第2話 ぺんたんが人間なら

私が書いている小説になんて興味ない。

興味があるのは私の身体だけ。


お母さんにも言ったし、知ってはいる。

でも、何も言ってくれなかったし、何もしてくれなかった。

この人はお金を持っているから、私は生活のための生贄なのだと悟った。


それでも嫌なものは嫌だから、最初のうちは抵抗したけど、もう殴られるのも嫌だから何もしない。


――ただ、心のスイッチを切って、その時が終わるのを待つだけ。


――ぺんたんを抱っこしながら、地獄から解放されるのをひたすら待つだけ。


「今日も可愛かったよ、莉亜。また明日もしようね」


地獄の時間が終わればまた心のスイッチを入れるだけのこと。

毎日の定期イベントのようなもので、別になんてことはない。


そう…別になんてことは…


「何もしてあげられないでごめんね」


何度も聞いたセリフだ。

正直、あまり言ってほしくない。


ぺんたんが悪いわけでもないのに、優しさに触れたら、辛いのが溢れてきちゃうから…


「今日こそはクチバシで突いてやろうとしたんだけど、やっぱり無理だったよ」


「だってぺんたんは…ぬいぐるみだもん…」


「大好きな持ち主の役に立てないなんて、ぬいぐるみ失格だよ」


自嘲するぺんたんを私は思いきり抱きしめる。


「水分はモフモフの敵だけど…ぬいぐるみとしては、悪い気はしないよ」


ぺんたんの優しさが染み渡るほど、ぺんたんの毛は私の涙を吸収していく。


性の捌け口になる人形を演じていれば、なんてことはないのに、1人の女の子に戻ったら、いつも現実に耐えきれなくなる。


誰か…私を救って…


私が書いた小説に出てくるような素敵な人がいればいいのに。

ぺんたんが人間の男の子だったらと思って書いたような、ああいう人がいれば…


「ボクが人間なら、莉亜ちゃんを泣かせたりしないのに」


「ありがとう…ぺんたんがいれば大丈夫だから、本当に大丈夫だから…こうやっていさせて…?」


「ボクより幸せなぬいぐるみはいないだろうね」


「ぺんたんが幸せなら嬉しいよ…?」


「莉亜ちゃんが幸せなら、ぬいぐるみとして本懐なんだけどね…」


ぺんたんを抱っこして得られる安らぎが眠りの世界に連れていってくれる。


ありがとう、ぺんたん。

大好きだよ。

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