第2話 推し活グッズショップ

 サイリウム、カラーテープ、アクスタケース、クリアホルダー収納ファイル、うちわ作成キット…雑多な商品がきっちりと区分けされて並べられている店内を見渡して、僕はため息をいた。

「先輩、なんでこんなお店始めたんですか?」

 先輩は上の方の棚に商品を陳列しながら、振り返らずに答えた。

「達彦くんは、誰かを応援することに夢中になったことはないのかい?」

 質問に質問で返すなよ。そういうことを聞きたいんじゃないんだけどな、と思いつつ答える。

「まあ、アイドルグループを好きだった時期はありますけど、ライブとか握手会とか行ってまで見たいってほどじゃなかったですね」

「私はね、そういう誰かを応援している人を応援したいんだよ。現代は人と人との繋がりが希薄だからね、手の届かないアイドルやアーティスト、あるいは二次元の対象に人生の救いを求めることは、至極自然な流れだと言えるわけで…」

 先輩のオタクスイッチが入ってしまった。ああめんどくさい。

「だーかーら! 組のノルマもきついのに、なんでこんな暇な商売始めたのかって聞いてるんですよ。他の人たちはあちこち飛び回って獲物を探してますよ」

「達彦くん、このお店で組とか獲物とか物騒なこと言わないでくれるかな。お客様が聞かれたらあらぬ誤解を招くでしょう」

 誤解も何も、僕らがそういう稼業なのは事実でしょうが。まあ、現代じゃ世間体が良くないのかもしれないけど。

「わかりましたよ、で、このーリストバンド? はどこに置けばいいんですか?」

 僕の手にはさまざまな色のリストバンドが敷き詰められたダンボールが載せられていた。


 ピロリロリロ〜…。


「いらっしゃいませー」

 入店音に先輩が素早い反応をする。接客スキルばかり上げてきやがって。

「ほら、ボーッとしてないで仕事して。それはカラビナの仲間だから、三列目の奥のネットにかけて。ちゃんと色別に分けてね」

 先輩がこっちを向いて小声で指示を出した。


「せんぱーい、陳列終わりましたー」

 ちゃんと仕分けたら18色あったリストバンドの陳列をようやく終えて、レジの先輩に報告する。

 ドサッ…!

 レジにはさっき入ってきた女性客。2つの買い物カゴいっぱいにアッシュグレーの推し活グッズが山積みされている。うっわ、一回であんなに買うの? 推し活すげー。

「いつもありがとうございます! こんなに推されて輝羅丸くんも幸せですね〜」

 レジで話しかけられたお客さんは一瞬ビクっとしたように見えた。先輩、お客さんの推しまで覚えてるのか。でも完全に気味悪がられてるじゃん。見てらんないよ。

「あ、レジ袋いいです。自分でやります」

 レジを通した商品を袋に詰めようとする先輩を制して、お客さんはエコバッグ…キャラクターがデカデカと描かれたエコバッグに自分で商品を詰め始めた。

「ありがとうございました〜。またのお越しをお待ちしてま〜す」

 お客さんは顔を伏せたまま店を出て行った。

「せんぱーい! なーんすかあの接客! お客さんビビっちゃってましたよ」

 お客さんがいなくなってすぐに先輩をいじりに行く。先輩はやたらと深刻な顔をしている。めっちゃへこんでるじゃんこの人。

「達彦くん、店番を頼みます。私はあの人を追うので」

「はあ? ちょっと早まらないで! それはさすがに逆恨みすぎるって!」

 ちょっとこの人、マジでなにするつもり?

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