第1章: 容疑者たち
容疑者のリスト
朝の冷たい光がカーヴァレンドの石畳を照らし始めた頃、魔法審問官カイ・ヴァレンスは被害者グリース・ヴォルカの家から少し離れた一室にいた。
そこは仮設の調査拠点として設置された審問室であり、彼が容疑者たちを一人ずつ事情聴取するための準備を進めている場所だった。
「容疑者リストは4人か……どの証言が真実で、どれが嘘か。」
カイは独り言を呟きながら、机に広げたメモに視線を落とした。
1人目の容疑者: エルフの錬金術師、フェリナ・カルウェン
最初に現れたのは、被害者の弟子であるエルフの錬金術師フェリナ・カルウェンだった。
長い金髪をきっちりと編み込み、黒いローブを纏う彼女の碧眼には、冷静さを装いながらも不安の色が垣間見えた。
カイは無表情を保ちながら問いかけた。
「あなたはグリースの弟子だそうですね。彼とは最近、どのような関係でしたか?」
フェリナは短くため息をつき、答えた。
「師匠とは……最近あまりうまくいっていませんでした。彼は伝統的な道具製作に固執していて、私が研究している新しい魔法技術を全く認めようとしなかったんです。」
「あなたの研究内容について詳しく教えてください。」
カイが続けると、フェリナは警戒心を強めた表情を浮かべた。
「私は魔法触媒を改良する方法を研究しています。それが彼と衝突した理由です。でも、それが私を犯人と疑う理由になるのでしょうか?」
「昨夜はどこにいましたか?」
「研究室です。一晩中、実験をしていました。」
カイは彼女の話を丹念に記録し、質問を終えた。
フェリナの研究内容は影の魔術に関連する可能性を示唆していたが、直接的な証拠には欠けていた。
2人目の容疑者: リザードマンのギルド長、ザード・ゴリオン
次に現れたのは、屈強な体格のリザードマン、ザード・ゴリオンだった。
鈍い金色の鱗が光り、刺繍入りのマントがギルド長としての威厳を示していた。
「ザード・ゴリオン、ギルド長としてグリースとはどういった関係でしたか?」
カイが問うと、ザードは尾を一振りしながら答えた。
「どういった関係って?あいつとは同じ種族だが、友人じゃない。あいつの腕前が俺のギルドの職人たちを圧倒していた。それを嫉妬していたと言われれば否定はしない。」
「では昨夜はどこにいましたか?」
「ギルドホールだ。衛兵たちが俺の姿を確認しているはずだ。」
カイは彼の自信に満ちた態度を観察した。
嫉妬心が殺意につながった可能性は否定できなかったが、アリバイには確証があるようだった。
3人目の容疑者: 謎の旅人、アレイン・サルヴァー
扉が開き、ぼろぼろのマントを纏ったヒューマンの旅人が現れた。
彼は軽く頭を下げ、椅子に座ると、鋭い目でカイを見据えた。
「アレイン・サルヴァー、あなたは事件当夜、現場近くで目撃されていますが、何をしていたのですか?」
カイが尋ねると、アレインはゆっくりと答えた。
「旅人にとって夜は移動の時間だ。偶然、あの家の近くを通りかかっただけだ。」
「そのとき、何か異変に気づきませんでしたか?」
「霧が濃くて何も見えなかった。ただ、妙な冷気を感じた。あと……誰かがこちらを見ているような気配を感じたんだ。影のようなものが近くにいた気がする。」
カイはアレインの証言を注意深く聞き取りながら、妙な違和感を覚えた。
彼が「影」について具体的すぎる描写をしたことが引っかかった。
さらに、彼の視線が一瞬だけ迷ったことを見逃さなかった。
4人目の容疑者: 魔術師協会のメンバー、ローガン・セイバー
最後に現れたのは、ローブを纏った初老の魔術師、ローガン・セイバーだった。杖を携えた彼は、落ち着いた口調で質問に応じた。
「グリースとは過去に禁忌魔術の研究で衝突していると聞きました。」
カイが切り出すと、ローガンは苦笑を浮かべた。
「あの若造は、禁忌魔術に関する理解が浅かった。それを指摘したことで口論になったことはあるが、それが原因で命を奪う理由にはならない。」
「昨夜はどこにいましたか?」
「協会の記録室で、古い魔術書を整理していた。」
ローガンの証言は表面的には穏当だったが、カイは彼の慎重な言葉選びに警戒心を感じ取った。
捜査の進展
全ての事情聴取を終えたカイは、仮設の審問室に戻り、記録を見直していた。
4人の証言はいずれも筋が通っているように思えるが、決定的な証拠には欠けていた。
その頃、次の犠牲者が発生しているとは、カイはまだ知る由もなかった。
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