第2話 襲撃
襲撃の当日。
無動寺は、車のルームミラーで軽く口紅を塗り直しながら、手元のタブレットに映る輸送車の動きを見守っている。
事前に手に入れた情報を基に、輸送車の護衛たちの位置と進行状況を完全に把握していた。
助手席に座る無動寺はタブレットを見つながら、やや窮屈そうに運転する手力に現状を伝える。
襲撃の準備は万全だった。
無動寺と手力に金で雇われた手下の車は、輸送車の前方に位置し、輸送車の進行を完全に封じる形で先行していた。
輸送車の後ろには、もう一台の手下の車が配置され、輸送車の後方を塞ぐようにピタリと接近している。
手力の車は、さらにその後方に続き、輸送車の様子をうかがっていた。
「ルート通り、問題なく進行中です。」
運転手からの声が無動寺のスマートフォンに届いた。
「ありがと♡」
無動寺は満足げに微笑みながら、手力に話しかける。
「準備は整ったわ。行きましょう。」
手力は言葉を待つことなく、力強く頷き、周囲のメンバーに合図を送る。
輸送車が狭い道に差し掛かり、緊迫した空気が漂い始めた。
その瞬間、輸送車の助手席に座る黒田が声を上げた。
「ちょっと待て、なんだ…? さっきの連絡…ルートが違う…! おい、どういうことだ!?」
疑問の声を上げるやいなや、突然車に衝撃が走った。
輸送車の後方に位置していた手下の車が、勢いよく輸送車の後方に追突したのだ。
その衝撃で輸送車は急停車を余儀なくされた。
その後、前方の手下の車が輸送車を完全に挟み込むように停車した。
「後はよろしくね。」
無動寺の言葉を聞くか聞かないかの間に、手力は車を停めると、すぐに車外へ躍り出る。
「応っ!」
ポケットからCAデバイスを取り出し、中央部をスライドさせる。
―――『ЯОСК ОИ!』
デバイスが反応し、低い不気味なトーンで起動音声が響いた。
その音色には、不安定さを感じさせる違法コピーの特徴があった。
「ヘマタイト!」
手力が声を上げると、体内から震えるようなエネルギーが湧き上がり、周囲の空気が重くなった。
彼の筋肉が膨張し、戦闘態勢に入るための準備が整った。
手力の拳がぎゅっと握られると、鋭い光がその目に宿る。
次の一手を見据え、動き出す瞬間を待ち構えていた。
「さぁ、行きなさい。」
無動寺の合図で、輸送車の前後にある車から、手下達が現れる。
彼らの役割はこれ以上の邪魔が入らないようにするためだ。
ヒールの冷たい音が車道に響き、無動寺がゆっくりと運転席に歩み寄った。
運転手はすでに魅了が解け、現状を飲み込めずに混乱していた。
「ふふ、運転手(ボク)もごくろうさま。」
無動寺は運転手を冷たく一瞥し、まるで鼠をいたぶる猫のように、唇の端に冷ややかな笑みを浮かべた。
その笑みの背後には、無言の嘲笑が隠されていた。
運転手は、無動寺の言葉が示す言葉をようやく理解し始めたが、もうその時には手遅れだった。
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