第2話 出会い編
四月。高校生活二年目の春も、すでに二週間が経過していた。
クラス替えで隣の席になった彼女。
中性的で誰からも好かれる彼女は、どうやらかおる、という名前で友人らしきクラスメイトから呼ばれていた。
何の変哲もない、隣の席になってからまだ一度も会話したこともない、クラスでちょっと人気者のただのクラスメイト。でも、私ななんだか彼女から目が離せなかった。
例えば、きざなセリフを何の気なしに言ってしまうとこ。
例えば、スポーツも得意で、勉強も得意で、どんな時でもかっこよく活躍しちゃうとこ。
実は、意外とかわいいものが好きで、ピンク色の文房具ばかり使っているとこ。
何気ない気付きが、毎日毎日少しずつ増えていくたびに、ますます目が離せなくなる。
それは、とある日の科学の授業だった。
小テストの答案を交換して互いに採点する授業。彼女から手渡された答案用紙には、保科 香織と丸っこいかわいらしい文字で名前が書かれていた。
「かおる、ってこういう字で書くんだ……」
思わず漏れ出た独り言。拾われるはずのない声は、彼女がすくいあげた。
「いっつもかおりって間違えられちゃうんだけどね。花のように可憐で織姫様のように愛らしい人になるようにって意味でつけられた名前なんだ。あんまり僕には似合わないよね」
「そんなことない! 可愛いと思う、かおるちゃん」
自分でも思ってないほどの大きな声が出た。かおるちゃんもびっくりしたのか、きょとんとした表情をしている。何やってんだ私、こんな大声出すなんて。
びっくりした顔のあと、笑顔になった。それは私が見た初めての表情。いつもかっこいい彼女も、笑った顔はこんなにもかわいらしい。また一つ、気づいてしまった。
「ありがとう、あんまりかわいいって言ってもらうこと少ないから、うれしいな。でもちょっと恥ずかしいね」
満開の花のようにはにかむ彼女。
でも、今度はこっちが驚く番だった。
「いち、いや、いとちゃんか。いとちゃんもかわいい名前だね、すごく似合ってる。はい、満点だよ。はなまるよくできましたっ」
耳まで赤くなる。ニコニコと笑顔を向けてくる彼女を直視できない私は、急いで採点を済ませるのだった。
朝。思ったより早くついてしまった教室に彼女はいた。朝日が彼女を照らし、なんだか輝いて見える。
こちらに気付いた彼女は、頬杖をしていた手をこちらに小さく振る。
「やっほ、いとちゃん」
例えば、普段かっこいいとこばかりな彼女も、笑顔になると世界で一番かわいいところが好き。
例えば、金色の髪が風でなびくと、いい匂いがするところが好き。
実は、自分のかわいらしい名前を似合わないと思っていても、褒められると嬉しくなってしまうところが好き。
「やっほ、かおるちゃん」
私は、恋をした。
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