第3話 推しとの蜜月
「ちょっと先輩、ちゃんと説明してくださいよ。なんであの女性客に執着するんですか?」
後ろで束ねた長髪をなびかせながら前を走る先輩に必死で追いすがりながら問いただす。
「達彦くん、いま説明してる時間はない。そもそも君が一緒に来るってきかないからお店を閉めるのに時間がかかったんだよ」
この人はホントに、あー言えばこーゆーを地でいく人だ。頭の回転が早くてどんどん先にいく。いつも余裕があるように振る舞っていながら、組でのノルマも軽々こなしている。こっちも必死で走ってるのに先輩の背中はどんどん遠くなっていく。
・・・物理的に。
「てかなんで先輩、電動キックボード乗ってるんですか!?」
自力で走っている僕は坂道で大きく離された。
「この乗り物は現代において最もスマートで坂の多いこの街に適した移動手段だ。レンタルなら費用も抑えられて好きな時に使える・・・」
「だからそういうこと聞いてるんじゃなくて〜!」
◆◆◆
両手に提げたエコバッグを左手に持ち替え、鍵を開けて部屋に入った。すぐに鍵をかけるとどっしり重いエコバッグをテーブルの上に置く。元は部屋の片隅に置いていた
「ぉぃ響!ぃつまでこんな狭ぃところに・・・」
あ、いけない。キラ様を出してあげなきゃ。私は肩から提げたポーチに入っているアクスタケースを取り出した。中にはキラ様の
ケースのジッパーを開けると、ものすごい勢いで小さなキラ様が飛び出してきた。
「まったく、なんでこんなに狭いところに閉じ込められなきゃいけないんだ。それもこれも、お前がこんな小さなアクリルスタンドで私を呼んだからだ」
「だって、アクスタって手に入りやすいし、肌身離さず持ち歩くには一番便利だし、それに写真とか撮るのにも最適で、SNSでもみんなそうやって共有してるし・・・」
「口答えをするな。まあ、お前の信仰心のおかげで、こうして私が顕現できたんだがな」
命令口調なのにお優しい。このギャップ萌えが
あの生誕祭の日。私の前に現れたキラ様は、私がお供えしたマロンショートを平らげると、祭壇から私を見下ろした。
「お前が私を呼び出したのだな。褒めて遣わす。名を名乗れ」
ポカンとしつつも解釈一致すぎる
「水沢響と申します」
「いいだろう。水沢響。今日からお前が私の世話係であり、ご主人様だ。・・・ん? ご、しゅ、じん、さま?」
なんだろう。混乱してるみたいだ。
「あ、えっと、輝羅丸様は作品の設定上執事になりますので、関係性で言うと、まあこの場合、私がご主人様、で、いいのかなー、あはは」
「まあいい。引き続き私を崇めなさい」
それからキラ様はあらゆるグッズを買い漁らせた。グッズが多ければ多いほど顕現する時間が長くなると言って。私は推しとの暮らしが楽しすぎて、生活の中心がどんどんキラ様になっていった。気づいたらネットで10万円のプレミアアイテムをポチっていたし、限定グッズを買いに行くために会社を休むことも厭わなくなった。
「なんでキラ様は、私の元に顕現してくださったんですか? もっと立派な祭壇を作っているファンも山ほどいるんじゃないんですか?」
私は自分の中にある不安をぶつけてみた。重い女と思われたりしないだろうかと内心そわそわしながら。
「ふん。推しだの神だの言ってても、結局は安物ばかり買っている者も多い。ファイルもケースも100均製、そんなもので祀られても居心地が悪いだけだ。お前は量は少なくても質を選んで買っていた。上質なものにこそ宿る価値はある」
そう言われると鼻が高い。私はキラ様に選ばれたんだ。心と心が通じた気がしてファン冥利に尽きる。にやにやが止まらない。私はキラ様にどんどんお金を
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