悪魔執事と黒い猫〜推し活短編集〜
城間ようこ
ベリアン・この世界最初の日の出を共に
「主様の世界では、1月1日の日の出を初日の出と呼んで特別なものとされているのですよね?こちらでお過ごしの朝でございます、よろしければ日の出をご覧になりませんか?」
──新年を迎えた夜明け直前、ベリアンが私を誘ってくれた。この世界で見る初日の出も素晴らしいだろう。私は迷いなく頷いた。そうして、ベリアンと2人で……見張り台から、遮るものもない見事な日の出を見ることが出来た。冬の澄んだ空気が、ことさらに太陽の光を美しく、ありがたいものに見せてくれる。
「……美しいですね……」
「長く生きてきた人生のなかで、日の出ならば何度となく見てまいりましたが……この美しさは、どう表現すればいいのでしょう」
「運命に与えられるもののなかで、最も尊く……力強く、まばゆい光……」
「……まるで、主様の見せて下さる微笑みのような美しさと……そのように申し上げましたら、伝わりますでしょうか?」
──そう言うベリアンは、まぶしそうに……けれど、真っ直ぐ私を見つめてくる。私は、彼の眼差しに吸い込まれそうな感覚をおぼえ、まばたきを忘れて見返した。
「……私は、主様とご一緒出来る時間を……常に、何よりの幸せと思いながらお仕えしてまいりましたが……今この時、この一瞬が、さらに幸せを味わわせてくれております」
「……主様。私の人生は、主様により彩られ……幸福に輝くのです。……何度でも、どうか……これからも」
──語りかけるベリアンの髪が、朝日にきらめく。真摯な瞳には虚飾や偽りなどないと、そう信じさせてくれる。だからこそ、どう言葉を返せばいいか分からずに……私は、頬が熱くなるのを感じながら、彼と見つめあった。
「……美しい日の出も見られましたし……そろそろ、お部屋に戻りましょう。真冬のここは、やはり冷えますから。主様がお風邪を召しては大変です」
──ふ、と。ベリアンがまとう空気が変わる。どこまでも優しく、気遣ってくれる……執事の顔を取り戻す。
「……主様……?」
──少しだけ、待って欲しい。そう思ってしまった私は、昇る朝日に視線を戻して立つ。そして、一言だけ呟いた。
──「……まるで、ベリアンみたいに暖かそうな輝きの日の出だね」
──ベリアンが息を呑む。それが、気配から伝わってくる。一瞬の沈黙は優しい静けさだった。
「……主様。私は、今この時を……時が止まればいいと思うほどに、大切な時だと感じております。……主様と美しさを共有出来る今を、命の限り……いえ、永遠に忘れることなどないでしょう」
──ベリアンは微笑み、そっと自分の上着を私の肩に掛けて、隣に立ってくれていた……。
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