第1話

 窓際最後尾、これが俺の席だ。


 中学時代友人が居なく、勉強ばかりしてきたお陰でソコソコの進学校に入れたが、偏差値の割に頭が花畑で出来てるヤツが多い我が校は、初日からくじ引きで席替えをやった。

 その結果、回りが騒がしい女子ばっかりの席になりそうだった俺は、こっそり今の席を引いた男子に『可愛い女子ばっかりの席と交換しないか』と取引。

 そいつも喜び、俺も嬉しい、WINWINな取引だ。


 お陰で入学から半月ほど経つが、比較的に平和な学校生活を過ごせてる。

 窓際でのんびりとマンガの新刊を読んでる時が、唯一学校で価値ある時間だな。


「ねえねえ、今日は何読んでるの?」


 …この、前の席の女が居なければ。


「なんで話しかけて来るんだよ」

「相変わらず冷たいなぁ」

「前も言っただろ、俺は中学時代に同級生に騙されてから、女嫌いなんだ」

「そういう割にはちゃと会話してくれるね?」

「俺が嫌いな連中と同じことをやりたくないだけだ、無視されてたからな」

「…なんかゴメンね」

「お前の事じゃないから気にするな」


 …やりにくいヤツだな。


「俺は女って生き物は、都合よく嘘を付き、イケメンには媚を売り、見栄とステータスだけで結婚して、浮気して托卵して離婚して、慰謝料だけむしり取って去っていく害虫だと思ってるからな」

「…さすがに言い過ぎよ、そんな女性いないでしょ、それは怒るよ?」

「全部俺の元母親の事だよ」

「…なんか、ホントごめん」

「いや、俺が勝手に喋っただけだしな」


 つい喋りすぎたな、こんな事まで言う必要無かった。


「佐藤君、同級生だけじゃなくて、お母さんとも色々あったのね」

「まあ、知ってるヤツはあんまり居ないな、まず友達が居ないし」

「悲しいわね…」

「俺の人生を否定するな、同情すんならあっち行け」

「はいはい、休憩終わる前にお花摘み行かなきゃ」

「おう、がんばれ」

「適当ね…」


 最後にぶつぶつ言いながら、どっか行ったな、まあいいけど。


「ねえ、アンタ」


 …ん、誰だ。


「何だ?」

「…芽衣めいと喋んないでくれる?」

「んーわかった」

「…。」


 ――ドカッ


「いってぇ!何すんだお前!」

「こっち向きなさいよ」

「…誰?」


 女子?

 なんか黒髪ギャルっぽい、キツそうな女だ…俺が特に苦手なタイプだな。

 クラスメイトかな?知らんけど。


「誰でもいいでしょ」

「まあそうだな」

「…はぁ。あのね、あんま芽衣と馴れ馴れしくしないでくれる?」

「…めい?って誰だ?」

「…冗談よね?」

「いや、ゴメンほんと誰?」

「…嘘でしょ、マジなの?」


 女子だってのは分かる、そして俺が女子の名前なんぞ憶えるわけがない。


「…はぁ、アンタの前に座ってる子よ」

「あぁ、はいはい…別に馴れ馴れしくはしてないけど?」

「しゃべんなっつってんのよ!」

「あっちが話しかけてくるだけだ、俺から話ふってる訳じゃない」

「アンタが答えなきゃいいでしょ!」


 …やっぱ女はバカだな。


「つまり、お前…俺にその女を、いじめろって言ってんの?」

「は、はあ!?何でそうなるわけ!」

「だって、そいつの事無視しろって言ってんじゃん」

「ち、ちがうわよ!」

「違くねえだろ、自分のセリフ思い出せ」


 何で俺が、いじめの加害者にならなきゃいけないのか。

 本当に女は考えないで話をすすめやがる。


「あ、あたしはただ、芽衣に変な男が寄り付かないようにって」

「ああ、お前も俺の中学時代の噂、知ってる口か」

「そ、そうよ!あんたみたいなのに付き纏わられたら芽衣が可哀想じゃん!」

「あー分かった分かった、じゃあ本人に言えよ、俺はそいつの後ろ姿しか見たこと無いし」

「…は?」

「いつも、マンガかスマホ見ながらしか話してないから」

「…本気で言ってるの?」


 なんか明るい髪色だってのは分かるけど、顔は見たこと無いな。

 無理やり視界に入り込もうとしてきた時はあったけど。


「あとさ、ついでに他の女子にも『俺に近づくな』って言っておいてくれる?」

「な、なんでそんな事言ってるわけ…?」

「キライなんだよ、女は嘘つきだから」

「…何よそれ」

「はぁ…お前が癇癪おこして俺にケリ入れた件は目を瞑るから、さっさとあっちいけって言ってんだよクソが!」


 足跡ついてんじゃん、全く。

 はたいても中々落ちないな、鬱陶しい。


「…分かったわよ、蹴ったのは悪かったわね」

「おう、もう来るなよ」


 行ったか、良かった。

 …最後は何か、同情するような声色になってたのが気に障るけど、まあいいか。

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