第4話 特進科?

「虎ちゃんってさ、まだ友達いないの?」


 チャイムが鳴り、弁当を広げた俺に開口一番、奏が突っかかってくる。


「……何だよ、いきなり。」


「入学してしばらく経つけど、そういえば誰かと一緒にいるとこ見たことないな、とわたくし思いまして。」


「別にいいだろ、そんなの。」


「私、紹介してあげよっか? あそこの山田くんとか鈴木くんとか、中学で一緒だったよ。」


 親切心はうれしいが、時にそれが人を傷つけることもあるということを、彼女はまだ知らないようだ。勝手に友達にされる田中も鈴木も迷惑だろう。


「ふ~。そういえば特進科の人ってさ、どんな勉強してんだろうね?」

 俺が話題を変えるように言うと、奏は不思議そうな目でこちらを見た。


「ん?」


「なんだよ……そんな変なこと聞いたか?」


「私」


「?」


「Me…ともいう」


「だからなんだよ?」


「私、その特進科の人なんだけど?」


 奏がさらりと言ったその瞬間、俺の頭が一瞬停止する。


「え?」


「えっと…あれ、クラス一緒だったと思うけど???」


 奏はふふと笑い、少し得意げに答えた。


「ほとんど普通科と同じだけど、特進科の授業も受けてるよ。」


 そういえば、週に何回か5限目あたりにいないことあったな。


「どんな感じなんだ?」


「んー、まあ、CA技術を使った実習とか? 応用技術の授業が多いかな。ちょっと専門的な感じ。」


 奏は言葉を切って、ふふんと笑った。


「まあでも、ちょっとね、普通科さんには、言えない事もあったりしまして。」


 なんだその妙な自信は。顔に出てるぞ。


「はぁ? なんだよそれ。」


「それは特進科のヒミツってことで!」


 奏はいたずらっぽく笑って、ふと真顔になった。


「でも、虎ちゃんも特進科に来れば分かるかもね。」


「俺が特進科?……いや、全然無理だろ。」


 そう返した俺だったが、内心、何かが引っかかっていた。


 特進科って、結局どんな奴らが集まってるんだ?


 奏を見る限り、どうやら学力ではなさそうだ。他に何か条件があるんだろうか――それとも?


「……別に気にしてないけどな。」


 そう言いつつ、俺は弁当の残りを口に運んだ。


「一色~!」

 教室の隅で、制服姿の女子たちが手を振りながら、明るい声で奏を呼んでいる。


「あ、ごめんね虎ちゃん、ちょっと行ってくるね。」

 奏は軽く振り返り、にっこりと笑って友達の方へ向かう。


「一色さ、南くんと仲いいよね~?」


「あやしいなぁ~!」


 奏は笑って首を横に振る。


「そんなことないよ。ただの幼馴染やお。」


 奏はさらりとかわしながら話している。友達たちはその様子に納得したのか、しないのか、話題を変えて他愛もない会話に花を咲かせていた。


 教室内は昼休み特有のざわめきに包まれ、窓から差し込む光が穏やかに広がっていた。


「特進科ね……俺には関係ないか。」


 それにしても、奏は意外と将来のことをちゃんと考えているのかもしれない。

 えらいな。


 そんなことをぼんやりと思いながら、俺は空になった弁当箱を片付けた。

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