第4章
第1話 意志の力(前編)
虎太郎は荒い呼吸をしながら、瓦礫の中でうつ伏せになっていた。痛む右脚をかばいつつ、かすむ視界の先で、遠ざかる奏の姿を捉える。奏の体は力なく垂れ下がり、手力に抱えられている。
薄れゆく意識の中でも、彼女を助けたいという思いだけが虎太郎の心を支配していた。
「くそっ……!」
虎太郎は地面に手をつき、折れた右脚を引きずりながら、無理やり体を起こそうとする。しかし、激痛が全身を駆け巡り、再び地面に倒れ込んだ。
「もうやめろ。お前、足が折れてるぞ。無理をするな。」
顔を上げると、煙幕が薄れていく中、すぐそばにいる黒田が虎太郎を見下ろしていた。
「警察も、特管も、すぐに来るだろうから、奴らには任せるんだ。」
特殊能力資源管理機構――略称・特管。
適合石を不正使用した事件を専門に取り締まり、各国政府や自治体・民間企業の要請に応じて迅速に動く国際組織である。
虎太郎は黒田の言葉に耳を貸そうとせず、再び体を起こそうとする。
「……奏まで連れて行かせるわけには……!」
顔を歪めながらも、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
黒田は眉間に皺を寄せ、苛立ちを隠さずに続ける。
「いい加減にしろ。お前が今できることは何もない。お前は弱い。ただの子どもだ。現実を見ろ!」
その言葉に虎太郎は一瞬動きを止めた。だが、すぐに顔を上げ、黒田を睨みつける。
「俺が弱いからって……それが今、奏を助ける理由にはならないだろ!」
虎太郎の声には、深い感情が宿っていた。その言葉はなんの事情も知らない黒田にも、響くものがあった。
「奏はあのとき、俺の心を救ってくれたんだ!」
拳を握りしめ、痛みをこらえながら立ち上がろうとする虎太郎。
「もう、家族は失いたくない……!」
その姿を見て、黒田は目を細めた。
「―――家族か。」
虎太郎の言葉が黒田の胸に小さな火を灯した。その決意に感化されつつも、冷静さを保とうとしていた、その瞬間だった。
瓦礫の間から、かすかな光が漏れ出す。
「……なんだ?」
そこから、黄色い輝きが放たれていた。2人が目を凝らすと、瓦礫の間に挟まれたCAデバイスがあった。それは2人が知る由もなかったが、無動寺が戦利品の動作確認をするために使用した違法デバイスだった。
「これ……!」
虎太郎はその光に吸い寄せられるように手を伸ばした。
「おい、待て! それは―――。」
黒田が声を上げるも、虎太郎は構わずデバイスを掴む。その瞬間、デバイスがまるで応えるように光を増し、温かな感触が彼の手に伝わる。
光と共に、虎太郎の体が黄色いオーラに包まれる。その力に支えられるように、折れた右脚すらもわずかに動き出した。
(……これは……適合している……)
黒田はその光景を驚愕の表情で見つめた。
「俺が……今度は奏を助けるんだ!これで!」
黒田はその姿を一瞬だけ見つめた後、言った。
「CAデバイス(それ)がなにか知っているのか?」
「それは―――。奏、幼馴染が使ってたのを見てなんとなくは……。」
黒田は大きくため息をつき、頭をかきながら続けた。
「お前、全然わかってないな。いいか、それは違法CAデバイスだ。」
さらに話を続ける。
「それは誰でも使える。使えば、お前でも適合石(いし)の力を引き出せるだろう。」
黒田は一歩前に進み、虎太郎の顔を覗き込むようにして言葉を続けた。
「だが、使った時点で、お前は犯罪者だ。それでもいいのか?」
「使うよ。使う。」
虎太郎は拳を握りしめたまま、黒田をまっすぐに見返した。
即答するとは思わなかった黒田は、一瞬だけ目を見張った。
しばし考えこみ、虎太郎に話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます