第4話 管理人の登場
それから午前中の授業が過ぎていくのだが休み時間になると沙城さんは欠かさず俺のところへと来ては周りを注視していた。そのあり方は恋人というよりもボディーガードみたいだ。トイレに行くときも着いてきてビックリした。さすがに男子トイレまでは来なかったが。
そんなこんなで一日中彼女は俺にべっとりだった。ボディーガードというよりもストーカーみたいだ。彼女には悪いけど。
それで学校は終わり夕日に照らされる通学路を俺と星都、力也は歩いている。
「で、どうするんだよ?」
「どうするって聞かれてもな」
俺はそっと背後に振り返ってみる。そこには少し離れた距離で沙城さんが歩いていた。俺と目が合うとニコっと笑って手を振っている。
「すげーよな、一日中あんな感じだろ?」
「俺も驚いてる」
「聖治くん、ほんとに沙城さんのこと知らないのぉ?」
「それが何度振り返ってみても思い出せないんだよ。あんなに強烈な子忘れないと思うんだけど」
「忘れられないの間違いだろ。俺ならラブコメ読めなくなるわ。リアルで出会うと怖いが先に来るんだな」
転校生のインパクトは巨大すぎて俺たち全員焼肉食い放題で食べ過ぎたみたいな顔で歩いていた。
「ねえ」
「おお」
そこで沙城さんが入り込んでくる。ピンク色の長髪がさらりと流れ可愛らしい瞳が俺を覗き込む。ほんと、容姿はとてもきれいなんだけどな。
「聖治君、どう? 私のこととか昔のことなにか思い出した?」
「その設定まだ生きてたんだな」
「設定じゃないんです! 皆森君は黙ってて!」
「沙城さん、悪いんだけど」
「そんな。困ったな」
彼女は何度も尋ねてくるが答えは変わらない。何度聞かれても同じだ。変わらない答えに沙城さんも悲しそうな顔をしている。とはいえどうしたものか。
そんなこんなで歩いていたが星都が立ち止まる。
「どうした星都、お前も初対面の恋人がいたか?」
「なあ、おい。あれ見ろよ」
「ん?」
「あんなやついたか?」
星都の視線を追いかける。夕暮れの茜色に包まれた住宅街、この時間車や人はあまり通らない。けれどこの時気が付いた。俺たち以外の音がない。話し声や車の音だけでなく影すらない。
そんな逢魔が時の静けさの中、俺たちの正面には黒衣の人物が立っていた。全身が黒で統一された外套を着ておりフードを目深に被っているため顔は見えない。けれど背は高く体格もしっかりしている。
なにより、その人物が放つ重苦しい雰囲気がこの場を一瞬で支配していた。
例えるなら道端でライオンを見つけたみたいに一瞬で危険だと分かる。だから俺たちは全員黙りその人物を見つめていた。
「さて」
その声は男のものだ。
全員が男に注目する。警戒、危機感。そうした視線の中この男は俺たちへ告げる。
それが悪夢の始まりだった。
「ようこそスパーダ諸君。セブンスソードが始まった。私はその管理人。そしてここにいる全員が参加者だ」
なにを言っているのか分からない。セブンスソード? 参加者?
「では殺し合ってくれ。以上だ」
なに?
男の言葉が理解出来ない。いや、理解は出来るんだが頭を通過していく。
「誰だか知らないがいきなりなんなんだ、俺たちに用か?」
意味が分からない。反論するがこの男の雰囲気に圧されてる。口が上手く回らない。
「なるほど、そう言うだろうな。俺もいろいろ考えていたよ、セブンスソードの管理人としてどう自発的に儀式をしてもらえるか。それで悩んだ挙句思いついたのはこれしかなかった」
この男はなにか常識とか通常とかそんな枠組みの外にいる。
感じるんだ。男から漏れ出す威圧感が本能的に敵なんだと認識している。
「脅迫だ」
この男は本気だ。殺そうと思えばいつでも殺せる、殺気というのを初めて感じている。
「スパーダを出せ。セブンスソードは始まった。お前なら出来るはずだ」
「待って!」
「沙城さん?」
「あなた、魔卿騎士団の者よね?」
彼女が俺たちの前に出る。魔卿騎士団? なんだそれ。彼女の知り合いなのか? どういうことなんだ。彼女はなにを知っている?
「未来組か、話が早い。当初の予定とは違うが君の参加は歓迎するよ。儀式が順調に進む分には問題ない」
「セブンスソードをいきなり始めるつもり? 聖治君には記憶がないんだよ?」
「それはさして問題ではない。力持つ者同士が食らい合い最強の器となる。俺たちが求めるのは新たな団長。それさえ手に入ればいい」
男の言っていることはなに一つ分からない。ただ沙城さんは分かっているようで二人を中心に会話が続いていく。
「そのためにいるんだろう?」
「それはどうかしらね」
男が危険だってことは沙城さんだって分かっているはず。だけど彼女は引かない。ただ不思議な女の子って印象だったけど。その姿を見て思う。
彼女は芯が強い。その強さの裏になにか大きなものを背負っているのだと分かる。
「こうなることは分かっていたはずだ。その覚悟もあるはず。ならば剣を取れ。それが出来ぬなら用はない」
そう言うと男は右手を前に突き出した。その先から巨大な槍が出現する。長さは身長を超え、さらに十字の刃もでかい。ハルバートに似た槍を男は片手で軽々と持ち上げていた。
「私が殺すまでだ」
いきなりの事態、さらにあんなものを見せられて動悸が早まる。緊張に体が痺れてくる。
なのに。
「お断り。私は回収しに来ただけであって殺し合いまでするつもりはない。一緒にしないでくれる?」
彼女は堂々としていた。
「残念だ」
直後、男が迫る。数歩はある距離を一足で詰め槍を突いてきた。
速い! 刃が沙城さんに迫り生と死が反転する、その直前。
沙城さんは動いていた。
「来い、スパーダ」
彼女の手元に現れる桃色の光。そこから一本の刀が現れる。
「桃源刀(とうげんとう)、天志(てんし)!」
それは突然だった。夕暮れの町、俺たち以外誰もいない場所で剣戟の音が響く。
彼女は刀を手に男の槍を防いでいた。
いきなり現れた刀。白い鞘から取り出されたそれは刀身がピンク色をした日本刀だ。
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