ!」
私は続けた。「先生は、槍の呪印が体に刻まれているはずです。それを確認したい。」
「でも…」
「お願いです、先生。真剣なんです。他に何も考えていません。」
彼女は赤面しながら、部屋を見回した。
「分かった…でも、変な真似はしないでね。」
「誓います。」
彼女は服を脱ぎ、ピンクのブラジャーが姿を現した。だが、私はそれを無視した。
私の視線は、彼女の裸の背中に釘付けになった。そこに、槍の紋様が刻まれていた。
下部は赤く輝き、縦に中央に向かって広がっている。その部分は、上部よりもはるかに赤く、三つの槍頭にはまだ達していない。
私は手を伸ばし、彼女の背中を触れた。
「きゃあ!」
「落ち着いて。集中しているんだ。」
彼女の奇妙な声を聞きながら、私は紋様を下から上に触れていった。
この魔力…よく知っている魔力だ…いや、決して忘れることのできない、邪悪な魔力だ。
あの時、隠れて震えていた私の体。あの時以来、この邪悪な魔力は、私の心に刻み込まれている。
魔王カモイの悪魔の魔力だ。
彼女の背中の紋様は、魔力レベルが異なっていた。下部は強く輝き、そこから上へと魔力が流れ込んでいるように感じられた。まるで、魔力の通路のようだった。
上部は、赤みが薄く、魔力も下部より弱かった。
「先生、槍を何回使いましたか?」
ローザ先生はいつもの冷静さを取り戻し、真剣な表情で言った。「冒険者として二回。そして、試験の時にも一回。」
つまり、三回使ったことで、紋様がここまで広がったということか。あと三回使えば…
「もう終わりです。服を着てください。」
ローザ先生は服を着た。「何か分かりましたか?」
私は真剣な表情で言った。「先生、もう一度あの槍を使うと…死んでしまいますよ。」
彼女の目は、驚きで大きく見開かれた。
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