第19話

レイたちは、地下に向かっていた。


「この先が地下に続く階段だ!」


紫苑のガイドで地下に向かう。


角を曲がると、ドシラが立っていた。

その隣にはミファ。


「この先は通せないわね」

「ママが復活したくせに、統制もとれねぇなんて情けないな」


レイがいう。

ミファは眉毛をピクリと動かした。


「退け。」

「ソシレ様はご自身の技術でママの復活を遂げたんだよ。もうあんたには用はないってこと。わからない?」


レイは短く息を吐いた。


「でもこうなったのには俺にも原因がある。」


そういって戦闘体制に入ろうとする。

レイの前に想が立つ。


「じゃあ、お前が止めてくるんだ。ここは俺たち燦龍衆に任せるといい。」

「想…」

「まだ私、いいところないし。なーんか、あいつ、気に入らないし」


雪怜は想の隣に立つとぐっと伸びをしながらミファをにらみつけ、にっこりと笑った。


「へえ、燦龍衆…。あなたたちだったのね。邪魔者は」


ミファも雪怜たちをにらみつける


「君たちのボスはよからぬことを考えてるみたいだしな。いい機会だ!」


想はドシラに殴りかかる。

低姿勢からの攻撃にドシラが体制を崩した。

雪怜はミファに攻撃を仕掛ける。

雪怜はナイフで、ミファは鞭で応戦する。


「レイ、行って。僕たち燦龍衆は大丈夫。こうやって切り抜けてきてるから」

「紫苑…」

「はい、これ持って、GPSで場所追えるから!早くいって!」


紫苑はレイにPCを押し付けた。

レイはそれを受け取ると、階段を駆け下りた。


「あ、あとこれ!」


紫苑は小さな端末を投げる。

ジホがそれを受け取った。



「サクラ」


物陰から戦がサクラを呼ぶ。

レイたちについていっていたサクラはちらりとレイを見たが、戦のもとに向かう。


「戦様。無事でしたか」

「…いろいろなことを思い出したみたいだな。これから先のことはサクラがどうしたいか決めると良い。ただ…最後に頼みたいことがある。」

「戦様は私を作るピースの一つです。どんな頼みも聞きます」

「感謝する。」



階段の先、地下への入り口を紫苑のPCは示していた。


「ここだ。開けるぞ。」

「おや、シャオですね」


ジホの言葉を聞いて振り返ると、そこにはシャオの姿が。


「すぐ行くっていったダロ」

「あぁ。わかってたよ」


レイは扉に手をかける。


「巻き込んでごめん。あの時、俺がママを直していればこうはならなかったのかもしれない。俺のせいで、こんなことに巻き込んでしまった。」

「それで?だから何ヨ」

「では、レイはあの時僕たちを直したこともいつか後悔するのでしょうか」

「そんなのするわけないだろ。過去には戻れない。今までしてきたことがこうして今に繋がってる。間違った選択をしたこともあったかもしれない。それも含めて、俺なんだ。だから、頼む。一緒に戦ってくれ」


レイがいうと、シャオもジホもにっこりと笑った。

シャオが拳を出す。

ジホとレイも拳を出した。

3人の拳がぶつかる。


「安心しろ。背中は守ってやるヨ」

「みんなで笑って帰りましょう。あの街へ」

「よし、行こう」


レイが扉を開く。


「わぁ~~~!レイ!!!」


中に入った瞬間、レイの体が吹き飛ぶ。


「レイ!」

「動くなよ、クソアンドロイド共。この銃はお前たちの核をぶっ壊すよお?」

「…ソシレ」


ソシレが両手に銃を持ち、ジホとシャオに銃口を向ける。


「レイ、ありがとうね!!やっぱりレイはママを直してくれた!」

「…清良…俺、は別に…直してない」


勢いよく床に叩きつけられたレイは上手く息ができない。


「でも見て!ママが動いているよぉ!レイ、信じていたよ!」

「アレを動かせるようにしたのは、俺じゃない、ソシレだろ、ぐっ」


清良は無表情になり、レイを殴る。


「アレじゃないでしょ。ママでしょ」


レイはうまく息が吸えずにむせ込む。

そんなレイを清良はぎゅっと抱きしめた。


「レイ、ありがとう」

「清良、うしろ!」


レイは叫ぶと、体制を変え、後ろに飛ぶ。

瞬間、ママが二人がいた場所に突っ込んでくる。


「目覚ませよ清良、あれは本当にお前のママか?」


ママはゆらりと立ち上がり、もう一度レイたちの方を見た。

レイは腰のポーチから工具を抜く。


「え、レイ、まさかそれで戦うの?」

「これしか持ってねェもん」

「はははははは、レイやっぱりサイコーだよ」


清良がゆらりと立ち上がる。

ふらふらとママの方に近づいていく。


ママは清良を視界に捉えると、歯をむき出しにして襲い掛かる。


「ママ、僕だよ、清良だよ。僕ずっと、会いたかったんだ、ママに」

「ぎぃゃお!」


ママは叫ぶと、清良を思い切り放り投げた。

清良の体が床にたたきつけられる。

はずだった。


「お前のことはどうでもいいけど、お前も救いたいってきっとレイならいうからナ」


シャオが清良を抱えてママから距離を取る。


「さあ、吐いてください。ブラックボックスに干渉したあのAIウイルスに何を細工したんですか。なぜママはあのような暴走を?」

「いうわけないよねえ。そもそもなんで君はウイルスを克服しているの?あのメスアンドロイドも。気に入らないなあ」


ジホはソシレを組み敷いて質問していた。

ソシレはへらりとジホをにらみつける。


「構造が違うんですよ。僕らは元々優秀なので」


ジホはにっこり笑うと、腰から銃を抜く。

ソシレの顔面に銃口を突きつける。


「知ってますか?アンドロイドは、手入れが大事なんです。幸いなことに僕らには優秀な整備士がいたものですから。あんなちんけなウイルス、どうってことないんです。」


ジホはそういうと、迷いなく引き金を引いた。

麻酔針がソシレに突き刺さる。

抵抗がなくなるとジホは手際よくソシレの白衣からとある工具を取り出した。


「あぁ~…それ…だめだよぉ…アンドロイドには…到底扱えない…へへへっ…」


もう一度ジホは銃口をソシレに向ける。


「問題ありません。使うのは僕ではないので」


もう一度引き金を引く。

ソシレはぱたりと動かなくなった。




「ったく、すばしこいナ、お前っ」


シャオはママの攻撃をかわしながら時折反撃をする。


「シャオ!ママの解析がしたい!動きを止める方法はないか!」

「難しい注文ダナ!やってみるケド!」


シャオはママに一気に距離を詰める。

首元に蹴りをいれようとしたが、ママからの攻撃を受けてしまう。


「シャオ!」

「大丈夫ネ!」


シャオはもう一度立ち上がる。


足元のギアを一つ上げる。

なんどか爪先で地面を蹴り、調子を確かめると一気に踏み込んでママまでの距離をもう一度詰めた。

ママの攻撃をかわしながらもう一度踏み込む。

思い切り首元に足を沈める。


「ぐぎぎ…」

「っ、ちょっと眠れヨっ!!」


抵抗するママにシャオはさらに力を足に込める。

そこへ、高く飛んだジホが加勢する。

ジホはママの頭を掴むと、一つの端末を突き刺した。

そして、ママの動きが止まる。


「レイ、今です」


ジホに言われ、レイはママに駆け寄る。


腰のポーチから工具を手際よく取り出し、背中のハッチを開ける。

ジホは紫苑のPCを使い、さきほどママに突き刺した端末の解析を始めた。


「…なんだそれ、ジホ」

「さっき紫苑がくれたんです。技術が高いですね。彼も。刺しただけでハッキングが完了しましたよ」

「でもさっき紫苑はハッキング出来ないって…」

「おそらく、遠隔でのハッキングが難しかったんでしょう。最も、ママのあの暴走状態ではこの端末を取り付けることもできないでしょうね。シャオのギアをあげてもやっとでしたから。」

「なるほど」

「ソシレから、これを奪いました。」


ジホはそういって、ソシレの白衣から奪った工具を見せる


「なんだ、それ」

「おそらく、ママのこの暴走は覚醒というよりは、ウイルスの暴走を利用していると思われます。そしてこれがウイルス撃退用の端末でしょうね。」


ママの解析をしていたレイの手が止まる。


「…いや、それだけじゃない気がする。」

「というと?」

「構造が…アンドロイドとは違うんだよ…」


レイはそこで言葉を止める。

顔色が青ざめている。


「レイ?」


シャオがレイをのぞき込む。


「ヒューマノイドだよ。ママの記憶装置と、ママのかけらの適合者を探していたんだ。アヴィドはヒューマノイドの研究では第一線だからね。」

「清良てめぇ…」


レイが背後に立っていた清良をにらみつける。


「だってあの時、レイがなおしてくれなかったからだろう。僕はただママが欲しかっただけなのに。それを否定したのはレイだろ」


清良は今までになく表情が虚ろだ。

レイは清良の胸倉をつかむ。


「ヒューマノイドがどうやってつくられるかわかって言ってるのかよ!」

「わかってるよ。僕もヒューマノイドを作ってみたりもした。レイも見たでしょ?紅蘭。」

「てめぇ…」

「あれは良いデータが取れた。でも…僕はこんなママは望んでいないよ」


清良の瞳に涙がたまる。


「泣くな。お前は泣くな。そんなこと許されない。ママをすくうなら正しい方法であれを壊さなきゃならない。わかるか」


レイがいうと清良は頷く。


「お前はそのあと、全部終わった後に、反省しろ。今まで自分がしてきたことを背負え。いいな。」


何度も清良は頷いた。


「お前が知ってる限りのヒューマノイドの特徴と構造を教えろ。」


清良に聞いた情報を基にしながらレイはママを解析していく。

背中のハッチのなかは、アンドロイドよりも細かい線や管で詰まっている。

シャオの技術も借りながら、奥へ進んでいく。

そこでわかったのが、人間の内臓のようなものもあるということだ。

レイが作ったような物を食べられるようにしたジホやシャオともまた違う構造になっていた。


「多分、ここだ」


レイがとある場所を見つける。

小さな隙間がぽっかりと空いている。

ジホはソシレから奪った工具をレイに渡す。

同じくらいの大きさと形をしていた。


レイはそっと隙間に工具を差し込んだ。


「ジホ、ハッキングを抜け」

「はい」


ジホがそっと紫苑から受け取ったハッキング端末を抜く。


「うぐぐ…」


ママがうめく。


シャオとジホが戦闘態勢を整えた。

レイが片手で制する。


ママがゆっくりと起き上がる。


襲ってくる気配はない。


「成功したか」


戦がやってきて声を掛ける。


「戦…見てたのか」

「手伝えず申し訳なかった。」


サクラが手際よくママを拘束していく。


「サクラァ!どうして!」


清良がいう。


「クリーン作業が必要だろう。清良。お前はこれから、ママと生きていく覚悟はあるか」

「え・・・?」

「こんだけ暴れたんだ。なにもなしってわけにはいかないだろ。色んな面でも改良や手入れが必要だ。その整備が終わった後、お前はママと生きていく覚悟はあるのか」


戦の言葉に清良が動揺する。


「言っただろ。お前が今まで自分がしてきたことを背負えって。俺も背負ってやるよ。責任もってこのあとの整備はしてやる。」

「俺も、一緒に背負う。あの時、お前を救えていればこうはならなかったのかもしれない。俺も今後のお前たちの動向を一緒に見守る。責任をもって、俺の会社でお前たちを面倒みる。」

「…レイ…戦…」


レイはため息をつく。


「本当にお前のしてきたことは許されないぞ。でも、過去は過去だ。これからどう生きるかが大事だと、俺は思う。俺だって…誇れる過去は送っていないしな。」


レイはそういうと、清良の胸倉をつかむ。


「…これからママがどんな風になっていくのかは、お前次第だ。記憶装置はあくまでも過去のもの。これからどんな記憶を作るかで、どんなヒューマノイドに育つかが変わってくるぞ。いいな」


至極真剣にそういうと、レイはへたりとその場に座り込んだ。


「あ~疲れた。もう無理。動けない。腹減った。ジホ、なんかうまいもん作ってくれ」

「何がいいですかね」

「私、なんか肉まん食べたい気分ネ」

「え~時間かかりそうだから却下!」

「なんでダヨ!」


3人のやりとりを清良はじっと見ている。


「…あれがレイが送ってきた過去の先だ。きっとお前にもあるだろう。もちろん、俺も同じだ。」


戦はそういうと、そっとその場を離れた。


今度はサクラが清良のそばに寄る。


「…サクラ…」

「申し訳ないと思っているか?」

「え?」

「もしそうだとしたら、それは不要な感情だ。僕は僕で楽しく生きていた。友達もできた。清良がいなくても、僕は幸せだったんだよ。それを知れたのは、君が僕を捨ててくれたからだ」

「…サクラ」


サクラは清良ににっこりと笑いかける。


「この先どう君が生きようと、僕がどう生きようと、お互いに関係はない。あの時よりもずっとずっと色々なことを僕は知ったし、手に入れた。君も同じだろう。もうあの時の僕らではない。わかるか。清良。君は君として生きていくんだ。周りにはこんなに素晴らしい仲間がいる。それは、幸運なことだ。」

「……」


清良がうつむく。


「そうだね。僕もこれから知りたいことがたくさんある。でも…たくさんの人を傷つけてきた。それは変わらないよ。僕が幸せに笑って生きるなんて、許されない気がするんだ。」

「ああ。誰もゆるしてくれないよ。だから背負うんだろ」


レイがいうと、清良はぐっと唇をかんだ。


「ありがとう…僕…」


瞬間、大きな爆発音がする。

地下に何か転がり込んでくる。


床に転がるのは、ドシラとミファ。

その二人を転がしたのは


「…ヴィド様…」


ソシレが麻酔で動けない中呟いた。

ヴィドは、アヴィドのボスである。


「ソシレ。またくだらない失敗をしたのか。」


ヴィドはちらりとママを見る。


「ふん、くだらん。捨て駒の暴走か」

「捨て駒…?」


清良の眉がぴくりと動く。


「捨て駒だろう。お前も含めだ。清良。この計画は失敗だったか。いつまで寝ているんだソシレ。」


ソシレの体に電撃が走る。


「ぐっっ…つぅ…」


ソシレは無理に身体を起こす。


「次のプランに移れ。」

「かしこまりました。ヴィド様…」


レイたちはヴィドをにらみつける


「なんなんだよ、あいつ…次から次へと…」

「ここのボスだな。何を企んでやがる」

「お前も捨て駒だってナ。ざまあみろだヨ」

「…やばい予感がするんだ」

「清良?どういうことです?」


清良がぐっと奥歯をかみしめている。

身体が小刻みにふるえている。


「あのヴィドってやつは本当にイカれている。僕が言える事じゃないけど目的の為ならなんでもするよ」

「本当にお前が言える事じゃないナ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る