第6話

「あそこにある葉巻、くださいな」


「えっ……」


「ここでは吸わないわ。それでいいでしょう?」



渋々差し出される数本の葉巻。

金を払ったレーナはマッチを一箱もらってカバンに詰める。

コソコソと聞こえる話し声、男達の視線を感じながら、レーナは早足で店を出た。

護衛もいなければ、金を持っている、それに女だということを踏まえていいカモでしかないだろう。


案の定「お嬢ちゃん、こっちにおいで」と裏に連れて行かれたレーナだったが全て返り討ちにしてから表の道に戻る。

すると目の前に現れる影があった。

また虫が湧いたか……とため息を吐きながら構えると銀色のピアスが大きく揺れたのが見えた。



「ピンチに颯爽と登場しようと思っていたのですが……レーナには必要ありませんでしたね」


「どうしてここに!?」


「レーナが出ていくと聞いて、僕も城を飛び出してきました」


「え……?」


「レーナがいなければ城にいる意味はありませんしね」


「……!?」



真面目なクリスフォードが自分の仕事を投げ出すとは思わずに驚いていた。

しかしクリスフォードはレーナの表情から言いたいことを読み取ったのか「大丈夫ですよ?引き継ぎの書類は半年前から用意してありましたし、皆が心配しないように置き手紙は残しておきました」と、いい笑顔で答えてくれた。



「そういう問題では……」


「そういう問題ですよ」


「クリスフォード殿下は騎士団の皆さんに慕われているではありませんか」


「えぇ、ですが……いずれ僕の場所は消えてなくなる。窮屈な城ではないどこかに行きたいとずっと思っていたのですよ」


「…………クリスフォード殿下」


「だから僕も連れて行ってください」



クリスフォードは病で亡くなった側妃の息子だった。

正妃の息子はジェイデンだったが、そこには黒い噂が絶えない。

本来、王太子であるのは長子であるクリスフォードだったはずだが、満足な後ろ盾を得られずに正妃であるジェイデンの母は彼を王太子へと押し上げた。


クリスフォードに何故騎士になったのかと聞いたことがあったが「自分の身を守るためですよ」と言った。

レーナが来る前は毎日のように魔獣と戦っていた騎士団には怪我や亡くなる人も多かったという。

だからこそクリスフォードは生かされていたのだと聞いたことがあった。


クリスフォードの伸ばされた手を取ろうとした時だった。



「あーん、待ってくださぁい!」



聞き覚えのある可愛らしい声にレーナは顔を上げる。

そこには金色の髪を一つにまとめて、簡素なワンピースに身を包んだエイブリーの姿があった。



「エイブリーッ!?」


「はぁ……はっ、クリスフォード殿下が目立つ方でよかった。レーナお姉様と一緒にいると思った私の勘は当たりました」


「どうしてここに……?」

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