第15話
「おや、レイは?」
ジホがソファでくつろぐシャオに声を掛ける。
「知らないヨ。どっかでかけたんじゃないカ?」
「今日は一緒に依頼主の話を聞きに行く予定だったのですが…」
「そのうち戻ってくるダロ」
「そうですね」
しかし、レイは夕方になっても戻らなかった。
「あいつ死んダ?」
「そんな縁起でもないこと言わないでください」
夜になってもレイは戻らない。
端末に連絡をしても、返答はなかった。
夜中になっても戻らないレイを心配したジホとシャオは、ジホの追跡システムを使い、探しにいくことにした。
「東上洞の中にいったことは確かですね。しかし…ここで途絶えています。」
「おい、ジホ、ここッテ…」
シャオはあたりを見渡す。
そこは以前、レイが清良に連れ去られた、噴水広場だった。
「清良の反応は出ていません。」
「ってことはあいつじゃないノカ…」
ジホとシャオは顔を見合わせる。
「じゃあ一体だれがレイを…?」
rrrrr
ジホの端末が音を鳴らす。
発信源は、レイ。
「はい、レイ、どうしましたか」
「…明日朝11時にそこにこい」
すぐに通話が切れる。
「おい、なんだッテ?」
「明日、11時にここに来いと…」
「あ?なんだソレ。本当にレイなのカ?」
ジホは首を傾げた。
「僕の音声認識システムでは、レイで間違いありませんでした。」
「発信場所を辿ってミテヨ」
「いまやってます…が、だめですね。ブロックされています」
「ハ?…何が起きてるんダヨ…」
「とにかく、明日の11時にここに来ましょう」
「そもそもなんであいつはここに私たちがいるってわかったんダヨ」
「…考えなければならないことが多すぎますね。」
次の日。
11時にジホとシャオは噴水広場に来ていた。
「…こないナ」
シャオが腕を組んで言う。
その時、ジホの端末が鳴る。
「はい」
『来たか。その近くに止まっている車に乗れ』
「…レイ。なにがあって、何の目的なのか知らせてください」
『お前たちが知る必要はない。いいから車に乗れ』
「目的もわからないのに車に乗ることはできません」
『……』
「レイではないですね」
ジホは言う。
シャオはジホの端末に耳を寄せて聞いている。
ジホの音声認識システムでは、レイであるとでているが、システムではない部分でジホは危機を感じていた。
恐らく、声の相手はレイではない。
音声認識システムすらかいくぐることのできる技術を持った相手だと考えられる。
そして、レイは恐らく、その相手に連れ去られているのだろう。
『取引は失敗だ。』
電話の相手はそれだけ言うと、通話が切れた。
「なんなんだ。なにが起こってるンダヨ」
「…調べましょう」
ジホとシャオは頷きあった。
事務所に向かって歩きながらシャオはすぐに自分の端末を取り出す。
「お、シユか。久しぶりダナ」
『嗨(やあ!)シャオ。シャオから連絡くれるなんて本当に久しぶりだね。どうしたの?』
「シユとやりとりしている会社で、技術が高い技術者がいる会社を教えてほしい。」
『なにかあった?』
「…詳しくは言えない。でも…レイがピンチかもしれナイ。」
『レイが?協力する。こちらで持っている情報を全て公開してもいい。』
「ありがとう。じゃあ事務所に…なあオイ、嘘ダロ」
シャオとジホは事務所の前で立ち尽くす。
正確には、事務所だったもの。
窓ガラスは割られ、中はめちゃめちゃにされている。
2人は慌てて中に入り、状況を確認するも、全ての部屋が荒らされていた。
「どうなってんだヨ」
「…そのために僕らをあそこに連れ出したんですね」
「何かを探してたノカ」
「そのようですね。ほら」
ジホはそういうと、レイがよく作業をしていた引き出しを指さす。
そこは特に荒らされている形跡があった。
「…なにが起きてるんダヨ。本当に…」
シャオはぎゅっとこぶしを握る。
「これはひどいね…」
振り返るとミゲルが立っていた。
「…ミゲルか」
「東上洞の人が教えてくれたんだ。鏡虎団の事務所が荒らされてるって。それで様子を見に来たんだけど…思っていたよりひどいね」
「レイもいないんだ」
「君たち二人だけだからそうかなとは思ったけど…」
ミゲルはそういうと、ジホとシャオの瞳をぐっと近づいてじっと見た。
「なんダヨ」
シャオがにらむ。
ミゲルはふっと笑って
「レイは生きているよ。だいじょーぶ」
と言った。
「なんでそう思ウ」
「レイは自分になにかあったら、ちゃんと知らせるシステムを君たちに入れているんだ。君たちが自分の意思でレイをどうにかしたいと思っているなら、レイはちゃんと生きてるよ。」
「どういうことです?」
ジホの問に、ミゲルは答えなかった。
「ここは僕がなんとかするよ。君たちはレイの捜索に尽力するんだ」
「でも…」
「僕らはレイに助けられている。東上洞のみんなもそうだ。鏡虎団のためならみんな、動くさ。それが君たちがしてきたことなんだよ」
シャオとジホは頷いて、駆けだした。
「ジホ、羊に連絡を取れ。なにか知ってるかもしれナイ」
「わかりました。僕たちは一緒に行動しましょう。」
「そうダナ。離れるのはリスキーだ」
ジホはすぐに端末を取り出して、羊に連絡をとった。
ジホから連絡を受けた羊はすぐに動いた。
独自の情報ルートを駆使し、レイの足取りをたどる。
シャオとジホがバーに到着する頃には、羊の元に情報が集まっていた。
「…レイはアヴィドという会社に連れていかれたと思われる。」
「アヴィド…」
「“強欲”ネェ。いかにもやばそうなにおいがスルゾ」
羊はカウンターに一枚の地図を出す。
「…ここが本部だ。ただ、お前たちだけでいくことは勧められない。」
「理由は?」
「……」
羊は黙って首を振った。
「歯切れが悪いナ」
「…アヴィドは世界中の技術を集めている。アンドロイドウイルスの製造をもくろんでいるといううわさもある。」
「アンドロイドウイルス…」
「…今は世界中に飛び散っている強力なウイルスだ。研究され、復活されたら世界に存在する全てのアンドロイドを感染させることができるだろう。」
「で、なんでそいつらがレイを攫っタ?」
羊はもう一枚カウンターに地図を出した。
「…これは、ネグルハイルという組織の本部だ。」
「アヴィドとなんの関係が?」
「…清良という男を知っているか」
ジホとシャオがバッと顔を上げる。
「…その男の組織だよ。ただまぁ…流動的なようで、決まったメンバーは存在しないようだ。」
「実質清良しかいないというわけですか?」
「…清良は研究者を見つけては『ママを治してくれ』と頼み、上手くいかないと、アヴィドに売っている」
「なるほどナ。」
「…レイはもともと清良と因縁があるのだろう。おそらくアヴィドにレイを売ったのは…」
「そういうことですね。」
羊はジホとシャオをじっと見つめる。
「…そして今、アヴィドはレイが作成したアンドロイドに興味を持っている。それがお前たちだ。」
シャオは大きくため息をついた。
「言いたい事はわかったヨ。ありがとナ」
「行きましょうか、シャオ」
「…待て、お前たちで行くのは…」
「でも私たちが行かないとダロ」
「そうですね。」
シャオとジホはバーを出た。
そこには高級リムジンが1台とまっていた。
窓が開き、ユキが顔を出す。
運転席にはアキの姿が。
「ユキ!久しぶりだナ!」
「ミゲルさんから聞きました!詳しい事はわからないけど、俺たちに手伝えそうなことがあればと思って!」
「ユキ…」
「俺たちレイさんたちに助けられたから!早く、乗ってください!」
ジホとシャオは車に乗り込む。
その直後に、シャオの端末が鳴る。
「あ、クロエだ」
『もしもしシャオ?話は聞いたわ。今、アヴィドに人を向かわせているわ。中の構造情報がわかったら送るから、ばれないように潜入するの。わかった?』
「クロエ、話がみえないヨ」
『もう!勘が悪い!私はあなたたちに助けられたんだもん!次は私が助ける番なの!わかった?』
シャオとジホは顔を見合わせる。
「鏡虎団がしてきた積み重ねです!」
アキが力強く言った。
リムジンは、戦の会社の前に止まる。
「あれ、ここは…」
「あとは戦さんが、引き受けるって。俺たちに出来るのはここまでです」
「ありがとナ、二人とも。助かっタ」
ジホとシャオがビルに入っていくと、すぐにサクラが出迎える。
「きたか、ジホ、シャオ」
「戦、レイが…」
「聞いている。今から俺がアヴィドと取引をする。その間に、建物の中に侵入しろ。」
ジホは驚いているが、シャオは、当然、というように端末を振り、
「建物の構造はクロエが情報を送ってくれるヨ」
と言った。
戦は頷く。
「ところで、シユというのはシャオの知り合いだったな」
「あぁそうダヨ」
戦は後ろを指さす。
シャオが振り返ると、そこには白いスーツ風チャイナ服を着たシユが立っていた。
「シユ!」
「レイに今度こそ恩を返せそうだからね。来ちゃった」
シユはにこにことしている。
戦、シユ、サクラ、ジホ、シャオでテーブルを囲む。
シャオはクロエから送られてきた建物内部の情報を共有した。
それをもとにシユが地図を作成する。
「ん~さすが、対策されているね。正面玄関からしか中には入れなさそうだ。」
「シユ、アヴィドとの実績はあるか」
「あるよ。あそこは技術を吸収する為なら手段を選ぶ様子もないよ。アンドロイドの力だって借りるんだよ。僕らみたいなアンドロイドだけで形成された会社と、“技術取引”するのなんて、戦のところと、アヴィドくらいじゃないかな。戦のところは、吸収するためというより、働いているアンドロイドのためって感じがするけど。」
シユはそういうとサクラに微笑んだ。
「残念だが、うちはアヴィドとの実績はない。シユの会社を使って潜入するしかないだろう」
「いいよ。そうしよう。」
作戦会議は続いていく。
シャオの端末が鳴る。
「クロエ?どうしたネ」
『レイがいるであろう場所を見つけたよ。』
「本当か?レイは無事なのか?」
『…なにをもって無事とするのかはわからないけど…生きているみたい』
「そうか…」
シャオは安心したように脱力する。
『でも厳重だわ。なかなか入るのは難しそう。』
「それでも行くしかナイ」
『シャオならそういうと思った。位置情報を送るわね』
「ありがとう。クロエ」
『友だちでしょ?』
通話が切れた。
「早くレイを助けに行こう。」
「…お前たちも狙われているんだろ」
戦がいう。
「レイに言われている。自分に何かあったらジホとシャオを頼むと。」
「は?」
「お前たちを危ない目に合わせるわけにはいかない。取引には、俺とシユとサクラで向かおう」
「ふざけないでください。これはそもそも僕たちの問題なんです。僕らがいかない理由はありません。」
「そうダ。行くゾ」
「ま、そうなるよね。レイもバカだねえ」
シユはにこにことしている。
戦は表情を変えずに、頷いた。
「各々自分の身は自分で守ること。そして仲間も守れ」
「了解」
「当たり前ネ」
「いつものことです」
「りょーかい」
5人は頷き合って準備を始めた。
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