最終章: 真犯人の告発

真犯人を指し示す論理

カイ・ヴァレンスは、これまでの調査を緻密に再検証し、論理的な推理を組み立てていった。

全ての証拠が旅人アレイン・サルヴァーを真犯人として指し示していることは明白だった。


「影を操る怪物」の知識

アレインは影の魔物に関する伝説や禁術について、他の誰よりも詳細な知識を持っていた。

その情報は、単なる旅人が知り得る範囲をはるかに超えていた。


偽造されたフェリナの研究ノート

フェリナの研究室で発見されたノートには、影を操作する禁術の詳細が記されていた。

しかし、ページの一部が新しく挿入され、筆跡も微妙に異なっていた。

アレインはこのノートの矛盾点に詳しすぎる点があり、彼自身がフェリナを陥れるために偽造した可能性が浮上した。


魔法石の利用と犠牲者の共通点

魔法石は犠牲者全員が所有していたものであり、アレインがこの石の特性を熟知していたことが調査で判明した。

特に、石を活性化する儀式に関する具体的な知識を持っていたのは彼だけだった。


他者への疑念を誘導する行動

アレインは調査の過程で他の容疑者、特にフェリナへの疑念を積極的に煽っていた。その行動は、彼自身が疑いから逃れるための意図的な策略に見えた。


カイはこれらの要素を統合し、アレインが真犯人であると確信した。


廃墟での対峙

廃墟には、影の魔物を召喚するための巨大な魔法陣が描かれていた。

その中心にはアレインが立ち、儀式の最終段階を進めていた。

カイが現れると、アレインは振り返り、不敵な笑みを浮かべた。


「審問官、ついに私の舞台に来たか。どうだ、私を止められると思うか?」


カイは冷静に返答しながら、魔法陣を観察した。


「お前の狙いは分かっている。そして、ここで終わらせる。」


アレインは冷ややかに笑いながら答えた。


「終わらせる?お前に何が分かる?私はただ力を求めたまでだ。私には、これを成す理由がある。」

「理由?」


カイはアレインの言葉を促すように問いかけた。


アレインの動機

アレインは一瞬だけ迷いを見せたが、やがてゆっくりと語り始めた。


「私の故郷は、影の魔物によって滅びた。しかし、私はそこで真実を知った。影を制御できれば、人間の限界を超える力を手にできると。」


彼の声は冷静だったが、その奥に隠された切迫感が滲んでいた。


「影を取り込めば、あの悲劇を繰り返さない力を得られる。そして……失った家族さえも取り戻せる。」


カイはその言葉を聞きながら、静かに首を振った。


「失ったものを取り戻すために、さらに多くを奪うのか。お前の理屈は破綻している。」


アレインの表情が険しく変わった。


「何が分かる!お前に……私の絶望が分かるものか!」


儀式の発動とカイの窮地

アレインは魔法石を魔法陣の中心に置き、呪文を唱え始めた。

黒い霧が立ち昇り、影の魔物が実体化していく。その巨大な姿が廃墟を覆い尽くし、咆哮が轟いた。


「これが私の力だ!影を喰らう怪物として世界を変えてみせる!」


アレインは影と一体化し、異形の存在へと変貌していった。

影の触手がカイに襲いかかり、彼の剣さえ無力化された。壁に叩きつけられたカイは、意識が遠のきそうになる中、懐に忍ばせていた羊皮紙を握りしめた。


「これを使うしかない……」


カイは痛みを堪えながら古代の逆転呪文を唱え始めた。


逆転の呪文と勝利

呪文が完成すると同時に、魔法陣が青白い光を放ち始めた。

その光が影の魔物を包み込み、動きを鈍らせた。アレインが苦悶の声を上げた。


「やめろ!何をしている!」


カイは魔法陣の中心に駆け込み、羊皮紙を高く掲げた。


「お前の儀式を逆転させた。影は再び封印される!」


魔法陣が崩壊し、影の魔物とアレインは吸い込まれるように消えていった。

魔法石も砕け散り、廃墟には静寂が訪れた。

カイは膝をつき、荒い息を吐きながら呟いた。


「これで終わった……影は再び封じられた。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る