第18話 ブルーブラッド
ムチがジャックの皮膚を切り裂く。かすり傷だ。彼が構わず進む。クイーンがさらにムチを振るう。一振りするたびにジャックは切り裂かれ傷ついていく。兄弟が傷つくたびにクイーンの心も傷ついていく。
〈止まって、止まってよ!〉
心の中で願いながらさらに振り上げる。
しかし、その腕が振り下ろされる前にジャックの手がクイーンの腕を掴んだ。
「このっ!」
まるで万力のような締め付けだった。クイーンの筋力も常人以上。けして非力ではなかったが、ジャックに比べれば大人と子供だ。
手からムチが零れ落ちる。空いた片手で殴りつけるがジャックは微動だにしない。
クイーンの体が回った。大きな手がクイーンの体を掴んで床に引き倒す。
ホワイトがクイーンの拘束を解こうとジャックに銃を向ける。
「諦める頃合い。大人しくして」
背後から女の声。ホワイトはそちらに銃を向けて引き金を引くが、腕が掌底でかちあげられ狙いが逸れた。
前髪の一部が白くなった女はホワイトの腕を掴み捩じり上げ組み伏せた。
乾いた拍手の音が響く。
「見事。二人ともよくやった」
カダスマが勝ち誇った顔でクイーンとホワイトを見た。
「どうだね。さすがにこれでもう立場を理解したのではないかな二人とも」
「誰が!」
クイーンは老人の真っ白な顔を睨みつける。
「ふふん、強情だ。それならば否が応でも従う運命にあると思い知ってもらおうか」
カダスマはどこからか小さなナイフを取り出した。よく研がれた刀身を自身の薬指にあてがい、ナイフを軽く引いた。。指先から赤い雫が湧き出す。
突然の自傷行為に戸惑いを隠せないクイーンの鼻下に老人の血液が塗りつけられた。
〈キモイキモイキモイ!〉
老人の謎めいた行為にクイーンは全身の鳥肌がたつのがわかった。怒りの感情にさらにおぞましさも追加された。
「こんな気持ち悪いことして何のつもり。動物みたいにマーキングでもしてるわけ?」
言いながら、クイーンは身をよじった。自身の内部で何かが蠢いていた。身体が熱を持つ。これまで経験したことのない感覚が湧き上がる。心と身体が分断されていく。
「……何を、したの」
呂律が回らない。外界と関わるための道具であるはずの肉体が自身を束縛する檻となっていた。
「さっき、不活性状態だったプログラムの話をしたね。あれはね、わたしの体に流れる血液をトリガーとしてその機能を発動させるのだよ。今わたしは君に跪くように命令している。どうだい、体は動かしてみなさい」
ジャックが拘束を解く。すぐさまクイーンは飛び掛かろうとした。
「……⁉」
体が動かなかった。視線をカダスマから外せない。老人の紡ぐ一語一語がクイーンに隷属を強いている。
「よしよし、機能は良好なようだ。次は立ち上がりなさい」
その言葉を合図に、クイーンは両足で床を踏みしめた。握りしめた拳がぶるぶると震えている。老人の言葉を聴かないようにしても、その声は鼓膜を震わせ脳みそに浸透してくる。
「殺してやる。絶対に……殺してやる!」
「まだ口がきけるのか。少しだけ驚きだが、それもじきに終わりだ」
カダスマがクイーンに背中を向けた。
体が動く。チャンスと思ったクイーンは今度こそと駆け出そうとした。しかしそれはジャックによって再び阻止された。
「ジャック! 彼女を躾けてやりなさい! 手荒でいい。最悪、手足の一つ二つなくても構わんぞ! 胴体さえしっかり残っていればいいのだからな! ハッハッハッハア!」
高笑いを響かせながら、カダスマはカムノを伴い部屋から出て行った。残っているのは、クイーンとジャック。そして女護衛者アッシュと彼女に拘束された状態のホワイトの四人だけとなった。
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