Goin' Home

獅子2の16乗

【パパ】帰るよ

 うん、あと20分ぐらいね。


 ちーちゃんは……また、足の指食べてる。


「ちーちゃん、パパ帰ってくるって」


「うー」

「きゃあ」


 いつものことだけど急に声が出始めた。

 やっと首がすわりかけたのに“帰ってくる”が理解できるのかしら?


【ママ】待ってるよ


 …………


「ただいま」

「おかえりなさい。今日はカレーよ」

「おお。ママ大好き」

「カレーの時はいつもそういうね。わかったから着替えてきて」



「ちーちゃん、ただいま」

「おー……おー」


「いつものことだけど、パパが帰って来るって知らせたら急にソワソワし始めて、それまでは無言なのに急に声が出て」

「そうか、ちーちゃん待っててね、パパご飯食べちゃうから」

「お風呂はもう入れたから、ご飯食べたら寝かしつけて」

「うん、わかった」


 …………


「私洗い物しちゃうね」

「おう」


「ちーちゃん、ねんねしようか」

「あぷー」


 第一子で、これまで首のすわっていない赤ちゃんを抱いた経験もないのに、自分でもびっくりするぐらい上手に抱けてると思う。

 市でやってるパパママ教室……いや、あのとき子どもを抱かせてくれたママさんには感謝しかない。

 そういや、あの子俺が抱っこしたらすぐ寝ちゃって、ママさんがびっくりしてたんだよな。


「うー」

「今、抱っこしてやるからな」


 よいしょ


「遠き山に 日は落ちて 星は空を 散りばめぬ」

「今日の技を なし終えて 心軽く 安らえば」

「風は涼し この夕べ いざや 楽しき まどいせん」

「まどいせん」


「きゃあ」


 うーん寝ないね。


「あした浜辺をさまよえば 昔のことぞしのばるる」

「風の音よ雲のさまよ 寄する波も貝の色も」

「ゆうべ浜辺をもとおれば 昔の人ぞしのばるる」

「寄する波よ返す波よ 月の色も星のかげも」

「はやちたちまち波を吹き 赤裳あかものすそぞぬれひじし」

「病みし我は すでにいえて 浜の真砂 まなごいまは」


 …………


「ちーちゃん寝た?」

「ぷー」

「寝ない」

「えー、寝たら久しぶりに……と思ったのに」

「えー、はこっちのセリフだよ。静かになったから布団に置いたらぐずりはじめて……レパートリーを使い切ったよ」

「昼寝させた?」

「あ、結構寝てたよ」

「それが原因か」


「ドライブ?」

「うん、そうだな。じゃあ、いこうか」

「待って、着替えるから」


 またお預けかよ……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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