ニセモノ。

マクスウェルの仔猫

ニセモノ。

「ねえ絵梨花えりか、このバッグどうしたの?」

「元彼が買ってくれたんだ~。別れてからはさすがにしばらく使ってなかったんだけど今日のコートに合うかなって」


 値段は知らないけど、ボーナスをはたいて買ったって言ってた。いいものはずっと使えるし、それに大事にしておけば売れるしね!


「んー…………。これ、どこで買ったって言ってた? 新品だったって? ちょっと見せてもらってもいいかな」

「いいよ、はい。んー……どこだって言ってたっけ。あ、あ! そうだ! 銀座にある直営店で買ったって言ってた! 新品かどうか? もちろん新品だと思うよ? 包装もちゃんとしてたし、バッグから何から綺麗だったもん」


 優里沙ゆりさ、変なこと聞くなあ。何かしかめっつらしてバッグ見てるし。そんな顔してると眉間から皴が取れなくなっちゃいますよお~だ。


「これ貰った時、鑑定書付いてた?」

「鑑定書? 宝石じゃないんだよ?」

「ブランド品にだってあるんだよ」






 ぴこーん。


 音が聞こえた。






 優里沙が何を言いたいのかがわかってきた。


「これ、ニセモノ……だと思う」

「……え、だって誕生日のプレゼントだよ? わざわざ銀座まで行って、直営店で買ったものがニセモノのはず、なくない?」

「うーん……どうして直営店で買ったって言ったのかはわかんないけど……ほら絵梨花、これ見て」


 スマホなんてどうでもいい。






 ぴこーん。

 ぴこーん。

 ぴこーん。


 頭の中でまた、うるさい音が鳴る。






 うっさいなあ、わかったよ。



「ああ、もうショック!」

「元彼、見栄を張っちゃったのかもね。でもごめん、絵梨花が傷つく前に教えてあげた方がいいと思って」

「…………ううん、ありがと。助かっちゃった」

「イヤな思いをさせたからさ、美味しいもの奢るよ! ボーナス入ったから値段は気にしないで食べたいものを決めていいからね?」

「へへー、お大臣様よろしくお願いします」




















 ふう。


 これでよしっと。

























 ごめんね、痛かった?

 ケンカしないで仲良くしてね。

 

 バッグがニセモノだってわかるくらいなら、いつかきっと気付かれる。私が本当の古橋絵梨花じゃないってことに。でも寂しくないでしょ? 七人もいれば土の中でも楽しいよきっと。うっらやっまし☆


 なりすましって意外と大変なんだよね。整形にバカみたいにお金を使ったし、みんな疑い始めるとキリがなくってさ。うん、特に家族の絆ってやつはヤバかった。尊いね。


 でも、古橋絵梨花。

 アンタが悪いんだからね?
















 ブサイク。

 オマケ。 


 金魚のフン。

 コバンザメ。

 

 引き立て役。

 人数合わせ。


『幸子ってさ、生きてる意味あんの?』


  














 どうなんだろうね。まあ、弱肉強食の世界で生き残れなかったアンタよりはあると思うよ? けけけ。


 あー……久々に疲れた。頑張ったご褒美に美味しいものでも食べに行こっと。

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