第二章 セブンスソード

第6話 優しさの隠し事

 俺たちは管理人を名乗る男と戦った。俺が剣を出せたことだってそうだがいったいどうなってるんだ?

 その説明を聞くため俺たちは学生寮に向かっていた。沙城さんから話を聞くためだ。本当は女子は立ち入り禁止なんだけどこの際いいだろう。


「ここが聖治君の部屋かあ~」


 星都や力也はよく来るが沙城さんは初めてなので目を輝かせて見渡している。とはいえよくあるワンルームアパートでそんな顔で見られると恥ずかしいんだけど。


「てきとうに座ってくれ」


 星都は学習机の椅子、力也は床に、沙城さんはベッドに腰かける。俺は落ち着けないから座る気になれず立ったままだ。それでこれから話をするんだが。


「えっと、沙城さん? なにしてるの?」

「え?」


 俺たちはあんなことに巻き込まれてかなりシリアスになっている。というのに、この人はなにを思ったのかベッドから下りると裏を覗いていたのだ。四つん這いになりお尻がこっちを向いているからスカートがギリギリだ。


「彼氏チェック」

「そういうのいいから」


 この状況分かってるんだよね?

 沙城さんは素直にベッドに座り直した。


「さっそくだけど」


 ここに集まったのは他でもない、さきほどのことを説明してもらうためだ。俺たちが巻き込まれたというセブンスソード。それを彼女から聞かなければならない。沙城さんの緩んでいた頬が引き締まる。


「うん。セブンスソードのことだよね。聖治君はなにも知らない、というか覚えてないから驚いてると思う。だからこれから説明をしていくんだけど、その前に確認いいかな?」


 なんだろうか、確認するもなにも俺は本当に知らないんだ。答えられるとは思えないけど。


「皆森君と織田君は、知ってたよね? セブンスソードのこと」

「え?」


 振り返る。見れば星都は足を組み腕を机に置いてやや厳しい表情だ。力也は俯いている。どういうことか分からない。沙城さんの確認、そして俺が視線を向けているのに二人は反論どころかなにも喋らない。


「おう」


 しばらくしてから、星都が口を開いた。


「俺と力也はお前らよりも前にここに送られた、スパーダだよ」


 信じられない。今までの中で一番信じられないかもしれない。


「なんだよそれ、おま」

「なんだよ、文句あるってか」

「当たり前だろ!」


 星都が知っていた? 力也も? なんで? それを知ってて俺に黙ってたってことかよ!


「知ってたってどういうことだよ、それでなんで黙ってたんだ!?」

「聖治君、落ち着いて落ち着いて」

「落ち着けって言ったって、こいつらは俺を」

「ごめん、ごめんねえ、聖治くん」


 俺は詰め寄るがそこで力也が泣き出した。俯いた顔はよく見えない。だけど涙ながらに謝るその声に俺はなにも言えなくなっていった。


「黙ってたのは事実だ。お前がショックを受けるのも分かる。でもな、お前がスパーダだと確証が持てなかった。それに、仮にそうだとしてもだ。お前、いいやつだからさ。敵になりたくなかったんだよ。こんなこと打ち明けてさ、気まずいだろ」

「それは」


 星都の言うことは、理解できる。セブンスソードのことを話されていたら俺はどうしていただろう。それでもなお友達だと思えただろうか。いや、そもそも信じられるか、こんなことを?


 たぶん、無理だと思う。星都の言った通り気まずくなるだけだ。


「問題の先送りでしかなかったっていうのは、分かってた。いつかこうした日が来るってさ。でも、それまでは過ごしたかったんだ、ありきたりな日常ってやつをさ」

 星都には珍しい寂れた声色だ。もしかしたら普段の明るさは星都なりに一生懸命今を過ごそうとしていたのかもしれない。

「許せねえか?」

「いや。……二人の言いたいことは、分かった」


 二人は俺を騙そうとしていたわけじゃない。むしろ気遣って黙っていたんだ。


「聖治君、混乱するのは分かるよ。でもまずは話を聞いて? ね? 二人も言いたいことあると思う。だけどまずは私から説明させて欲しい」

「好きにしろよ、お前から仕事取る気はねえよ」


 それで話が沙城さんに戻る。


「セブンスソード。それはスパーダと呼ばれる剣を持った七人で殺し合いをする儀式のこと。譲歩は駄目、それじゃ意味がない。必ず死んだ相手から奪う必要がある。スパーダは分かるよね?」

「まあ。俺たちが取り出した剣のことだろ?」

「そう。私たち参加者のこともスパーダと呼ぶんだけど、一人につき一つのスパーダが与えられる。スパーダには特殊な能力が宿っていて、見せた方が早いかな」


 そう言うと沙城さんはスパーダ、ピンク色の刀を取り出した。突如現れる刀が彼女に握られる。


「これが私のスパーダ、桃源刀、天志。怪我を治す治癒の刀。スパーダは倒した相手のスパーダを奪えるんだよね。それだけじゃなくスパーダは獲得数が上がると段階的に新しい能力が使えるようになっていくの。最初は一つしかないけど二つ、三つと増えていく感じでね。それが譲歩だと機能しないんだ」


 なるほど、だからあくまで殺して奪う必要があるのか。


「聖治君もあるよね、スパーダ」


 沙城さんに言われ俺も手をかざす。


「シンクロス」


 脳裏に浮かんだ名前。まるでもう一つの自分の名前のように。それは俺の目の前に現れ手に取った。ゴシック調の不完全な十字架が黄色に輝いている。


「うーん」

「? どうした?」


 そこで沙城さんが不思議そうにシンクロスを見ているのに気付く。


「いや、私が知ってるのとは少し形が違うんだよね。前見た時はちゃんと十字架の形してたのに」


 そうなのか? 鍔が欠けている、原因はなんだろうかと聞いてみるが沙城さんも分からないようだ。

「なあ、スパーダには能力があるんだろ? 俺のはスパーダの遠隔操作ってことか?」

「ううん、あれはあくまで聖治君の技術だよ。念じれば出したり消えたりするでしょ? それの延長線。とはいえあんなこと出来るのはきっと聖治君だけだけどね。それとは別にシンクロスの能力があるはずだよ」

「なるほど。それってどう発動するんだ?」

「出した時みたいに念じれば出来るよ。発動とか、心の中で言ってみて」

「分かった」


 そういうことならやってみるか。シンクロスを眼前に持ってきて目を瞑る。いったいどんな能力が出るのか。意識を集中して、目を開けた。


 念じる。発動しろ!


「……?」

「? どうした、しないのか?」

「いや」


 シンクロスを見る。裏側や剣先、柄の底まで見てみるが。


「した。発動してるはずなんだが」


 なにも起きなかった。部屋の中はもちろん形状にも変化がない。形が変わったとか色が変わったとか、本当になにもないんだ。


「なんだこれ、故障か?」

「そんな、テレビじゃないんだな」


 刀身の横っ腹を拳で小突いてみるがなにも起きない。どういうことだ? スパーダには能力が備わってるんだろ?


「うーん。おかしいな、能力がないはずないんだけど」

「分からないか?」

「私もこれを使ってるの見たことないんだよね。もしかしたら条件とかあるのかもしれない」

「マジかよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年1月9日 18:00
2025年1月10日 18:00
2025年1月11日 18:00

セブンスソード~君を助けるまでいつまでも待ち続ける(何度もループする) 奏せいや@Vtuber @helvs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画