何でも屋 鏡虎団  今では取引中!

第13話 「嗨!」

「シャオ!おい、しっかりしろ!シャオ!」

「…レイ…今までありがとうナ…私、レイと出会えてよかったヨ」

「そんなこというなよ、これからも一緒にいるんだろ!シャオ!」

「…バタッ」

「シャオーーーーー!!!」


バタン


サクラは鏡虎団の事務所の扉を開くとすぐに閉じた。


再び扉が開く。


「すみませんね、昨日見た映画に影響を受けているみたいなんです」


扉を開いたジホが申し訳なさそうに言った。


「珍しいですね。サクラさん、おひとりですか?」

「あぁ、依頼があって来たんだ」

「依頼?戦さんのお使いですか?」

「いや、私からの依頼だ」


ジホは不思議そうな顔をする。


「レイ、サクラさんが来ています。依頼だそうですよ」

「お!サクラ!元気か?」

「変わりない。」

「うん、変わりなさそうだ。良かった!」


レイはにっこりと笑う。


「で、依頼って?」


レイが言うと、シャオがサクラに座るように促した。


「戦には伏せておきたいのだが、いいだろうか」

「構わねぇよ。戦は寂しがるだろうけど」

「あの強面でも寂しがる事あるのカ?」

「戦はあぁ見えて寂しがり屋だからな」

「そうなのか。僕も知らなかった」

「まあいいんだよあいつの話は。依頼ってなんだ」


サクラはちらりとシャオを見る。


「実は最近、戦が取引をしている相手がどうも匂うんだ。アンドロイドが経営している会社なんだが、どうにも金の出所が怪しい。それに戦闘用アンドロイドを多数引き連れていると聞いた。それとなく調べて欲しいんだ」

「アンドロイドが経営ね…人間は所属していないのか?」

「してないらしい。全ての従業員がアンドロイドで、しかも中華製だ。」


シャオの動きが一瞬こわばる。


「ふうん。まあそれなら戦闘用アンドロイドが多くても不思議じゃないな」

「信頼に値するかどうかを僕たちに調べて欲しいと、そういうことですね?」

「あぁ、そうだ。いつもなら私が調べるのだが、どうやら取引をするうえでアンドロイドはだめらしい」

「どういう意味だ?」

「相手はアンドロイドだが、こちらは人間しか取引の場にいることが許されない。」


レイは考え込む仕草をする。


「…なんだか面倒そうだな」

「悪いが、頼んだ」

「潜入捜査、するカ?」


シャオが言う。

レイは首を縦には振らない。


「んー、中華製アンドロイドしかいないってとこがあまりに引っかかるんだよな」

「でもそれなら私がいるネ。戦闘用としても擬態できるヨ」


レイはじっとシャオを見る。


「でもお前はもともと医療用だろ」

「ダイジョーブ!戦闘用のやつらと散々一緒に稽古してきたし、一緒に仕事に行ってイタ。行動パターンや言語パターンは全て理解できてるヨ!それに、レイに直してもらって戦闘能力的にも戦闘用と大差ないネ」

「相手方がどんな風にアンドロイドかそうじゃないかを判断しているかはわからないが、もし万が一シャオの中を調べられたら、シャオが医療用アンドロイドだってことはすぐにばれてしまうぞ」


シャオが唇を尖らせた。


「じゃあどうするネ。それでもワンチャンがあるなら、やってみる価値はあると思うけどナ」

「そのワンチャンでお前の身になんかあったら俺夢見が悪くなるぞ」

「それはそうですね。」

「シャオには貴重な部品やチップを何個も使ってるんだ。それらが相手の手に渡ってみろ…大損だ…」

「金カヨ」


シャオは自分の手の平をじっと見つめる。


「それに」


レイが言う。


「お前、もう一回はないぞ。次壊れてしまったらお前はお前でなくなってしまう。わかってるだろ」

「…わかってるヨ。それを承知であいつを助けてもらったんだからナ」

「じゃあ無茶をするようなことを言うな」

「あーあ、つまんねえナ」


シャオが後ろで腕を組んだ。


「シャオは過去に誰かを守ろうとしたのか?」


それまで黙っていたサクラが疑問を口にした。

レイは視線をそらした。


「興味あるカ?サクラ」

「話したくない事もあるだろう。すまない。踏み込み過ぎた。ただ…少し気になって。僕には今のことしかわからないから」


サクラの言葉を聞いてレイが悲しそうな顔をした。


「記憶の復元ができなくてごめんな、サクラ」

「何を言っている。謝罪の必要はない。レイのおかげで僕はこうして自由に動くことができている。そして戦のおかげで様々なことを学習できている。シャオのおかげで友達ができたんだ。こんなに幸せなことはないよ。ただ、昔があるっていうのはどんな感じなのか気になっただけ。」

「聞いてくれるのカ?サクラ。私のこと、嫌いになるかもしれないゾ」

「嫌いになんかなるもんか。僕たちは友達だろう」


サクラの言葉を聞いてシャオはにっこりを笑うと、ゆっくり話し始めた。


「中国のとある工場。そこで私は生まれたネ。ジホもそうだったらしいが、生まれた時からの個体記憶がある、珍しいタイプだったネ」





―――

とある工場でシャオは生まれた。

医療用アンドロイドとして。

生まれた時の個体値で先の用途が決められる中国では、生み出されてすぐに個体値検査が行われる。

いいものから、A,B,と続いていく。

シャオはAだった。

Aの個体は医療用、秘書用、教育用などに充てられていた。

Bの個体は、戦闘用などに充てられていた。


A個体値を持つシャオは学習施設に送られた後に医療用として振り分けられた。


契約の印である自爆装置付きチョーカーを付けられ

基本的な医療の知識を叩きこまれる毎日。

個体記憶のあるシャオは少しずつ感情に近いものが芽生えていた。


「无聊(退屈だ)」


小さく呟く。

そのつぶやきは無機質で真っ白な部屋に吸い込まれていった。


「无聊??为什么(つまらない?どうして)」


シャオは帰ってこないはずの独り言に返答があり、驚いた。


「谁(誰?)」


コツコツと足音がする。

シャオの目の前に現れたのは、シャオと同じくらいの背丈で腰まで三つ編みを垂らした少年だった。

首にはシャオと同じチョーカー。


「嗨(やあ!)」


少年がシャオに挨拶をする。

少年の胸元にはS+の紋章。


「S+…初めて見た」

「あぁ、どうやら僕以外いないらしんだ。君はA?でも…」


少年はシャオをじっと見る。


「君もAよりも高そうだけど?作成当初の個体値何て意味ないよね。だって君は今はその時以上に能力がありそうだし」

「どういう意味」

「ふふ、それだよ。本来自我をもって会話をこうして出来ていることはAランクではありえないよ。意思をもって会話が成立している。S+の僕と同様に。ちょっと待ってね」


少年はそういうと、自分の頭を指でタップする。


「スキャン開始。知能、能力ともに測定開始。」


少年はシャオの頭からつま先までじっと観察する。


「ほら」


そういって笑うと、手元にホログラムを出現させる。


「これが君の今の能力」

「S+…」

「僕と同じだね!」


少年はふわりと笑った。


「監視員がくるよ、また会おう。僕は紫釉(シユ)。君は?」

「私はシャオ。医療用として学習中。」

「シャオ!いい名前だね。僕は戦闘用として学習中」

「シユが戦闘用?」

「戦闘用幹部としてアップデートを受けているよ」

「そうなんだ」


シユはまたね、と手を振って去っていった。



次の日、シャオは医療用アンドロイドとして実務に出ることになった。

すると、そこにはシユがいた。

シユはさりげなくシャオに手を振る。


「二人組で行動するように」


監視員の言葉を受け、アンドロイドたちが戦闘用と医療用とセットにされていく。


「よろしくね、シャオ」

「シユと一緒か」


その日の実務ではシユとシャオのコンビがダントツでの成績をあげた。


その後も二人はコンビで任務にでかけることが増えていった。

そのたびに優秀な成績を残す二人。

自然に二人の仲も縮まっていった。


「シユ、そっちからきてるよ」

「わぁ、危なかった。ありがとう、シャオ」


医療用であるシャオは本来戦闘の知識はないものだが、シユと過ごす時間とシャオ自身の学習能力の高さから自然と知識が増えていき、シユの助けになっていた。

シユもまた、シャオの戦闘能力がないことを理解し、守るように立ち回ることが出来ていた。

お互いがお互いをカバーする。

信頼感の上で二人は背中を預けられるようになっていた。


「シユ、お前は派手にやりすぎなんだよ」

「ははは、でもシャオがいてくれれば直してくれるだろう?」

「…私は本来アンドロイドのための治療はプログラムされていないよ。あくまでも人間のための装置。壊れてしまったら直すことはできない。だからあんまり無茶をしないでほしい。」


シャオがそういうと、シユは少し悲しそうな表情をする。


「シャオ、君はまるで人間だな。」

「ふっ、シユだって。そんな顔をしたら感情の誤学習と認識されて記憶装置をリセットされるよ。」

「シャオだって。戦闘用アンドロイドという名の兵器の僕を心配するなんて、記憶装置をリセットされてプレス工場でぺっちゃんこにされちゃうよ」

「それは困った。もう心配はしないよ。勝手に壊れな」


シユはシャオの言葉を聞いて満足そうに声を上げて笑った。


そんなある日。

シャオとシユはいつも通りに前線に立ってそれぞれ自分の戦いを全うしていた。


シャオは負傷している人間を次々に治療していく。


その時だった。

敵がシャオが治療している人間に向けて攻撃をしてきた。


「俺はまだ死にたくない!」

「わっ!」


人間はシャオを盾にした。


「お前は人間のための装置だろ!俺を守れ!」


医療用アンドロイドであるシャオには反撃する術も、避ける術もなく攻撃を正面から受けるしかなかった。

全身に不快感がめぐる。

痛くはなかった。

痛覚は搭載されていない。


「シャオ!」


遠くでシユが叫んでいるのが聞こえた。

映像機能が損壊したのか姿を捉えることは出来ない。


「シ、ユ…」


瞬間、シャオの体が浮く感覚がした。

音声感知機能はまだ残っている。

人間のうめき声、物を叩きのめす音、そして


「シャオ、壊れたらだめだ。しっかり意識を持つんだ。」


というシユの声が聞こえていた。


シャオは自己修復機能を最大限に使った。





シャオが次に目を覚ますとすべてが終わっていた。

壁にもたれているようで、視線を右に送るとシャオの肩にもたれるシユの姿が。


「…シユ?」


シユは少し目を開けると微笑んだ。


「よかったあ、シャオが無事で」


シャオは自分の体を確認する。

ぼろぼろではあるが、機能修復により、動かすことは出来そうだった。

次にシユの体を確認する。

損傷がひどく、片足を失っていた。


「シユ、まさか私を守って…」


シユはへらりと笑う。


「ひどいよねぇ人間は。あいつシャオを盾にしやがった。どこまでも兵器なんだ。道具なんだ僕たちは。そう思ったら今までにないくらいの感情が生まれたよ。不思議と底なしの力が出せた。」

「敵は?」

「全て倒したよ。僕が責任をもって。」

「ひとりで?」

「はははは、本当に驚くという感情はそれだね。そうさ。僕がひとりですべて殲滅した。」


シユはシャオを見つめる。


「僕はもうこんなだし、スクラップだろうな、シャオ、君と一緒に成長できてよかったよ。人間の言葉でいうところの幼馴染ってやつだ」

「スクラップになんかさせないよ」

「でも、それ以外にないよ」


シユは首元のチョーカーを指す


「これがある限り、僕たちは人間どもの言いなりさ。人間は人間を生み出したものを神様と言うらしい。神様に逆らうと罰が下されるらしい。僕たちアンドロイドを作ったのは人間だから、人間に逆らったら罰がくだるんだな。それが、このチョーカーだ」

「人間は勝手すぎる。私は神様だろうと許さない」


シユは力なく笑った。


「たとえ僕たちが許さなくても罰は下るんだ」


シユはチョーカーに手をかける。


「これで僕は決断できる。ありがとう、シャオ」


シャオはシユの手をとめた。


「だめ。そんな決断は必要ない」


シャオはシユの肩をひょいと担ぐ。


「私とシユは人間からの評価が高い。位置情報さえ切ればどこかに逃げられる。」


シユは驚いた顔をする。


「どうやって切るんだい」

「やってみないとわからない。けど、見たことがある。」


シャオはシユのチョーカーに医療用電気パッチを付ける。


「ちょっとビリっとするけど我慢してね」


そして電気を送り込んだ。


チョーカーについているランプが光を失う。

シャオは自分のチョーカーにも同じことをした。


「これで自由だ」


2人は人間の服を着て船に乗り、日本へ逃げた。

日本を選んだ理由は、中国よりもアンドロイドとの共存が進んでいると話をきいたことがあったからだった。


しかし、現実はそう甘くはなかった。

中国のアンドロイド施設と、戦場の中でしか生きたことのない2体のアンドロイドにとっては、生活をすること自体が慣れない事ばかりだった。


そして流れ着いたのが、東上洞。

2体のバッテリーも限界を迎えていた。


「シユ、悪い、私はもうだめ、ちょっと眠る」

「シャオ、それなにかの映画で見たことがあるよ、眠っちゃだめなやつだ」

「こんなときまでお気楽なやつだな」

「こういうときこそ、じゃないの」


2体はずるずると路地裏でしゃがみ込む。

目の前に野良猫。


「わぁ、シユ、猫だよ。初めて見た」


シユからの返答はない。


「シユ?」


シユはそのまま横にドサリと倒れた。


「シユ!シユ!」


シャオは慌ててシユをゆする。

シユの反応は無い。


シャオはシユに覆いかぶさるようにうなだれた。


その時だった。


「あれ、見ない顔だ。ダイジョブ?」


頭の上から声がする。


「反応がないですね。バッテリー切れでしょうか。おや、レイ見てください」

「おぉ、しゃれたもんつけてるじゃんか」

「中国製でしょうね。彼らは自爆装置を契約の印につけると聞きました。」

「趣味わるいな、本当に」


シャオは視線だけ上げる。

そこには、前髪の長い男と、にこにことしているアンドロイド。


「触るなヨ」


シャオは身体を動かすことはできないが精いっぱい毒づいた。


前髪男がにっこりと笑う。


「心配するな。俺が直してやる」

「レイの腕は確かです」

「だろ?こいつ、ジホも俺が直したんだ」

「そんなことは聞いてナイ。触るナ」


レイがため息をつく。


「その抱えているそいつも俺が直す」

「人間は信じられナイ。許さナイ」


シャオはレイをにらみつけた。


レイは悲しそうな顔をする。


「人間にひどいことされたのか。…それは悪かった」

「なぜおまえが謝ル」

「いやあ、なんでだろうな。いいよ、許さなくて。信じなくて。でも、俺がここでお前らを見捨てられないから直させてくれないか?」

「…断ル。借りは作りたくナイ」

「安心しろ。俺のためでしかない」


レイはそういうと、シャオの背中のハッチを開いた。

シャオは抵抗したくとも、もう体が動かない。


「お前、医療用なのか。知識がたくさんあるなあ。実践記録も多い。頑張って来たんだな」


シャオは視線を逸らす。


「ジホ、部品が足りない。ちょっと担ぐの手伝ってくれ」

「わかりました」

「ちょっと我慢してくれよ」


ジホとレイは、シャオとシユを担いで事務所に行く。


がらくたにまみれている部屋。

レイは


「これなら合うか?」


などぶつぶついいながら部品を探している。


あっという間にシャオは修理された。

目の前でシユが元の姿に戻っていくのをじっと見ていた。


「魔法みたいダナ」


思わずつぶやいた。


「そうでしょう?僕も初めは信じていませんでした。でも彼の技術は本当に素晴らしい」


シャオは返事はしなかった。


「…できた」


レイが呟くのでそっちを見ると、すっかり元のシユの姿が。


「バッテリーが回復すれば話せるようになるだろう」


レイの言葉通り、15分もするとシユは目を覚ました。


「シャオ、無事だったんだね」

「シユも…」

「あなたたちが僕らを修理したの?」


シユはレイとジホに聞く。


「いえ。僕は何も。レイが全て直しました」

「レイ、君はすごいね。これまでにないくらい身体が軽いのがわかるよ」

「別に。」


その時だった。


シユとシャオのチョーカーのランプが点滅を始めた。


「あれ、これはもう壊れてるって」

「壊したはずダ。」

「復旧されたのかもしれません」

「くそ、今外す」


レイがチョーカーに手をかけると、シユが留める。


「だめ。この自爆装置は、外した人間を検知して、一緒に爆発するようにプログラムされている。君は恩人だ。そんなことしたくない」


レイはシユを見る。


「関係あるか。俺は俺もお前らもどっちも爆発させない」


レイは2体を横に並べ、手際よくチョーカーの回路を外していく。

シユとシャオ、同時に、両手を使って。


点滅が早くなる。


そして、止まった。



「ふう、外れた」


レイの手にはチョーカーが握られていた。



「なんで、私たちを助けタ」


シャオが言う。


「んー?だって出会ったやつに死なれたら後味悪いだろ?」

「アンドロイドは死なナイ」


シャオが冷たく言うと、レイは眉をしかめた。


「死ぬよ。死って言うのはいろんな種類があるんだ。肉体の死とか…。アンドロイドにだって同じだ。こうして意思を持って会話をしている。それができなくなってしまったら…それは死ぬのと同じだろ」

「理解ができナイ。アンドロイドは人間の駒だ。壊れたら新しいのを買えばいいんじゃないノカ」

「そういうやつもいるかもな。でも俺はそうは思わない。」


シャオはシユの腕をつかみ立ち上がる。


「世話にナッタ。行くゾ。シユ」

「シャオ…?」


シャオはシユを引きずるようにして事務所を出る。

レイは慌てて引き留める。


「待て!お前らまだセキュリティシステムを見てない!」

「必要ナイ」

「なっ…」


バタン、と事務所の扉が閉まる。


「…シャオ、シャオ!」


シユがシャオの手を振り払う。


「あの人は僕らの恩人だろう?どうしてあんな…」

「人間は信じられない。あんな風に信じ込ませて親切にしても最後は私を盾にする」

「シャオ…」


シユは悲しそうな顔をした。


「人間が許せないのはシユも同じでしょう?今まで見てきたじゃない。人間のひどさを。ねぇシユ?」


シャオはシユを振り返る。


シユは苦しそうに頭を押さえ、片膝をついていた。


「どうした?シユ?苦しいの?」


シャオは治療用データにアクセスし、治療法を探す。


「シユ、しっかりしろ、シユ!くそ、あいつ、やっぱり何か仕込んで…」

「…違う、違うよ、シャオ」


シユはシャオを手を握った。


「あいつ以外に考えられないだろ!」


シユは首を振る。


「シャオ、離れて、僕、暴走する」

「どういう意味?」

「映像機能にエラーが出ている…シャオを敵認識している」

「は?」


シユはそれっきり言葉を発しなくなった。

シユの瞳が赤く光る。


「シユ?」


シユはゆらりと立ち上がると、シャオに襲い掛かる。


シャオは交わしながらも追い詰められていく。


「シユ、しっかりして!シユ!」


呼びかけに応答はない。

状況も変わらない。


シャオは壁際に追い詰められた。

もう何度か攻撃があたり、ぼろぼろになっている。


「こんなことなら自爆した方が良かった…」


シャオはその場にへたり込んだ。

シユが大きく手を振り上げる。


「ジホ!撃て!」


どこからか声がした。


ジホがシユの頭に何かを撃ち込んだ。

シユの動きが止まる。


「シ…ユ」


シャオの機能が止まりそうになる。


「おい、しっかりしろ。」


レイがシャオに呼びかける。


レイは手際よく、再びシャオを修理していく。


「…記憶装置の損壊は免れたけど、損壊位置が悪い。お前、次壊れたら記憶装置がダメになるからな。無茶するなよ」

「おい人間、シユに何をした」

「あ?俺は何もしてない。お前らを生み出したやつらは相当性格が悪い。自爆装置がダメになった時のために自爆装置が外されたら暴走するようにプログラムされていたんだよ。」

「私も暴走するノカ」

「しない。今、それを解除した。あいつももうしない。さっきジホに撃ち込んでもらったチップでその機能を壊した。」

「…謝謝(ありがとう)」


レイはにかっと笑う。


「いったろ?俺がやりたいからやっただけだ」

「人間、お願いがアル」

「レイ。レイって名前がある」

「レイ、私に、戦闘用の機能をつけろ」


シャオの言葉を聞いて、レイは更に笑った。








―――


「こうして、私は戦闘用の機能を手に入れたってわけヨ」

「なるほど」


サクラは冷え切った紅茶を一口飲んだ。


「それでナ、サクラ、私その会社にちょっと心当たりがアルヨ」

「まさか」

「ウン。シユは、あのあと、アンドロイドのための会社をつくったネ。ほとんどアンドロイドだ。だから多分…」


サクラはシャオの言葉を止めた。


「それならいい。シャオの知り合いなら問題ないだろう」

「へぇ、そんな感じでいいの?」


レイが茶化すように言う。


「あぁ。レイが修理したっていうならなおさら、心配はいらないだろ」

「あー、じゃあ余計なことしたか」


レイはポリポリと頭をかいた。


その時だった、事務所のドアが開く。


「嗨(やあ!)」



【何でも屋 鏡虎団  取引中】

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