第2話 意志の力(後編)
「……適合石(いし)の使い方はわかるのか?」
虎太郎は一瞬だけ黒田を見つめた後、首を振った。
「いや…今日見たばかりで…。」
黒田は内心でため息をつきながら思考を巡らせる。
(一度も使ったことがない、ズブの素人というわけか…。)
「教えてやる。」
黒田は深く息を吸い込んで言葉を続けた。
「適合石(いし)は…人の願いによって、その力を決めるんだ。」
虎太郎は戸惑いの表情を浮かべるが、黒田は構わず話を続ける。
「お前がなりたいお前、やり遂げたいこと、欲望、希望、怒り、悲しみ……そういったものが、能力(ちから)を形作る。」
黒田は虎太郎の目をまっすぐに見つめた。
「自分の心に問いかけろ。お前は何を望んでいる?」
虎太郎は少しの間、言葉を発せずに下を向いていたが、やがて顔を上げた。その瞳には微かな光が宿り始めている。
「……俺は……奏を……絶対に助けたい!」
黒田は静かに頷き、少しだけ口角を上げた。
「よし。なら、お前のその願いを、適合石(いし)にぶつけろ。」
黒田はデバイスを握る虎太郎の手を軽く叩いた。
「……おじさん……詳しいんですね。」
虎太郎の率直に出た称賛の気持ちだった。
「……その石は、俺にとっては特別なものなんだ。」
黒田の声がわずかに震えたように聞こえた。彼の視線が一瞬だけ遠くを見つめ、それ以上話す気はないという無言の拒絶があった。
「能力のイメージに、数分かかるだろう。」
嘘だ。
虎太郎にプレッシャーをかけないよう配慮した、黒田の願望交じりの時間だった。
通常であれば、数時間から何日もかけてやる作業だ。
本人の中に何か、明確な『力』のイメージを創らないとといけない。
戦時中にその過程を経ず、場当たり的にイメージし、毒にも薬にもならない能力になった適合者を、黒田は山のように見てきた。
そして、その『力』は一度方向性が決まると、改良や進化は出来ても、根本的な変更は非常に難しい。
自身の趣味・趣向・信念―――言うなれば『性(さが)』を変えるに等しいからだ。
だが―――もしかしたら。
「……あとは、お前次第だ。」
黒田はデバイスを虎太郎の手に残し、ゆっくりと立ち上がった。
「あの……どうして……?」
助けてくれた理由を問いかけるような虎太郎の瞳に、黒田は一瞬だけ眉を動かした。
「俺も、あいつらと同じものを狙っていた。だが―――。」
黒田は短く息を吐き、視線を落とした。
「お前と、お前の幼馴染のせいで、計画がすっかり狂った。」
「だから、その責任を取ってもらおうと思った。それだけだ。」
虎太郎は目を見開きながらも、言葉を飲み込んだ。黒田の口調から、本音であることは理解できた。
それでも――その言葉の裏に、どこか温かな感情の揺らぎを感じた。
「できるだけ、時間は稼いでやる。しかし、あの2人には絶対に勝てない。悪いが、もう無理だと思ったら逃げるからな。」
虎太郎は深く頷いた。
「ありがとうございます!!」
虎太郎の礼を聞くまでもなく、黒田は薄れつつある煙幕へ突入し、2人に攻撃を仕掛ける。
「―――どうやら、爆弾魔(ボマー)はあなたのようね。」
無動寺の声が冷たく響き渡る。
煙の中から見えるその赤い瞳には余裕の笑みが浮かんでいた。
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