第18話

紫苑とレイ、想はソシレの研究室に向かった。


最上階に、そこはあった。


「ここか」

「入るぞ」


3人は頷き合う。



モニターの前でソシレはご機嫌に鼻歌を歌っている。


「見つけてくれたね、レイ。」


その時、研究室の扉が開いた。


「来たねぇ、レイ」

「シャオとジホはどこだ」

「そんなことよりさ、どうして逃げ出したのに戻ってきたのお?まあいいけど。ボクにはそっちのほうが都合がいいし」

「2人はどこだ」

「2体でしょ」


レイとソシレがにらみ合う。


「ふふ、まあいいや、おいで、ショータイムだよ」




雪怜とサクラが壁にもたれて座っている。


「…知らないことを知るというのは…辛いものだな」


サクラがぽつりとこぼした。


「…そうね。知らなくていい事って自分が思っている以上にあるわよね」

「でも、これは僕が背負うべき業でもあるんだろうな」


雪怜はちらりと横目でサクラを見る。


「…清良のこと?」

「あぁ。僕しか清良を止められなかったはずなのに、僕はそれができなかった。だからこんなことになっているんだろうな」

「…」

「僕は清良が好きだった。何もない私には清良がまぶしかった。本来アンドロイドは人間と契約を結び、契約に忠実に生きる道具でしかない。それなはずなのに、不思議だな。清良とは契約を結んでいないのに、ついていきたい、と思ったんだ。清良は自分の目的をはっきりもっていた。そのためには手段を選ばなかった。そんな彼を見ていて生きる指針に見えたんだ。同じように頑張れば清良は僕を見て、“愛”をくれたんだ。温かいものだって知ったのはその時だ。…でも違ったんだな」

「違った?」

「“愛”ではなかった。清良も愛なんか知らないんだよ。それが今ならわかる。」

「…今なら、ねぇ」

「僕は記憶を失ったから、戦と共に過ごすことが出来たんだ。戦は私に学ぶ機会をくれた。自分の能力があがるのは楽しかった。知識が増えるのは楽しかった。そうやって私が出来ていったんだ。おそらく、戦がくれたものが愛に近いんだろう。」


雪怜は微笑みながら言う


「愛なんて言うのは100人いたら100通りあるのよ。どれが愛かなんか誰にもわからないわ。でも…それがサクラの感じる愛なら、それが正解なのよ。身体はどう?」


サクラは手を軽く握る。


「うん。だいぶいい。」

「清良はママを復活させてどうするつもりなの」

「知っていたのか」

「予想でしかないけど」

「どうするつもりもないと思う。ただ、ママを復活させたいだけなんだ。もう一度会話をしたいだけなんだと思う」

「…それが清良の求めている愛ってことね」




レイはジホとシャオと対面していた。

身動きは取れない。

ドシラに強く身体を拘束されている。

また、ミファの力により体温を下げられ、思うように体が動かない。


「見ててね、レイ」


ソシレは嬉しそうに笑いながらジホとシャオに黒い箱を埋め込む。


「や、めろ」

「んふふ、やめないよお?」


ソシレはそういうと、ジホとシャオの電源を入れた。


ゆっくりと起き上がる二人。

瞬間、苦しむジホとシャオ。


「っっ、ぐ」

「……う」


「ジホ!シャオ!」


レイが叫ぶ。


シャオが先にゆっくりと目を開ける。


「…レイ…なんでここにイル?」

「シャオ?」

「…レイ、お前、何を考えてル?」

「何って…」

「お前ふざけんなヨ」


シャオは怒りをあらわにする。


ドシラに向かってシャオが思い切り蹴りを入れる。

ドシラがよろけてレイを離す。


シャオは見逃さず、ドシラからレイを奪い返した。


レイの胸倉をつかむシャオ


「お前、何考えてル」

「だから、何の話だ」


シャオの瞳にみるみる涙が溜まる。


「いいたい事は僕もたくさんありますが、今はここをでますよ」


目を覚ましたジホがソシレにノールックで膝蹴りを食らわせると、一気に出口まで距離を詰めた。


部屋の外にでると、待機していた想と紫苑と目が合う。


すべてを察した想は、ジホに頷く。


「あとは俺に任せな」


想と紫苑が中に入っていく。




ジホとシャオはレイを抱えて屋上に来ていた。


ドサリと雑にレイを落とすとシャオは思い切りレイを殴る。


「いってぇ、なにすんだ」

「何すんだじゃネェヨ。ふざけたことしやがって」

「なんのことだよ」

「僕たちはブラックボックスを増長させられたようです。知らない記憶を知りました」


レイは目をそらす。


「オイ、こっち見ろヨ。目そらすなヨ」

「レイ、僕たちは怒っています。」

「なんで、なんでお前はそうやって!全部自分で抱え込もうとするんダ!」

「そこに僕たちの意思はないんですか?」


「だって…」


レイはぽつりと話す。


「だって、お前らは俺よりずっと長く生きなきゃならない。そこに俺の存在があったら、邪魔をするだけだろ」

「だからって、僕たちの記憶から自分の存在が消えるようにプログラムするなんて、酷すぎませんか。」

「そうだヨ。記憶は自分を作る大事なモンだって、言ったのはレイだったダロ」

「…そうだけど、俺は、お前たちが…」

「余計なお世話ネ。」

「全くです」


レイはうつむいた。


「まだ先だけど、レイがいなくなっても、お前のこと忘れたくないヨ」


シャオの目からはぽろぽろと涙がこぼれる。

レイに飛びついた。


「そうじゃなきゃ、なんで、こんな感情と体液機能を結び付けたんダヨ。なんで、こんなに、涙が止まらないんだヨ」

「…レイの気持ちもわからなくないですが、そんなこと通用しないように僕たちを作り上げたのはレイですよ」

「俺はお前たちを作ってなんかいないんだよ。」

「そうかもしれませんが、でも、そうなんです」


レイはシャオの背中を受け止められないでいた。

迷うように手がそっとシャオの背中をさする。


「…傷つけたのなら、ごめん。ぜんぶ、俺のエゴなんだ。お前たちになんでこんなに思い入れがあるのか俺にもわからないけど、でもどうしても、ジホとシャオにはずっとずっと…幸せでいて欲しいって思ってしまったんだ」

「これまでの思い出全部消えたら幸せじゃなくなるヨ。ぜんぶひっくるめて私なんだヨ」

「うん」

「レイは自分でなんでも背負い過ぎです。もう少し僕たちのことを頼ってもいいと思います。」

「うん。わかった。直すよ、全部」


ジホはためいきをつく。


「さて、レイをいじめるのはここまでにしましょうか」

「そうだナ」


シャオはぐいと涙をぬぐう。


「ソシレは、僕たちの何かのデータを取り、ママを復活させるようです」

「は?なんでそんなこと」

「ブラックボックスに干渉されたことで、取り込むデータが膨大になっています。ここのデータも取り込んでしまっているようです。正直処理するのも一苦労ではありますが…おかげで色々な情報を取り込むことが出来たので、良しとしましょう」

「あ、そうだ、ウイルスを取り除こう、後ろ向いてくれ」


ジホとシャオはレイを手で制止する。


「問題ナイ。自力で干渉は留めてあるヨ。」

「情報の取捨選択に時間は若干かかりますが、僕も問題ありません。」

「…こわいよ、お前ら」


その瞬間、想と紫苑が屋上に飛び込んでくる。

2人ともボロボロだった。


「どうした」

「まずい。あの“ママ”ってやつ、相当戦闘慣れしている。」

「復活させたのか」

「そんで暴走してる。僕のハッキングも効かないよ」

「ソシレってやつがなんとか蹂躙させようとしているが、あれはおそらく無理だろ」


想はそう言いながら、故障していた肘から先をさする。


「おい、座れ、そこに。シャオ、頼む」

「アイヨ」


シャオの腿のポーチから線を抜き、想に繋げ、手際よく修理していく。


「これでよし。」

「ありがとう、レイ、シャオ」

「いいってことヨ」

「やっぱりお前たちは3人じゃないとな!これで、そろった!最強の鏡虎団だ!」


ジホとシャオ、レイが顔を見合わせる。


「俺たちだって負けてないぜ、燦龍衆も揃ったら最強だ」


想がいうと、雪怜が現れる。

となりにはサクラもいる。


「サクラ、大丈夫カ」


シャオが駆け寄る。


その瞬間、地響きが鳴る。


「ママだ」


紫苑がPCを見ながら言う。


「地下に向かっている。アヴィドには地下に実験用競技場がある。おそらくそこにおびき寄せているんだろう。」

「そして、そこにいるんだろうな、清良が」


サクラが続けた。


レイが大きく息を吸って吐く。


「話を終わらせる時が来たな。」


全員で地下に向かった。


ビルの中があれていた。

恐らく“ママ”が暴れた後だろう。

ケガをしている研究員も散見される。


「シャオ」


レイがシャオを呼ぶ。

シャオはレイに何か言われる前に、行動していた。


「すぐ追いかけるネ」


レイは頷いて先に進む。


シャオは手際よくけがをしている研究員たちに処置を始めた。

そこへ、人影。


「手伝うよ、シャオ」

「シユ。無事だったんダナ」

「うん。でも、ママの復活は止められなかったな。」

「一体何なんダ、ママってのは」

「おそらく特別な個体ではないと思う。ただ、人の思いと言うのは時に厄介な物を生む。」

「どういう意味」


シユはシャオの隣で手際よく処置をしながら話を続ける。


「清良といったね、あの人。ママにえらく執着しているだろ。何があったかはわからないけど、その執着が科学に代わって技術に変わったら。おかしなものを生み出してもおかしくはないと思うんだ」

「…ソウカ」

「レイと紙一重だと思うよ。」

「レイはそんなことしないヨ」

「うん。だから紙一重。でもレイのアンドロイドへの執着も相当なものだと思うけどね。僕らはそれに助けられたわけだけど」

「…多分レイは、自分の救える範囲を知っているんだろうナ。救える範囲は救いたいんダ。だから、わたしにこうやってこいつらのけがの処置を頼むんダ。」

「レイはママのことも救う気なんだろうか」

「……おそらくナ。清良のことも救う気だと思うヨ」

「早く追いかけよう」


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