《完結》卒業式の前日まで耐え続けていた私の怒りが爆発する

コウノトリ🐣

第1話 喧嘩両成敗は不公平

 私は出っ歯で、そのことをずっと気にしていた。なのに彼はいつも私のことを「ネズミ」って呼ぶ。嫌だって何度も伝えたのに、彼は全く聞き入れようとしなかった。


 小学校卒業の前日、私はとうとう我慢できなくなった。相手は言葉で攻撃してくるのだから、本当なら言葉でやり返すべきだったのかもしれない。でも、そんな冷静な判断はどこかへ吹き飛んでいた。


 放課後、彼が私に近づき、揶揄ってくる。いつもなら、適当にあしらう。けど、もう卒業なのにこのイラつきを放っておくことはできなかった。


 いつものように揶揄って逃げる彼。それを追いかけて、殴ってやった。いや、実際には力も入らず、ただ彼を追いかけながら手を振り回して叩いたようなものだった。


 運悪く、その場面を担任の先生に見られた。当然のように先生に呼び出され、私と彼の両方が事情を説明することになった。


 先生は彼に言った。「君は、彼女が嫌がっているのに『ネズミ』と呼び続けた。それを謝りなさい。」

 そして私にはこう続けた。「暴力に訴えたのは良くない。だから君も謝りなさい。」


 ――どうして私が謝らないといけないの?

 一年間、私はずっと我慢してきたのに。嫌だって伝えて、それでも我慢して、それでも彼が止めないから、とうとう叩いた。

 私、そんなに悪いことをした? 叩いたっていっても、彼にケガをさせたわけでもないのに。


 「ネズミって言ってごめんね。」


 彼がヘラヘラと笑ってつぶやいたその謝罪は、反省のかけらも感じられなかった。その目はまるで、「言えば済むんだろ?」とでも言いたげだ。


 そんな相手に、どうして私が謝らないといけないの? 先生は「ほら、君も早く謝りなさい」と促してくる。淡々とした声で。


 私のことなんてどうでもいいんだろう。その声は事務的で感情が込められていなかった。


 ――私の我慢は、そんなに軽いものだったんだ。

 涙がこぼれそうになるのを奥歯を噛みしめてこらえた。絶対に謝ってやらない。そんな不公平なこと、認めたくない。


 私は俯いて何も言わず、ただ先生を睨みつけた。

 それが私にできる、唯一の抵抗だった。

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《完結》卒業式の前日まで耐え続けていた私の怒りが爆発する コウノトリ🐣 @hishutoria

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