第4章: 真相への鍵

影を追う手掛かり

カイ・ヴァレンスは、これまでの調査を通じて見つけた痕跡を注意深く整理していた。

犠牲者たちの現場に残された魔法陣や魔力の痕跡は、いずれも特定の方向性を持っていた。

これらの魔力は、単に消えるのではなく、何者かによって「集められている」ように見えたのだ。


彼は携帯している魔法探査器を改造し、微弱な魔力の流れを追跡できるよう調整を加えた。

そして探査器を用いて、グリースとザードの殺害現場を再び訪れた。

探査器の水晶球が微かに震え、青白い光を放ちながら北西の方向を指し示した。


「街外れに何がある?」


カイは呟きながら探査器を握り、指し示す先へと足を進めた。


廃墟での発見

街外れの廃墟は、かつて錬金術の研究所として使用されていた場所だった。崩れかけた石壁や焦げた床には、過去に行われた魔法実験の痕跡が今なお残されている。

空間全体に魔法の残響が満ち、カイの皮膚に微かな刺すような感覚をもたらした。

探査器が強い反応を示したのは廃墟の中央に置かれた木箱だった。

カイは慎重に木箱を開け、その中から黒い光沢を放つ魔法石を取り出した。

その表面には複雑な紋様が刻まれており、触れるだけで肌に刺さるような強い魔力を感じさせた。


カイは携帯していたルーンスコープを取り出し、魔法石を覗き込んだ。

スコープ越しには、石の内部で黒い霧のような影が渦を巻いているのが見えた。


「これだ……影を媒介にし、持ち主の生命力を奪う呪いの石だ。」


カイは記録帳に詳細を記しながら、この魔法石が犠牲者たちの影を奪った原因であると確信した。


記録保管所での調査

魔法石の正体を突き止めたカイは、石がどのようにして犠牲者たちの手に渡ったのかを調べるため、王国の記録保管所を訪れた。

ここには都市で取引された魔法道具や希少品の履歴が保管されている。


「審問官様、この魔法石の記録がございます。」


記録係が古びた帳簿を差し出した。

カイは帳簿を丹念に読み進めた。魔法石は数年前、闇市で競売にかけられた後、いくつかの個人の手を渡り歩いていた。

その中には犠牲者たちの名前が含まれていた。


・グリース: 工具職人として石を加工しようとしていた。

・ザード: ギルドの象徴として保管していた。

・ローガン: 古代魔術の研究材料として利用していた。


帳簿を読み進める中で、カイは競売に魔法石を出品した人物の名前に目を留めた。

それはアレイン・サルヴァーの名前だった。


「アレイン……彼がこの石を流通させたのか?」


カイは疑念を深めながら帳簿を閉じ、記録係に礼を述べた。


フェリナの研究室へ

カイは、魔法石を「活性化」させた人物がいると確信し、その可能性を探るためにエルフの錬金術師フェリナの研究室を再び訪れた。

内部は実験器具や資料で散乱しており、床には化学薬品がこぼれた跡が残っていた。

カイは机の引き出しを開け、分厚いノートを見つけた。


そのノートには、魔法触媒に関する膨大な実験記録や理論が書き込まれていた。

内容を詳しく読み込んだカイは、フェリナの研究が「影の操作」ではなく、魔法の安定化と効率向上を目指したものであることを理解した。


「これは……彼女の研究内容は、事件とは直接関係がない。」


ノートを閉じたカイは、フェリナが犯人である可能性が薄いと判断した。

さらに、ノートの後半に挿入された新しいページには、影の魔術に関する記述があった。

しかし、その筆跡はフェリナのものとは微妙に異なっており、明らかに偽造の痕跡があった。


「誰かが彼女を陥れようとしている……。」


カイはノートを持ち帰ると決め、次の行動を考えた。



旅人アレインとの対話

「このノートには禁術が記されているが、いくつかの矛盾点がある。」


カイがノートを差し出すと、アレインは興味深げにそれを見つめた。


「影を操る儀式には、生贄が必要だ。しかし、この記述にはその手順が省かれている。不完全だ。」

「つまり、誰かがフェリナを陥れるために偽造したと?」


カイが問いかけると、アレインは一瞬だけ視線を逸らした。


「……そうだ。その可能性は高い。」


カイはその反応を見逃さなかった。さらに質問を重ねる中で、アレインの影に関する知識が異常に詳しいことに気づいた。


「それほど詳しいのはなぜだ?」


カイが追及すると、アレインは微笑を浮かべながら答えた。


「旅の途中で、古代の文献を読んだだけだよ。」


その答えは明らかに不自然だった。


真相への一歩

これまでの調査結果を繋ぎ合わせ、カイはアレインが真犯人である可能性に行き着いた。

彼は競売の記録、魔法石の流通、そしてアレインの異常な知識を根拠に、ついに全貌が見えてきた。


「影を喰らう怪物を召喚し、その力を利用しようとしている者がいる……その者はアレインだ。」


カイは静かに推理を深め、アレインを追い詰める計画を練り始めた。

次なる対決への緊張感が静かに高まっていく中、カイは廃墟へと向かう決意を固めた。

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