第14話
「シャオ!これ見たか?」
レイが何かのチラシを持って入ってくる。
「ん?見てないヨ」
「いやせめてこっちみて?」
シャオはPCの画面から目を離さない。
「ちょっと、今ミンハオの配信がいいところなんだヨ」
「ミンハオ?」
レイはシャオの後ろから画面をのぞき込む。
画面の中では、いかにもなチャイナ服を着て、チャイナ帽をかぶったアニメのようなキャラクターが料理を作っていた。
「なに?これ」
「レイは意外と流行にうといヨナ。これは3VTverっていうんダヨ。3TVってあるデショ?」
「あぁ、動画配信サイトな」
「そう。そこで、モーションキャプチャーを使ってキャラクターを動かすことができるダヨ」
「ほおん、すごいな」
「…レイは機械直すのはうまいのに、こーゆー最先端技術みたいなのは知識がナイナ」
「うるせ」
「そんで?見たかってなんの話ヨ?」
レイはシャオに言われ、思い出したようにチラシを取り出す。
シャオは奪い取りじっくりと読む。
「おぉ~!大食い!しかも兎通り商店街のセブンのラーメン!日本のラーメンは最高ネ!私大好き!参加する以外ナイヨ!」
シャオは目を輝かせる。
「ラーメンは中国にもあるだろ」
「何言ってルネ。日本のラーメンは独自の進化を遂げ、もう世界で見ても最高の料理ヨ」
「日本以外のラーメン食べたことあるのかよ」
「ナイ!」
「だろうな!」
「そりゃそうヨ。アンドロイドが食事できることがまず奇跡ヨ。」
「俺のおかげでな」
「奢りカ?コレ」
レイは人差し指を立て、左右に揺らす。
「チッチッ。甘いぜシャオ。よく見ろ」
「ん?お!これはすごいヨ…」
「だろ?」
「優勝者はお代はタダ!タダっていい響きネ~私大好きヨ~」
「し、か、も、今後1年は無料で料理を提供してくれるらしいぞ」
シャオは鼻の穴を大きくする。
「これは参加するしかないネ。私に任せロ!」
レイとシャオは拳を高くつき上げた。
「…シャオの大食いはレイの設定の加減でしょう。まぁ、こんなことを言って水を差すのは野暮ですね。楽しむのはいいことです」
ジホがため息をついた。
「なあジホ」
「なんでしょう?」
「その、モーションキャプチャーってやつ、俺らでもできんの?」
レイの問いにジホは少し考える素振りを見せる。
「んー、そうですね…できないことはないと思います。道具さえあれば」
「その道具はなんだ?」
「こちらです」
ジホはそういうと、ホログラムでいくつかの機械を映し出す。
「ふうん…まあさすがにこれは作れないな…構造がわからん」
「構造がわかれば作れるんですか?」
「ウン。この事務所にある冷蔵庫とか洗濯機とか、あれも、あぁあれも。俺が作った」
「知りませんでした」
「暇つぶしがてらな。壊れたやつが放り込まれるから直しがてら、改良して作ったんだ。」
「レイはさらりと、すごいことを言いますね。レイほどの優秀な人材はあちこちの企業で重宝されるのでは?」
「されていたら俺は今こんなところでこんなことしてない。今頃六本木ヒルズにでも住んでるよ。」
「…だから不思議だと言っているんです。」
「ミステリアスな男っていいだろ?」
ジホはあきらめたように黙って首を振った。
「ところで、モーションキャプチャーの道具なんて何に使うんですか?」
「あ?だって稼げるんだろ、3VTver。やるしかないだろ」
「…そういうことでしたか」
「ジホ~お前は本当に感情表現が豊かになったなぁ~」
レイは嬉しそうにジホを見る。
そのジホはもう何度目かもわからないが、あきれたように首を振った。
「ついに私たちも3VTVerか…イイナ」
シャオもうっとりと参加する。
「こうしていられん。道具を用意するぞ!」
レイはPCでポチポチと必要なものを買っていく。
「わくわくするナァ!」
数日後。
「届いたぞー!」
レイが箱を掲げる。
「また変なもの頼んだのカ」
「おい!忘れたのか!3VTverとして活躍することを夢見たあの日を!」
「あぁ~そんなこともあったネ。」
「おい、もう熱冷めたのかよ。まじかよ。どうなってんだよ」
「流行は、流れて行くから流行ヨ。」
「…お前、日本語知りすぎてるな」
「今はVよりも実写で面白いことするほうが再生回数稼げるネ。」
「そうなのか、じゃあシャオ出たらどうだ?かわいいし、バズるだろ」
「まあナ。かわいいからナ。でもなにするヨ」
レイはにやりと笑う。
「あるだろ、とっておきのネタが。」
シャオは頭にはてなを浮かべた。
「大食いだよ」
「お~、今日のやつネ」
「デビュー生配信だ!」
「嫌な予感がします…」
シャオとレイはやる気十分な様子で拳を高くつき上げる。
ジホだけはげっそりとしていた。
兎通り商店街は、東上洞の外に位置し、昔ながらの肉屋や魚やが並び、かつてはにぎわっていたが、今は新しいショッピングモールが周りに出来、なかなか人が集まらなくなっていた。
その商店街の中の店の一つ。「麺処 セブン」そこが大食いの舞台だった。
「え~、生配信?うちはちょっとそういうのやってないんだよね」
「そこをなんとか!」
「無理無理。ただでさえこの大食いイベントは大赤字覚悟で開催してるんだ。諦めてくれ」
麺処の店主に生配信を断られ、がっくりと肩を落とすレイ。
「まあイイヨ。大食いに集中するネ」
「…そうだな、優勝することに全てを懸けよう」
「行ける気がするヨ」
「当たり前だ。何のために今朝メンテナンスしたと思ってる。お前の胃袋装置は全開にしたし、満腹中枢機能もオフにしてきた。無限に食べられるはずだ」
「…チートでは?」
「何言ってんだジホ。シャオは小柄だ。それだけでハンデだよ。お前にそれやったらさすがにズルだからしてない。胃袋装置を全開にしただけだ」
「やるからには、僕も全力を出しますよ」
3人は手を重ねる。
「絶対優勝するぞ!」
「「おー!!」」
と気合を入れる。
「会社の命運をかけて!全力だお前たち!」
「「はい!!」」
レイたち以上に気合の入った集団がいる。
「なんだ、あいつらライバルか」
「あれは…最近兎通りの開発を行おうとしている会社ですね。」
「あいつらが優勝したら、この商店街はショッピングモールになっちまうんだ」
店主が言う。
「え、じゃあこの商店街なくなっちゃうのか」
「あぁ。住むところも仕事する所もなくなっちまう。そうならないために、お前さんたち、頑張ってくれよな」
「そういうことなら、俺たちも参加するぜ!」
「なっ、この声は!」
レイが声のした方を振り向くと、そこには燦龍衆の想、雪玲、紫苑がいた。
「なんでお前らここにいるんだよ」
「たまたま通りがかったのさ!それに」
想は声を潜めてレイの耳元に寄る。
「あの会社が所有するアンドロイドに例のものが埋め込まれている可能性がある。調査の一環さ」
「へぇ。でも勝つのは俺たちだぜ」
「ははは!残念だが、俺は負けないぜ!」
「…お前食えるの?」
レイがじとっと想を見る。
「俺は食えるタイプだ!」
想の言葉を聞いて、ジホは驚いた顔をする。
「レイ以外にもアンドロイドに食事の機能を持たせられる人物が存在する…?」
「俺も研究所育ちだからな」
想はジホの肩を叩いた。
「よし、雪玲!紫苑!食べるぞ!」
「…俺はそんなに食べられないよ。期待しないで」
紫苑がフードを更に深くかぶり小さくなる。
「最近ダイエットしていて食べてなかったからね。トレーニング後だし。いいじゃない」
雪玲はやる気だ。
「優勝するのは私ヨ。負けないネ」
「あら、その小さな体のどこに入るのか見物ね」
シャオと雪玲がにらみあう。
「勝負事は負けないと決めてるんだ!レイ!全力で勝負だ!」
「路地裏育ちをなめるなよ?」
レイと想が火花を散らす。
「君も参加するの?…大変だね」
「そうですね、まあでも、やるからには、勝たせてもらいますね」
「君もそういうタイプか…じゃあ俺も頑張るよ」
ジホと紫苑はゆっくりと席についた。
目の前には会社の社員たちが緊張した面持ちで席に着く。
「絶対に勝てよ。社長命令だ」
奥の方には社長と思われる男がゆったりと座っている。
「私、この商店街好きヨ。負けたくないネ」
「そうだな。」
「僕も同じ気持ちです」
店主が前に出る。
「さあ、麵処セブン、大食いイベントにようこそ!今日は俺たちのラーメンを心行くまで楽しんでくれ!」
商店街の面々がスタッフとなり、参加者の前にラーメンを置いていく。
「あれ、これ」
「いつもより大きいナ」
「なるほど」
いつも提供されるサイズよりも若干多く盛られたラーメン。
開始の合図が出され、参加者たちは勢いよく食べ始める。
「やっぱりうまいナ!」
シャオが感想を述べると近くにいた女性が威勢よく
「そりゃあね!うちの商店街の食材をたんまりつかった今回だけの特別ラーメンさ!」
「ふうん、なるほど。だからいつもより大きいのか」
「あんたたちには勝ってもらって、さらにうちの商店街を盛り上げてくれよ!」
「ふごっ!」
と、レイの背中をたたいた。
シャオはおいしそうにラーメンを平らげる。
「おかわりヨ!」
そして笑顔で言った。
それを見て焦りが出てきたのは会社の参加者。
社長が社員たちをにらみつける。
社員たちは焦ってラーメンをほおばった。
「俺もおかわり!」
想も言う。
「私もよ」
雪玲もおわんを差し出した。
紫苑はげっそりした顔でラーメンと向き合っている。
上にのったもやしだけが減っているように見えた。
「おばちゃん!俺も新しいのくれ!」
レイも平らげた。
となりで姿勢よくジホがスープを飲み干している。
「こちらにも新しいものをお願いします。」
ラーメン屋の店主は満足そうに見渡した。
「いい食いっぷりだ!」
社長は椅子から立ち上がり社員たちに怒声を浴びせる。
「なにやってるだお前たち!!あのひょろっこいガキどもに負けてどうする!クビにするぞ!!」
レイはちらりとそちらを見た。
肩をすくめて自分のラーメンを食べ進める。
10分後。
残り時間はあと5分。
今のところ、
1位 シャオ 25杯
2位 雪玲 24杯
3位 社員A 22杯
4位 想 21杯
4位 レイ 21杯
6位 社員B 15杯
7位 ジホ 14杯
8位 社員C 10杯
9位 紫苑 1杯
という結果になっていた。
「…これもうシャオが勝つだろ、もう俺諦めて良いかな」
レイがくったりした様子で言う。
「私はまだいけるヨ」
シャオはぴんぴんとしている。
「僕はもうあと5分水も入りません」
ジホが笑顔で言う。
「負けられないわ。ラストスパートよ」
雪玲はペースをあげた。
「ぬぬ!負けられないな!」
想もペースを上げる。
「…見ているだけで気持ちが悪くなるよ」
紫苑はのびきった麵をすすった。
社長は相変わらず社員を怒鳴っている。
「おい!ガキの!しかも女のガキ2人に負けているぞ!お前の方が何倍も体がでかいだろう!なぜ食えない!」
3位の社員Aは相撲取りのような大きな体を縮こませていた。
「お、俺もう…」
「おいあきらめるなよ、お前が食えなきゃ俺たちはもっと無理だよ」
「よし、奥の手だ。あれを持ってこい」
社員B,CがDに何かをささやいた。
社員Dが注射器のようなものをポケットから取り出し、社員Aに打とうとした。
「待ってくれよ、それは!」
「そんなこと言ってる場合かよ!ばれる前に打つぞ!」
社員Aは拒否するが、B,Cが身体を押さえ、Dが注射をAに突き立てた。
ガタン
「え…」
社員Aが驚いた顔をする。
そこには想とレイがAを守るようにして立っていた。
2人は社員たちをにらみつけ、Dの腕をぎゅっと握っている。
握力に負けたDの手から注射器が落ちる。
ジホがそれを素早く回収し、紫苑がすぐにPCで解析を始めた。
「誰の指示だ」
想が低く言う。
「だって!これで勝てないと俺たちは住むところも仕事も失う!」
「勝つしかないんだ!」
社員たちが口々に言う。
レイはラーメン屋の店主の言葉を思い出していた。
『住むところも仕事する所もなくなっちまう。そうならないために、お前さんたち、頑張ってくれよな』
深くため息を吐くレイ。
そして社長をにらみつける。
「お前はなんでそんな安全な所でふんぞり返ってるんだ。」
「あ?なんだ、ガキ」
「お前だけ安全な所で、他人の生活を奪っていいわけがないだろ」
「ふん、ビジネスだ。仕方ないだろ」
「じゃあお前も失えよ。一緒に」
社長とレイがにらみ合う。
「想、解析が終了した」
「ありがとう。紫苑。それで結果は?」
「興奮剤と、増強剤がまざっている。どう考えても違法だね」
「やはりか」
想があごに手を当てる。
紫苑がにやりと笑った。
「あと、それだけじゃないようだ。」
「なんだ?」
「アンドロイド化も可能な成分も検出された。恐らく定期的に摂取することでアンドロイドのような知識増量、筋量増量だけでなく、自己判断力を失わせていくことができるだろう。」
「へえ、不愉快だな」
紫苑の言葉を聞いて顔をしかめる、想とレイ。
「ふざけんな。てめぇの都合のいいコマにしようってわけか。クソ」
レイが社長をにらむ。
社長は
「なんのことだか」
としらを切っている。
「この私が何かを失うことは無い。ここで起きたこともこいつらがやったことだ。私は関係ない」
社長が言う。
「撮ってるか、ジホ」
「もちろんです。」
レイはジホに目配せをする。
ジホは手のひらにホログラムを出現させる。
「勝負が始まる前から録画をしていました。」
そこには、先ほど、社長が社員たちに怒鳴っている姿が映し出されていた。
そして、今のやりとりも。
「これを3TVに流すこともできる。そうしたらお前はすべてを失うな」
レイの言葉を聞き、わかりやすく社長が焦り始める。
「やめてくれ、私が悪かった。ネットになんか流されたらわたしの会社は廃業になってしまう。」
「そうだろ?ネットにあがったら二度と消えないぞ」
「なんでもする、なんでもするから」
社長はレイにすがった。
「…ビジネスのことは俺にはわからない。でも、誰かの何かを奪うのはやめろ。他の方法を考えろ」
レイは社長に言った。
想は面白そうにやりとりを見ている。
「そこまで!!」
ラーメン屋の店主の声が響き渡る。
「優勝者は、28杯で同率1位!シャオと雪玲!!」
観客がわあっと盛り上がる。
「まじかよ、あいつら」
レイがあきれたように笑う。
「雪玲と対等にやりあうとは、あの子はやるな」
想も満足そうに言った。
その後、商店街はこれからも続くこととなった。
燦龍衆の面々も、無事に部品を回収したらしい。
そして、鏡虎団は…
「またラーメンかよ、もういい加減別の物を食べたいぞ」
「私のおかげで食べられるの感謝しろヨ」
「今月も依頼料をもらわずに依頼を受けたレイのせいですよ」
と、毎日ラーメン屋に通っていた。
「お!きたな!鏡虎団!」
「うちの野菜持ってきな!」
「シャオちゃん!コロッケ食べるかい?」
兎商店街の面々からも愛されるようになった鏡虎団。
レイはどこか嬉しそうに微笑んだ。
【何でも屋 鏡虎団 出張中】
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