ロノ・この世界最初の日の出を共に
──執事のみんなと賑やかな年越しをした後、自分の部屋に戻った私は、まだ眠る気にはなれず……ソファーに腰かけて余韻を噛みしめていた。すると、ドアがノックされて、どうぞと答えるとロノが顔を覗かせた。
「あの、主様の世界では、新年の日の出って特別なんですよね?」
「もし、主様が眠くなければですけど……こっちの世界で俺と日の出を拝みませんか?」
──ちょうど、深夜を過ごしていて夜明けも近い。私はロノからの誘いを受けて、この世界で初日の出も楽しもうと決めた。頷いて立ち上がり、屋敷の庭へと二人で向かう。ロノの足取りは軽く、そして私の歩調に合わせてくれてもいる。
──庭に出ると、広がる空は夜明けの近さを感じさせた。
「風邪ひかないように、マグカップで飲める香辛料の効いたスープを作ったんで、どうぞ!──あ、熱いので気をつけてくださいね。口のなか火傷したら痛いですし、新年のご馳走も楽しめませんから」
──そう言って、にこにこしながらカップを手渡してくれるロノの気配りは、いかにも彼らしくて嬉しくなる。ひと口飲むと、香辛料の辛味は程よく、香りが活かされていて美味しい。
──「美味しい……。ロノも飲もう、体が温まるよ」
「えっ?でも、執事が主様と一緒に飲むのは……」
──「ロノが風邪をひいたら嫌だから。それに、美味しいものは一緒に頂いた方が楽しいよ」
「主様……はい、そう言って頂けるんでしたら、俺も喜んでご一緒させてもらいます!」
──屈託なく笑顔を向けるロノは、お日様みたいに明るく見える。初日の出を迎えようとしているところで、もう心は隈なく陽射しに照らされた気分になった。
「……我ながら、美味いスープっすね。へへ、何だか嬉しいです。ここは静かなんですけど、俺の気持ちのなかでは明るくて賑やかで、こうしてる時間も楽しいですし、日の出も楽しみで……あっ、見えてきましたよ!」
「……すげぇ……日の出の神様とかがいたら、願いごとも叶えてくれそうっすね……細切れの雲まで綺麗に見えて……」
──「本当に綺麗……。ロノなら、何を神様にお願いするの?」
「俺ですか?そうっすね……みんなが健康で、美味いって言いながら飯を食ってくれて……何より、主様を俺の料理で元気に出来たら嬉しいな、とか……」
「主様には、向こうの世界でも色々あると思いますし、こっちの世界でも色々起こりますけど、でも、やっぱり、俺には主様が世界の真ん中にいて、主様が笑顔でいられる世界なら……優しさは失われないって思うんで」
「……って、何だか言ってて照れくさいですね……でも、熱く語っちまうくらいの本心ですから!」
──言いきって胸を張るロノの、真っ直ぐな心がまぶしい。私はロノの熱量に触れて、胸が温かくなるのを感じ、自然と微笑んだ。
「……朝日で見る主様の笑顔、俺が知ってる言葉じゃ足りないくらい綺麗です。こうして主様と日の出を見られて、一緒にいると……何でかは分からないんですけど、幸せだなって思えて満たされます」
「主様、主様にも叶えたい願いごとってありますよね?……それは無理に聞き出したがったりしないですけど、……でも、俺は応援してますから。俺なりの応援で励ましたいと思ってるんで、……お互いの願いごと、一緒に叶えましょう」
──きっと、常に一緒の歩調で歩いてゆくことは難しい。それは分かっていても……ロノの心には、確かに私の存在がある。きっと、いつだって。そう思わせてくれるロノの曇りない瞳を見つめ返して、私は少し照れながらも迷いなく頷いた。
「──でも、主様。しんどい時は無理しないで、主様を大事に想う執事がいるって思い出してくださいね。住んでる世界はともかく、気持ちは何にだって引き離せません。俺は主様が生きる全部に、いつだって幸せを願いますから……」
──ロノがくれる言葉は、スープのように温かい。私もまた満たされた気持ちで、昇ってくる日をロノと並んで見上げていた。
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