第2話 ステータス

 

 ゴブリンらしきを倒すと、黒い粒が集合したような煙にまとわりつかれ、激痛を受けた。


 正直、安心感しかない……。


 こうした不思議現象が起こってくれるなら、子供のコスプレじゃなかったってことだ。ゴブリン確定で良さそう。この黒い煙も、魔素かマナとかだろ?とか思ってしまう。激痛だし、毒の可能性もあるかもだけど。倒した後で毒? そんなの1%ぐらいの確率だろう。



『…………#……=%&』


 脳内のノイズに音が混じり始めた。意味は理解できないままだ。頭の血管が切れたりしないことを祈るしかない。


 ゴブリンの死体が全て黒い煙に変換されていき、それがこっちに向かってくる。……おかわりですか? まとわり付かれ、体の中に入って来ようとしてみえた。



「かはっ!?」


 あまりの痛みに目を見開く。周囲の音が止まった。動きも止まった。時間が止まってる? 体は動かなかったが、痛みも止まっていた。


 もっといえば目が動かなかった。まばたきすらできない。怖い。視線を動かせない。やばい。さらに呼吸もできなかった。少しパニック。……しばらくその状態が続いた。なんも動けないけど、平気っぽい、のか?



『なんだ、これ? どうすりゃいいんだ?』


 イベント待ちで停止してる? 何をすればいい?


 割と恐怖なんだけど、ゴブリンを殺したのに比べてしまうと、そこまでじゃないというか。一番怖い部分は通過した後だ。


 モンスターを倒して、魔素だかマナだかを取り込んだ。順応が始まってて痛みがある。この次は? 定番だとアレだよな。



『ステータス、ステータスオープン』


 反応なし。


『システム、システムメニュー、メニュー、……鑑定』


 ――ブンッ


 ビンゴ。鑑定でステータス画面らしきが出てきた。

 いわゆるステータス画面などの強化現実っぽいインターフェイスは、基本的に仮想現実の中でしか発生しないものだ。世界線を移動したっぽいが、ここは現実のはず。仮に魔法で再現してるとするなら、それと分かる可能性が高い。


 しかし、今の時間停止、もしくは、時間加速状態であることを考えると、このステータス画面は『脳内だけで発生している』と考えて良さそうだ。頭の中で聞こえたノイズもあったし、状況は一致している。



『あー、ステータスねぇ……』


筋力 10

体力 10

芸力 10

知力 10

魔力  0

意力 10

幸運 10


鑑定


ステータスポイント:3

スキルポイント:5

 

 スキルに鑑定があるな。これのお陰でステータスが見られたわけか。逆にいうと、これがなければ『見られなかった』ということか?


 芸力は珍しいな。意力は精神力のことだろうか。全部10と言いたいところだが、魔力がゼロになっている。


 ステータスの芸力をさらに鑑定してみたが何も起こらなかった。詳細不明と。


 ゲームでありがちなステータス。『普通だな』と言いたいところだけど、よくよく観察してみると、割とヘンかもしれない。


 上から筋力と体力で、これが物理攻撃と物理防御っぽいのはわかる。このパターンだと、魔法攻撃と魔法防御が並んでいた方が自然だ。なのに、知力と魔力が並んでいる。この場合の知力ってなんの値だろう? 不明。


 魔力は0なのに、意力が10ある。魔力がないから魔法攻撃力がないのは自然として、魔法防御力は意力の10あるのかどうか。不明。


 芸力が芸の力、言い換えて技術力だとすると、いわゆる器用さ、DEX(デクスタリティ)なのかどうか。それによくある敏捷値、AGI(アジリティ)がないのはどうしてだろう? ここが一緒くたなのか、単にステータスに反映されていないのかどうか。やはり不明だ。

 

 もっと言えば、俺個人はこんなバランス型の人間ではない。ここから考えられるのは、これが補正値って可能性だろう。筋力に10ポイントの補正が掛かりますよ、とかね。だとしたら、筋トレした方が良いかもしれない。


 ステ振り(ステータスポイントの振り分け)は、極振りかバランス振りか、間をとってメリハリつけたりするかどうかってなる。これは個人的にバランス型にならざるを得ないだろう。仲間がいなきゃソロで活動するしかないからだ。


 ゼロが気に入らないので魔力に1ポイント振った。残り2ポイント。レベル表記がないので、次回レベルアップ時に引き継ぐか分からない。情報不足。初期は使い切っておくのが安全だろう。うごごご。幸運に突っ込みてぇ~。大人しく筋力に2ポイント振っておいた。魅力値ってないの?


 スキルポイントは、当然にスキルを選ぶものだろう。

 スキルは? ……いっぱいあるのね。よし、がんばって探そう。目は動いていないが、スクロールしてくれる。使いにくさはない。逆に凄いまである。


『アイテムボックス~、インベントリ~、異次元収納~』


 たっぷり3回確認して、なかった。終わった。解散!

 魔法で10ポイントのスキルとか普通にあったので、スキルポイントは蓄積できるので間違いない。今すぐに選ばなくても大丈夫なはず。



『そろそろ戻ろうか……』


 ゴブリンに刃物で殴られてた女性のフォローが必要だろう。事が起こる前に助けられなかった。恥ずかしい。慌てまくってしまった。


 特にゴブリンを殺す以外の選択肢を思い付かなかった点がね。ダメダメすぎる。

 万一を考えて、殺したくなかった。だから反応が遅れた。ゴブリンの攻撃を阻止するとか、押さえつけるとか、殺す以外にも無数の選択肢が存在してたはず。それを、ゴブリンならば殺さなきゃみたいに思い込んでしまっていた。0か1が全てじゃないのにね。本当に恥ずかしい。無能で申し訳ない。



『あれっ?』


 目は動かせないままだ。しかし、視界の端にゴブリンらしき緑色が見えている。まだいるじゃないか。……どうする? どうもこうもない。やるしかないだろう。


 またスキルの一覧を呼び出し、選び直した。しばらく掛かって準備を終える。


 ステータス画面から抜けて、元の時間の流れに復帰しなければならない。どうやればいいんだろう? ……なぜかステータスの名前欄に視線が向いた。日本人の自分の名前が書いてある。とりたてて珍しくもない。でも記憶を読み取ったりしてそう。



 答えは、知っている。俺が俺である限り、さっきのような失敗を繰り返すだろう。無様な失敗で笑われるぐらいならいいが、無駄な犠牲者を出すのは間違っている。絶対にだ。



『名前を変更』


 英雄的行為を成すのならば、英雄の人格が要る。それには英雄の名前であるべきなのだ。名は体を現す。



『カタカナで、ジン』

 

 それが自分にとって、最も英雄的な名前だった。

 

 

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