帰る

森下 巻々

(全)

 上から三番目のお兄ちゃんが帰ると言ってきて、十日が経った。

 今日辺り、お家に帰って来そうだと思った。

 もう長いこと会っていない。たくさんの同級生達と一緒に汽車に乗って東京に行ったと聞いてから、どのくらい経っているだろうか。毎月、決まった日になると、郵便屋さんが封筒を届けに来てくださっているのは知っている。それは、上から三番目のお兄ちゃんからの手紙らしくて、必ずお父さんの手に渡る。

 お姉ちゃんなんかは、このお兄ちゃんには感謝しないといけないと、いつも私に言っている。お姉ちゃんは、ずっと前にどこかのお家へお世話をするために、このお家を離れたことがあったけれど、戻ってきていた。いまは、昼間、近所に生まれた赤ちゃんをおんぶしながら、ゴム飛びなんかをして遊んでいる。

 私が、こうやって明日に提出する綴方は、家族のお話にしてしまおうと考えている間に、本当に、上から三番目のお兄ちゃんが帰ってきた。

「おー、幸子か。大きくなったんじゃないか。お土産だぞ」

「私、男の子じゃないよ。汽車の模型でしょう、これ」

「そうか……、いらないかあ」

「いる!」

「そ、そうか?」

「いるもん!」

   (「帰る」おわり)

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帰る 森下 巻々 @kankan740

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