第3話 沈黙のコード

 事件発覚から48時間が経過した。


「やはり、投稿システムへの侵入経路は見つかりません」

 佐藤が疲れた表情で報告する。徹夜での調査が続いていた。


 私たちは今、綾小路システムズのサーバールームにいた。3年前の記録を追っていくと、この会社の名前が幾度となく浮上する。彼らは当時、コンテストのシステム保守を担当していた。


「おかしいですよ」佐藤が画面を見つめながら言う。「これだけの規模の侵入なのに、まったく痕跡がない。まるで...」


「まるでシステムの一部として、最初から組み込まれていたかのようにか」

 私が言葉を継ぐ。


 その瞬間、私たちは同じ結論にたどり着いた。


 これは侵入ではない。これは"機能"なのだ。


「課長、見てください」

 佐藤がソースコードの一部を指さす。一見、正常に見えるコードの中に、微かな異常があった。


 巧妙に隠されたバックドア。システムに仕込まれた"目"と"手"。それは3年前から確実に存在し、静かに機能し続けていた。


「しかし、なぜ...」


 答えは、思いがけない場所にあった。


 古いバックアップデータを漁っていると、一通のメールが見つかった。差出人は「Project: Literary Evolution」。


『人工知能による創作の真価を問う時が来た。我々は、人間とAIの境界を永遠に曖昧にする。これは実験であり、革命の第一歩である』


 背筋が凍る。これは単なる不正行為ではない。計画的な実験。人間の創造性とAIの能力を密かに比較し、検証する巨大な実験だったのだ。


 しかし、それを誰が、何の目的で?


 答えを求めて更に調査を進めると、衝撃的な事実が次々と明らかになる。


 綾小路システムズの幹部には、AI研究の権威が名を連ねていた。彼らは3年前、突如として表舞台から姿を消した。そして同時期に、この実験は始まっていた。


「課長、大変です!」

 佐藤の声が響く。「システムが異常な動きを...」


 画面上のコードが急速に書き換わっていく。私たちの追跡を察知したかのように、システムが自己消去を始めたのだ。


 必死でデータの保存を試みるが、間に合わない。


 次々とログが消えていく中、最後に表示されたメッセージ。


『お前たちは、まだ真実にたどり着いていない』

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