第2章
第1話 計画
無動寺 鈴(むどうじ りん)は、まるで遊びを思いついたかのように軽いノリで、目の前の男に声をかけた。
「ちょっと面白いこと、してみない?」
無動寺の声は甘く、蠱惑的だ。
耳に心地よく響く。
その美しい顔立ちと長い黒髪が、冷徹さを感じさせる一方で、何かに囚われない自由さも感じさせる。
鋭い目元からは、彼女が無意識に抱えている強い意志が滲み出ているが、それをも魅力に変える彼女の存在感は圧倒的だ。
話しかけられた男、手力 正太郎(てぢから しょうたろう)は少し考えた後、顔に笑みを浮かべて答える。
彼の力強い筋肉が盛り上がった腕や、隙のない目配りから、今この瞬間にも襲われても戦う準備が整っている様子が伝わってくる。
「いいね。やろうぜ。」
何をするのかすら聞いていないのに、手力は即決した。
無駄なことを考えるタイプではなく、目の前に面白そうなことがあれば、どんなものであれ食いつく性だった。
無動寺はそんな手力の反応に満足したように微笑んだ。
「金儲けの話よ。でも、ちょっと危ないかも…。」
無動寺の目には、少しだけ冷たさを含んでいた。
彼女の視線に込められたのは、欲望を満たすためならどんな手段でも厭わないという確固たる意図だ。
手力は眉をひそめることなく、どこか楽しげに答える。
「危ない? それがどうした。」
「そうよね。あなたにとっては、それが楽しいんだもの。」
無動寺は手力の反応に余裕を見せながら、計画の概要を説明し始めた。
「情報は2週間前に手に入れた。今から10日後、どうやら希少石(レアモノ)が輸送されるらしいの。」
「本当か!それなら面白そうだな。」
手力の言葉からは、もう、興奮と期待が感じられる。
いますぐにでも動き出す準備が整ったかのようであった。
無動寺は続けた。
「情報源をしっかりと押さえたわ。運転手はすでにこちら側。」
無動寺の適合石「ルビー」。
その能力の一端――それは、異性相手に盲目的な恋愛感情を抱かせ、意のままに操る力だった。
無動寺はその力を巧妙に操り、運転手やスタッフを操り、必要な情報を引き出していた。
「じゃあ、あとは当日だな。」
「そうよ。あとは、どこで襲うかだけ。」
無動寺は、心底楽しげに言った。
「まあでも…本当かどうかの保証はできないけど。あてが外れたら、ゴメンね。」
手力はその言葉に反応し、にやりと笑った。
「釣れないときもあるもんさ。」
無動寺は手力の言葉に笑みを返し、二人は計画の最終確認に移った。
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