第5話 ROCK ON!
「奏!!」
彼女の倒れた姿が目に映る。
あの大男があの人を倒したら、次は―――奏を連れ去るに決まっている。
焦りと痛みが俺の全身を締め付ける中、デバイスを掴んだ。
奏が使っていたCAデバイス――いや、さっき奴らも同じものを使っていた。
(……これが……あんな力になるのか?)
小さなデバイスに視線を落とす。
その瞬間、あの人の声が頭をよぎる。
「適合石(いし)は…人の願いによって、その力を決めるんだ。」
「お前がなりたいお前、やり遂げたいこと、欲望、希望、怒り、悲しみ……そういったものが、能力(ちから)を形作る。」
「自分の心に問いかけろ。お前は何を望んでいる?」
「……俺は……奏を……!」
自分の心に問いかけた。
(奏を助けるために、俺にはどんな力が必要なんだ……?)
目を閉じ、記憶を呼び起こす。
頭の中には、これまで見てきた憧れのヒーローたちが浮かんでは消えていった。
漫画のキャラクター。
映画のヒーロー。
ゲームの勇者。
みんな強くて、なりたい存在だった。
(でも、いま俺がなりたいのはそれじゃない。)
ふと、子供の頃の記憶が蘇った。
子供の頃、両親と一緒に見に行った―――。
最後の思い出のサーカス。
あの日、ホワイトタイガーを見た瞬間の感動が、鮮やかに蘇る。
檻の中で輝いていた白い毛並み。
鋭い爪と牙。力強くも美しい筋肉の動き――ただそこにいるだけで圧倒される存在感。
その瞳には、何か揺るぎないものが宿っていた。
(あの虎……あの強さ……あれが俺の目指す姿なんだ。)
ただ強いだけじゃない。
怖さの中にも、美しさや堂々とした姿があった。
俺が憧れたのは、あの『虎』そのものだった。
同時に、奏の姿が脳裏に浮かぶ。
両親を失った俺の心に寄り添い、ずっとそばで支えてくれた奏の姿。
あの時、俺が立ち直れたのは奏がいたからだ。
(俺は、奏を助けたい。そして、あの時の虎みたいに――強く、圧倒される存在になりたい。)
この思いが、力になるはずだ。
胸の奥が熱くなり、鼓動が高鳴る。
両手が自然にデバイスを握りしめていた。
「これだ……きっとこれが俺の能力だ!」
その瞬間が近づいていると確信する。俺はデバイスのスライド部分を押し込んだ。
――『ЯОСК ОИ!』
機械音声が響き渡り、デバイスが光を放つ。
全身に熱が駆け巡り、折れた脚にも力が戻る感覚がする。
「……これが……!」
黄色のオーラが俺を包み込む。
痛みが和らぎ、体が軽くなるのを感じた――だが、それだけだ。
何かが足りない。
力が発現していない。
何度も繰り返すも、起動音声が鳴るばかりで同じだった。
「なんでだよ!動けよ……!」
焦燥感が俺を襲う。
奏を助ける時間が残されていないことを知っているからだ。
でも、今のままでは……何が……何かが足りない?
俺は改めて心に問いかけた。
(俺が望むのは、奏を助けるための力。強さと速さ…だけ?いや、それだけじゃない。)
(奏を守れる強さ。そして――それを成せる存在になれること。)
「あの虎のように……!」
――その時だった。
心の奥から何かが湧き上がる感覚がした。
俺の中にある強い思いが、デバイスを通じて広がっていく。
光がさらに強まり、俺を包み込んだ。
そして―――目の前が一瞬、光で満たされた。
(そうだ、きっと……これが、俺の力だ!)
「呼べ!!!」
声が耳元で弾けるように響いた。
その言葉にはただの指示ではなく、圧倒的な力が込められているように感じた。
あの人の声が聞こえた。
「あとは石の名前を呼ぶんだ!その、石の名前は―――。」
俺はデバイスに目を向けた。
黄色い光を放つ石。その輝きに引き込まれるように、じっと見つめる。
その瞬間、全てが俺の中で繋がった気がした。
デバイスを握る手の感触が熱を帯び、まるで石が自分に語りかけているような感覚。
(この名前……知っている。)
声が聞こえたのか、感覚が伝わったのか、それとも自分の中にあったものなのか。
それは、ずっと自分と共にあったかのような名前だった。
――『ЯОСК ОИ!』
CAデバイスの起動音声が、これまで何度か聞いたものとは違う、重みを持って胸に響いた。
俺は深く息を吸い込むと、全身全霊で叫んだ。
「タイガーアイッッ!!」
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