第3話 ハッピーセット

 爆発の余韻が遠くへと消え、周囲を漂っていた煙が徐々に晴れていく。無動寺は瓦礫と化した輸送車の残骸を冷静に見つめた。


「ケースは見つかった?」


 淡々と尋ねる無動寺に、鉄塊をどけていた手力が苛立たしげに振り返った。


「いや、どこかに吹っ飛んだみてえだ。にしても、こんなの仕掛けやがって!」


「セキュリティにしては派手すぎるけど……。」


 無動寺は目を細め、瓦礫の間を鋭い視線で探った。


 輸送車には、3つのケースが積まれていた。

 一つ目は吹き飛ぶことなく残っていた大量の適合石が詰まったケースで、これはすでに無動寺たちが確保済みだ。


 しかし、他の2つ――CAデバイスが詰められたケースと、特別な希少石が3個入ったケースは爆発によって飛ばされてしまったらしい。


「それだけレアモノだったのかもしれないわね。」


 手力は短く息をつく。


「そんな分析はどうでもいい。探すのが先だろ。」


「まあでも……既に手に入れた大量の適合石だけでも十分価値はあるわ。」


 適合者は、自分に適合した石しか使えないという性質を持つ。

 そのため、自分が使えない適合石は持っていても無意味だが、他の適合者にとっては大いに価値がある。これは逆もまた然りであり、必要な適合石を手に入れるためには、他者とのトレードが不可欠となる。


 不要な適合石は、仲間内で交換して有効活用することもあれば、ブラックマーケットで販売し金銭にすることもできる。


 特にアウトローの世界では、こうした取引が頻繁に行われ、適合石の所有量はそのまま発言力や信用度に直結していた。


 取引における優位性を得るだけでなく、時には命を救う切り札としても使えるため、適合石は価値ある資源として重宝されている。


「だがそれだけじゃ足りねえ。あれだけリスクを背負ったんだ、そのレアモノが欲しいだろ!」


「それは―――、もちろん。」


 無動寺は一瞬言葉を止めると、わずかに微笑みを浮かべた。


 二人の会話が途切れた瞬間、遠くからかすかな声が聞こえた。


「おい、これ、開いてるぞ。」


 無動寺はその方向に顔を向けた。瓦礫の間に立つ少年と少女。

 特に目を引いたのは、膝をついてケースに手を伸ばしている少女だった。手元から漏れ出る紫色の輝きが周囲を淡く照らしている。


「あらあら?これは……。」


 無動寺は一瞬息を呑む。

 隣の手力も苛立ちを忘れたように目を細めた。


「おいおい、なんだよ、あの光は。適応反応か?」


 無動寺は少女をじっと観察した。希少石に手を触れた瞬間、彼女の体が引き寄せられるように震え、その目には驚きと困惑が入り混じっていた。


「間違いないわね。それにしても希少石にあそこまで適応する人間なんて、そうそう……。」


 手力がにやりと笑みを浮かべる。


「適合者付きの希少石ってわけか。こいつなら一気に稼げるな。」


「そうね。」


 無動寺は紫色の輝きに目を向けながら、小さい声で続けた。


「適合石は、適応者が存在することでその真価を発揮する。適応者のいない石なんて、結局はただの高価な飾りと変わらないわ。」


 手力が拳を鳴らしながら一歩前に出る。


「ってことは、そいつごと確保するのが一番の成果ってわけだ。」


「そうね。それだけの価値がある。行きましょう。」


 無動寺は彼の言葉に軽く頷くと、ゆっくりと歩みを進めた。

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