第22話

「ごめんね司君、ひどいことしてごめんね?」

「よせ、俺はそんな事望んでない」


 工作用のカッターだ、あれでどのくらい切れるか分からないけど、場所によっては傷痕が一生のこるし、最悪命にだって関わるかもしれないんだ。


「ちょっとあんた、やめなって」

「ねえ、話し合おうよ」

「止めて下さい花城さん」

「だって、だって、謝らないと」

「お前な、んな事やっても詫びにならないぞ」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 半泣きで笑いながら、凪咲は左手の小指を立てて前に…小指?


「…ん?それ何のジェスチャーだ?」

「うん、どうしても許してもらいたい時は、相手に小指をあげるんでしょ?」

「…お前もしかして、エンコ詰めようとしてんのか?」

「え、ウソ?冗談ですよね花城さん?」

「任侠映画?だし」

「あれ?こういう子なのかな?」


 …なんだこの、なんだ?

 いやいや、それでも刃物持ってんだから危ない事には変わりない。


「あれっ?このカッター、チキチキやっても伸びてこないの」

「花城さん、それ刃が入ってないんじゃないかな?」

「え…」


 …。


 よし。


「お前らその女を取り押さえろ!」

「ああ、ああ!」

「おとなしくすんのよ!」

「なに兄さんに近づいてやがんですかこの◯ッ◯!」

「あ、一応カッターはこっちに貰うねー」

「このアマァ!刃物さえなきゃこっちのもんだぞ!」

「やぁぁぁ!」

「男は引っ込んでて!…花城、あんた綺麗な肌ね」

「えっ、えっ?」

「どさまぎでセクハラすんなよ星沢」

「はぁ?セクハラしてないし」

「なんだテメェ?」

「なによやんの?」

「心愛ちゃん、他に危ないものは見当たらないよ」

「とりあえず日向さん、彼女には居間に来てもらいましょうか」


 刃が入って無かったのか。

 伸ばしてないだけかと思って、そこまで見てなかったな。


 まあ、取り押さえる時に俺だけだと怪我させたかもしれんしな。

 心愛たちに来てもらったのは間違いじゃなかったな、うん。


「ちっ、騒がせやがってこの女め」

「はぁ、刃が無いカッターで騒いだマヌケが何をいってんだか」

「うるせえな仕方無えだろう」


 焦ってたんだよ、本当に。


「花城さん、どのみちカッターごときでは骨に負けて折れるだけですよ」

「え、そうなの?そうなの…」

「そうだね、床を血で汚すことになっただけだね」

「そんな事になったらアパートの敷金が戻って来ないじゃないですか、やめてくださいね」

「それは困るぞ」

「ご、ごめんなさい…」


 ここの敷金3ヶ月分払ってんだからな。


「あんたは大人しくしてなさいよ」

「ぎゅうぅ…」


 ソファーに座らされた花城は隣の星沢が肩を組んでしっかり抑えてる、ヤンキーだな。


「この女バカみたいな理由でとんでもねえ事しようとしやがって」

「そうですね、カッターの刃が入ってたら笑い事じゃすまなかったですよ」

「あのね、ああいうのは全部フィクションだから真似しちゃダメだよ?」

「あう、は、はい…」

「大体な、お前の小指なんざ貰っても1円の金にもならねえんだよ」

「あんたも言い方がヤクザみたいになってんだけど」

「すまん何か引っ張られた」


 さて、凪咲めどうしてくれよう。


「兄さん、通報したい所でしょうが、一旦ココ達に預けてもらえませんか?」

「そうだね、丁度花城さんとは色々お話ししてみたかったんだ」

「心愛ちゃんお兄ちゃんの前では自分の事ココって言うんだ。可愛い」

「ちっと黙ってろクソギャル」

「よし決着つけるし陰険男」

「二人とも静かにしてね」

「おう…」

「ごめん…」


 しかし、今更何を話すんだ?

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