第2話 始まりの日
目覚ましのけたたましい音が、意識を引き戻す。
「くぁ…もう朝か……」
布団から体を起こし、目をこする。
ふと天井を見上げると、古びた壁紙が目に入る。
この平屋にも、少しずつ慣れてきた気がする。
枕元に置いたスマートフォンを手に取ると、画面には昨晩途中で寝落ちしてしまった動画がそのまま表示されていた。
再生ボタンをタップしながら、のそのそと立ち上がる。
「どこまで見たっけ?」
歯ブラシを咥えながら動画を再生する。
画面には岐阜の風景や歴史を紹介する特集番組が映し出される。
ナレーションが洗面所に響く。
「岐阜――。人口約200万人を擁し、中京圏を支える主要都市です。北の山間部には、飛騨山脈の雄大な風景が広がり、木曽川の支流が織りなす肥沃な濃尾平野は、古くから農業が盛んな地域として知られています。」
カメラは金華山の山頂にそびえる岐阜城へと切り替わる。
歯磨きを終えた俺は口をすすぎながら画面を一瞥する。
「戦国時代には、織田信長の居城である岐阜城を中心に城下町として栄えました。この地は現在もその歴史を感じさせる文化と、新しい街並みが共存しています。」
「歴史シュミレーションゲームでやったなぁ。元は稲葉山城だっけ。」
動画は次に、川沿いの田畑や新しい住宅地へと移り変わる。
トースターが焼き上がりを知らせる音を鳴らす。
俺は冷蔵庫から牛乳を取り出しながら、画面の中のナレーションに耳を傾けつつ、トーストをかじりながら画面へ視線を戻した。
次に話題は少し前の歴史へと移る。
画面には過去のニュース映像が映し出された。
『第三次世界大戦』。
20XX年に起こったアジア、ユーラシア、ヨーロッパ、中東、アフリカでの戦乱を総称する言葉だ。
「戦争中、隣接する名古屋がテロリストに大規模な攻撃を受け、多くの人々が避難を余儀なくされました。その結果、岐阜や三重、静岡といった周辺地域が避難民の受け入れ先となりました。」
「その後、名古屋の復興とともに岐阜も重要な役割を果たし、中京圏は関東圏に並ぶ日本の中核地域の一つとして確立されています。」
さらに、現在の技術の話題へと切り替わる。
「その復興を支えたのがCA(セル・オートマトン)技術です。これは一定の鉱物を触媒として、人間そのものをエネルギー源とするもので、既存のエネルギーを置き換える偉大な発明です。」
俺は冷蔵庫を閉めながら、トーストをかじる手を一瞬止めた。
「この冷蔵庫もスマホも、全部この技術で動いてるんだよな……。」
動画は続く。
「特に注目すべきは、CA技術がオープンソースとして公開されたことです。これにより世界中の誰もがこの技術を利用できるようになり、エネルギー問題の解決に大きく貢献しました!」
「途上国ではこの技術が生活水準の向上に直結し、社会全体が大きな恩恵を受けました。しかし、その一方で、CA技術を悪用したテロや犯罪が増加しており、新たな脅威として注目されています。」
俺は画面を見つめながら、ふと眉をひそめた。
「物騒だなぁ……。」
そういえば、先日も似たようなニュースを見たような気がする。
「虎(とら)ちゃん、起きてる――――?」
玄関から聞こえる明るい声に現実へと引き戻される。
「あー、起きてるよ!」
慌ててスマホの画面を消し、玄関へと急いだ。
「ほら、またギリギリになっとるよ!」
幼馴染の一色 奏(いっしき かなで)が待っていた。
ぱつんと切り揃えられたおかっぱ頭が朝の日差しを受けて、ほんのり光っている。その髪型は、どこか子どもっぽさを残している。だが、それが彼女にはよく似合っている。
瞳は明るい茶色で、いつも活発な印象を与える。背は少し小柄で、リボンの結び方が微妙に緩い制服姿が彼女らしい。
「ほらほら、早くしないと遅れるよ!」
笑顔を浮かべながら、小さな手で玄関の柱を軽く叩き、催促してくる。
その動作一つひとつが自然で、見ているだけで朝のけだるさが少し和らぐ気がした。
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