佐藤君は女性不信です

@usuisio

プロローグ

 俺が女性不信になった理由を聞かれたら、2つの事件が関係してるだろう。 


 1つ目が、中学1年の頃に嘘告白で女子に騙された事。


 理由は女子同士の罰ゲームか何か、まあ詳しくは知らない。

 当時まだガキだった俺は、待ち合わせ場所に来なかった女子を問い詰めた。

 それも喧嘩腰だったわけじゃない、もしかして何か間違えたのか、相手が違ったのか、待ち合わせ場所を間違えてたのか、そもそもイタズラだったのか、それを確認しただけ。

 でも結局、その件で俺は『女子につきまとうストーカー』という誤解を招き、以降ずっと女子に遠ざけられて生きる羽目になった。


 

 後から思えば、あの事件ですらまだ、この後の時の事件に比べればマシだったと思う。



 そして2つ目が、中学2年の始めに起きる。

 両親が離婚するという話になった時だ。

 この時に、俺は自分が『托卵』されて生まれ、父とは他人だと知った。


 両親が不仲になり始めた時、俺は父方についた。

 父親が他人だと知ったのは後になってからだが、もし知っていても俺は最初から父についていたと思う。


 まず、母親が俺の親権を取りたがっていなかったのが見え見えだったから。

 それに、この母親は俺がストーカー疑惑を掛けられた時も、一切聞く耳を持たなかった。

 実の息子の言い分を少しも聞きもせず『なんてことをしてくれたの』『これからご近所に顔向けできない』『息子なら母親の言うことを聞け』『もう学校以外は家で大人しく勉強してなさい』と、見栄と世間体を気にするばかりで、怒りを通り越して気持ち悪いとさえ思った。


 父親も母親も別々の、それなりに良い会社で働く共働き家庭だったが、母親は俺が幼稚園と小学校の受験に失敗してからは、ほぼ興味を示すことはなかった事も関係してるのだろう。

 母親が構うのは、有名私立小学校に入学出来た妹だけ。


 父親は仕事が忙しくて出張も多く、家に居ない事が多い。正直、何を考えているのかよく分からない人だったから、そういう意味では別にどうでもいい人だったが。


 そんな2人が離婚すると聞いて、ああやっぱり、としか思わなかった。

 母親が離婚を仄めかし始めた時の『夫が家庭を蔑ろにしている』という内容の話を聞いた時も、出張が多い父親が現地妻でも作ってるんじゃと、少しだけ思ったし。


 だから、両親の不仲が表面化し始めた時に、俺はコッソリと2人のスマホを覗き見た。


 結局、実際に浮気していたのは母親だけだった知ると、いよいよ母親と敵対することを決めた。

 そう、父親に味方したかった訳じゃないんだ。


 母親は、離婚の話し合い時に弁護士を連れてきて、慰謝料三千万円という話を切り出してきた。

 だが俺は、事前に母親のスマホデータを父親にコピーして渡して相談し、あることを提案していた。

 そしてこの日、浮気相手だった会社の上司と奥さんと呼び出して待機させていたのだった。


 うちの母親のスマホデータと、無愛想な父親の追求だけでは、ここまで話が上手くは行かなかっただろう。

 実際、母親は逆ギレして、あることないこと言い始めたし。

 普段もよくヒステリーを起こしていたが、あの時はいよいよ狂ったかと思った。


 だが、相手方の奥さんはそれ以上に怒り狂っており、なりふり構わず証拠をあつめていた。

 裏切られた女の、怒りと執念は、俺が想像していた以上だった。

 結局、奥さんが連れてきた弁護士は、逆にこちらから倍額以上の慰謝料を請求させた。


 ついでにその時、俺が父親の子供じゃない事も、母親はあっさり白状した。


 その時のホクホク顔だった浮気相手の奥さんと、対象的に泣きそうな父親の顔が、今でも目に焼き付いてる。


 妹は母親の腰巾着だったので、あちらに付いていった。

 まあ、あいつは俺を馬鹿にするような事も無く、寧ろ兄妹仲はそこそこ良かったが。


 そんな妹の有名私立の費用を払いながら、慰謝料を払えるのかと心配になったが、きちんと振り込まれた。

 どうも退職金で支払ったらしい。


 その金が入った時に、血の繋がらない父親は「このお金はお前の将来の為に使う、いくら金が掛かろうと、進路は好きに選びなさい」と、寂しそうに言った。


 そんな事があった結果、俺は人間不信――特に女性に対して――になった。



 まあ、無理も無い話だよな?

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