第17話 平行線2
「なにっ!」
しかし弾丸はカダスマの皮膚を貫通せず表皮で運動を停止していた。
「残念だったね。その銃の口径では無理だ。狙いはよかったのだが」
カダスマはおのれの胸の皮膚に沈んだ弾丸を指で摘み出し、照明にかざしてホワイトを挑発する。
「もういいだろう。諦めて居場所を教えてくれ。そうすれば、君と私の仲だ、命は保証する」
「答えは変わらない。それに、ヒメコならすでに逃げ出している頃だ。我々がおしゃべりしている間にな」
「余計なことを…… いや、そこにいるのは?」
ホワイトの言葉に次の動きを考えようとしていたカダスマだが、ホワイトの背後に視線を向けて黒一色の目をぱちくりとさせた。
ホワイトも背後の気配に振り向く。見間違えるはずもない金色髪の少女が立っていた。
「ヒメコ、どうして逃げなかった」
逃がしたはずのクイーンが自分のすぐ後ろに立っていた。討たねばならない敵がいることすら忘れ、ホワイトはまだここにいる理由を訊ねた。
「二人を置いていけるわけないじゃない」
少女は呟きホワイトに並んだ。
「それよりも本当なの? あたしたちがこの気味の悪い奴の子どもだって」
「そうだよ。私が君のパパだ」
カダスマは迎え入れるように両腕を広げた。
「そう、あんたが」
クイーンは身を低くして飛び出した。狙いはカダスマだ。拳銃の弾丸が用をなさなかったのを見ていた。それならば肉弾戦はどうだ。目算もなにもなかった。ただ目の前に立つ元凶を始末するのだという強い衝動に突き動かされて行動した。その手が指が、カダスマに届かんとする。
しかしそれを阻む者がいた。どこからか青白い腕が伸びて、カダスマをクイーンの攻撃から守った。
少女がその腕の持ち主の正体に気づくのに、そう時間はかからなかった。
「よくやった。状態は良好のようだな」
護衛の肩を軽く叩いてから、カダスマはクイーンたちに紹介を始めた。
「紹介しよう。彼こそは我が心強き護衛。最強のベータだ。どうだいヒメコ、離れ離れだった兄弟の感動の再開だ。見違えただろう、感想を聞かせてくれ」
殺意が人の形を模倣してそこにいた。クイーンとホワイトはそんな印象をうけた。眼前の男が自分たちの探していたジャックであることは間違いないが、彼はなんらかの処置を加えられたのか、その口には猛犬に装着するような口枷がはめられていた。その目から知性は失われ、動物的本能のみが宿っている。
「彼にいったいなにをした」
「適切な処置を施しただけだよ。元々、わたしの子どもたちのDNAにはプログラムを仕込んであった。仮にもし、彼らが自らの自由意思に基づき親である私に反逆などした場合の予防措置さ。眠っていたそれを活性化させ、その結果はご覧の通り。散々に暴れてくれたがすっかり大人しくなったよ」
「プログラム! どこまで弄べば気が済むんだ!」
「何度も言わせるな。所有物をどうしようとそれは所有者の勝手、文句を言われる筋合いはない」
平行線。考え方の相違。水と油。彼らが交わることはありえない。
「だとしても……」
ホワイトがなおも言葉を交わそうとする。
「もういい! 黙って! 先生も、やめて……」
クイーンの声が遮った。呆気にとられたホワイトは口を半開きにしてクイーンを見る。
「おお、理解してくれたか。飲み込みが早くて助かる。ではこちらに来なさい」
老人の白い腕がクイーンに差し出される。しかし少女がその手を取ることはない。
「いいえ、あんたも黙るのよ。……ジャック、絶対にもとに戻してあげる」
屈辱的な状態を強いられている弟の様子に、クイーンの心がかき乱される。
「たとえ親がどうでも、母さんの本心がどうであったとしても、やることは何も変わらない。あたしはあんたを殺す。このムチで切り刻んでやる」
振るわれたムチが空気を破裂させる。
今は目の前に集中しろ。消えそうな復讐の火に薪をくべ続けろ。カダスマを殺し、ジャックを解放する。それだけを考えるのだ。そうしなければ、そうしなければこれまでの人生のすべてを否定してしまいそうだった。母の笑顔も温かさも思い出も何もかも。
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