第1章

第1話 力の選択

 「奏!!」


あの大男があの人を倒したら、次は―――奏を連れ去るに決まっている。


 焦りと痛みが俺の全身を締め付ける中、小さなデバイスを掴んだ。


(……これが……あんな力になるのか?)


 その瞬間、あの人の声が頭をよぎる。


 「それは…人の願いによって、その力を決めるんだ。」


 「自分の心に問いかけろ。お前は何を望んでいる?」


 「……俺は……!」


 自分の心に問いかけた。


 目を閉じる。子供の頃の記憶が蘇る。


 子供の頃、両親と一緒に見に行った―――。


 あの――ただそこにいるだけで圧倒される存在感。


 その瞳には、何か揺るぎないものが宿っていた。


(……あの強さ……あれが俺の目指す姿なんだ。)


 同時に、奏の姿が脳裏に浮かぶ。


 あの時、俺が立ち直れたのは奏がいたからだ。


 胸の奥が熱くなり、鼓動が高鳴る。両手が自然にデバイスを握りしめていた。


だが、何かが足りない。


 焦燥感が俺を襲う。

 奏を助ける時間が残されていないことを知っているからだ。


 俺は改めて心に問いかけた。


(俺が望むのは、奏を助けるための力。強さと速さ…だけ?いや、それだけじゃない。)


(奏を守れる強さ。そして――それを成せる存在になれること。)


――その時だった。


 心の奥から何かが湧き上がる感覚がした。


俺の中にある強い思いが、デバイスを通じて広がっていく。


 光がさらに強まり、俺を包み込んだ。


「呼べ!!!」


 声が耳元で弾けるように響いた。


「あとは石の名前を呼ぶんだ!その、石の名前は―――。」


 黄色い光を放つ石。その輝きに引き込まれるように、じっと見つめる。


 その瞬間、全てが俺の中で繋がった気がした。


 それは、ずっと自分と共にあったかのような名前だった。


――『ЯОСК ОИ!』


 CAデバイスの起動音声が、これまで何度か聞いたものとは違う、重みを持って胸に響いた。


 俺は深く息を吸い込むと、全身全霊で叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る