バスティン・この世界最初の日の出を共に

「主様の世界では、年が明けて初めての日の出を、めでたいものとするんだろう?こちらの世界でもご利益があるかは分からないが……せっかくの新年だ。一緒に初日の出を迎えないか?」


──部屋でくつろいでいると、バスティンが訪れて誘ってくれた。初日の出なんて、このしばらく見ていない。わたしは喜んで誘いに乗った。


──夜明け前の空気は冷たいけれど、新鮮な空気が肺を満たすように澄み渡っている。


──「バスティン、眠くはないの?」


「初日の出のとき起きていられるように、昼間たくさん寝ておいた」


道理で昼間のうちは彼の姿をあまり見かけなかったわけだ。


──バスティンは私に羽織るものを掛けて、訊いてきた。


「こんな時間だからな、腹は減ってないか?軽食にサンドイッチを用意したんだが」


──「じゃあ、頂こうかな。バスティンも一緒に食べよう」


「執事が主様と食べるのは……」


──「二人で食べた方が美味しいよ。バスティンも遅くまで起きててお腹すいてるよね?」


「それはそうだが……分かった、俺も食べさせてもらおう」


サンドイッチは色々な具材を使ったものが揃っていた。私のためを思って作ってくれたと思うと、心がじんわりと温かくなる。


二人で食べながら日の出を待っていると、空の向こうから太陽の光が昇ってきた。


──「すごく綺麗だね」


「ああ、見ていると今年も良いことがありそうな気がしてくる」


まぶしそうに日の出を見つめるバスティンの横顔は、どこか晴れやかで柔らかい面差しだ。


「……なあ、俺は今、何だかとても幸せな気持ちなんだ」


「ジェシカと共にあった時も幸せでした充実してた。だが、主様と過ごす時間は過去の幸せと違っていて、穏やかで満たされるんだ」


──「バスティン……」


「主様と共にある時間は、俺を満たしてくれる。生きている今を後ろめたくも悔やみもしないでいられるんだ」


「──だから、この新年の朝日にこそ伝えたい気持ちがあった」


「……どんな状況でも元気な気持ちでいられるほど、人間は強くない……」


「だが、俺は、どんな時も主様の支えになりたいと思っている」


「主様、つらい時は遠慮なく俺を頼ってくれ。心が落ち着くまで、俺はずっと傍にいる」


「ジェシカと主様は全く違う。それは分かってる。だけど、俺は主様を今度こそ守り抜きたいし、ずっと幸せに生きてゆきたいんだ」


──「バスティン……私もバスティンと年を重ねて、一緒に生きてゆきたいよ。幸せだけじゃなくて、つらさも苦しさも一緒に乗り越えたい」


──バスティンは悪魔化するほどの絶望を味わっても生きてくれた。私は、それに感謝して彼を守りたい。守られて支えられる喜びを知った今でも、それだけで甘えるのではなく……私からも喜びをあげたい。


「……ありがとう、主様」


──バスティンの、あまり動かない表情が柔らかな笑みになる。それを見ただけで、私の心はじんわりとした温かさで満たされた。


「なあ、主様。今年も……いや、ずっと俺の主様でいて欲しい。わがままかもしれないが、主様は俺から悪魔の力だけでなく、戦い抜こうとする心を解放してくれるんだ」


「主様を守るためなら、主様の笑顔と幸せのためなら、俺は二度と絶望に呑まれることなく前を向いて生きられる」


──バスティンの言葉は飾りなく心に響く。大切に思われること、その喜びと幸せに胸が高まる。


──「私も、バスティンといると前向きな力が生まれるよ。そこに絶望の影なんてない」


バスティンの実直な言葉に、思いを返すことは照れくさかったけれど、それよりも心を伝えたい気持ちがまさった。


「……そうか。主様もか……俺は、出逢った主様が主様で良かった」


バスティンの表情は、眼差しがとても温かい。


「……初日の出、か。太陽は毎日昇るのに、新年を迎えた今朝は……主様と共有出来てるからか、とてもまばゆくて綺麗だ」


「ありがとう。俺は、この日の出を忘れない。主様と見た日の出の光は、これからも俺を夜から救ってくれるだろう」


──「私も……この日の出を忘れないよ。バスティンが話してくれた気持ちも、全部」


気恥しさを抑えて、勇気を出して応えると、バスティンは冬の空気より澄んだ瞳で優しく私を見つめてくれた。

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