第3話 美洲中央学園

 学校へ向かい2人で歩く。

 葉桜の青々とした緑が、俺は好きだ。


「虎ちゃんはさぁ~、もうちょっと早起きしないと。」


 隣を歩く奏が、軽く溜息をつきながら言う。


「そうかな?」


「そうやお。遅刻なんかしたら、不良になっちゃうよ。」


「ちょっと大げさじゃない?」


 奏は眉をひそめ、少し真剣な顔になる。


「私はね、虎ちゃんのおじいさんに『虎太郎をよろしくたのむよぉぉぉ』って言われてるんだから。」


 声を低くして真似るのが、妙に上手い。


「ほら、私のほうが少しお姉さんなんだし!」


「年上って……同学年で数カ月しか違わないだろ。」


 奏は気にせず話を続ける。


「でも、虎ちゃんと一緒に高校通うなんて、ちょっと意外だったな。」


「俺もさ。うちは田舎すぎて、進学先の高校が1時間半以上かかるからな。」


「え~、それは遠すぎるね!」


 俺は苦笑しながら頷く。


「それもあって、爺ちゃんが『こっちの学校に通ったらどうだ』ってさ。」


「そうなんだ。でも虎ちゃんのとこ、ほんと…こう…自然豊かだったもんね!」


 南家と一色家。

 俺と奏の家は、もともと同じ地域に住んでいたらしい。


 それが祖父母の時代、ダム開発のため立ち退きが必要になり、一色家は岐阜へ、南家は村に残ることになった。


 それでも交流は続いたらしくて、こうして今に至っている。


「で、岐阜でいいところあった?」


 奏が興味津々で尋ねる。


「う~ん、そうだなぁ。実家と比べると、だいたい全部いいんだけど。」


「ほうほう。それはうれしいですね。」


「でも、一番印象に残ったのは夕焼けかな。」


「えっ、それだけ?」


「実家はさ、山のせいで、夕焼け見る前に太陽沈んじゃうからさ。だから、こんなでっかい夕日なんて見たことなかったんだ。」


 俺は手を広げ、大きな夕日を表現する仕草をする。


「漫画みたいな夕日だな〜って感動したんだよ。」


「そうなんだ、斬新な視点やね~。」


 奏がくすっと笑い、俺もつられて笑う。


「私も虎ちゃんの家で、ヤグルトくらいある、で~っかいナメクジ見つけたことあるよ。」


「………」


 高校1年になったっていうのに、ときおり小学生みたいなことを言う幼馴染に、俺は苦笑いしながらも少し安心していた。


「ほんとだよ!すごい大きくて、びっくりしたんだから!」


「それ、絶対記憶が改ざんされてるだろ。」


「い~や、絶対350mlのコーラくらいはあったね…。」


 奏はそう言って胸を張る。

 なお、奏の言うソレが『ヤマナメクジ』という13-16cmに達する実在する生物だと知ったのは、しばらく経ってのことだった。


 家を出てから20分ほどで、慣れた校舎が見えてきた。


 美州中央学園。

 CA(セル・オートマトン)技術の研究と実用を担う技術者を育成するために戦後新設された教育機関だ。


 一般的な高校でもあるが、特進科に通う生徒は、将来この技術を活用して社会に貢献することを目指し、特別なカリキュラムを受ける。

 CA技術の開発や応用にも力を入れている。


 もちろん、学園パンフレットの受け売りだ。


「ほいほい、早くしないと不良になっちゃうぞい!」


 走っていく奏に続いて、俺も校門をくぐり抜けた。

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