第3話
「あの、取引先に向かう途中なので今すぐ元の場所に返してもらってもいいですか?」
「それはできない」
「…………。理由をお伺いしても?」
頭に王冠を乗せて、豪華な服に身を包み、白い髭を貯えた男性はレーナにハッキリと無理だと告げた。
その理由というのがとんでもないものだった。
「我々はこの国を救うために莫大な予算を使いレーナを召喚した。そして元の世界への返し方はこの魔導書に記されていない」
「…………はい?」
つまりは元の世界には帰れない。それを聞いて言葉を失っていた。
「それにレーナは聖女として素晴らしい力を秘めている。是非、我が国のために……」
「お断りいたします」
「なぜじゃ!聖女よ」
「聖女ではありません。普通の会社員です」
「───我が国を救ってくれぇぇぇっ!」
そこから国王をはじめ、偉い人に泣き落としされて、仕方なく聖女として働かなければならなくなったというのが一年前だ。
生活は魔法があるとはいえ、以前と比べてしまうと質は落ちるし、常に人は側にいるしで落ち着かない。
何度か逃げだそうとしたせいか、どこに行くにも騎士や侍女とやらがついてきて監視されているようだ。
聖女の仕事は二十四時間フルタイムのようなものだった。
ひっきりなしに訪れる魔物を阻む国を守る結界。
教会を回って祈りを捧げた後に、長蛇に並ぶ列を見ながら傷や病気の治療。
国の会合へ同行して、異国の聖女として何故かアクセサリーのように自慢される日々。
衣食住は保証されているが、賃金は他の聖女達と同じである。
周りの聖女達はいいかもしれないが、レーナは割に合わないことは確かだ。
こればかりは勤勉な自分が嫌になる。
なんせ他の聖女達は貴族の令嬢ばかりで、色々な事情と他にやることがあるらしく自由出勤である。
しかし城で暮らしているレーナには自由などないという鬼畜っぷりだ。
何より最悪なのは国王の命令により、王太子であるジェイデンと婚約する羽目になったことだろう。
この国の伝承通り、異界からきた聖女はすごい力を持っているらしいがレーナもそうだった。
ここで力なくポンコツだったのなら捨てられて自由を得ることができただろうが、それも出来ないままだ。
エイブリーと婚約したかったジェイデンは嫌がり、駄々を捏ねている。
しかしこちらもジェイデンと結婚なんて絶対に絶対にお断りであるが『異界からきた聖女と王族が結婚するのはしきたりであり、それができなければ国に不幸が訪れる』と言われているそうだ。
しかし何百年振りかに召喚された聖女であるレーナが王妃になることに反対する貴族達も多いと聞いた。
何よりジェイデンの母親である王妃に散々嫌味を言われることと、ジェイデンの我儘を無視する日々が続いているため、さっさとこんな婚約を破棄してしまいたいと思っていた。
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