第10話
どこからか声がして冥蘭の動きが止まる。
レイも同様に振り返る。
「…紅蘭…どうして」
そこに立っていたのは、赤い髪をポニーテールにし、赤いチャイナ服を着た青年。
「冥蘭、おれと一緒にいこうよ、理想の世界を作ろうよ」
紅蘭のいう言葉にはなぜか抑揚がなかった。
「おれ、不死身になったんだ。もうフェニックスそのものなんだよ、冥蘭」
「どういう意味だ」
冥蘭は今にも泣きそうだ。
「お前は死んだはずだろう」
「でもこうして生きているよ。冥蘭、おれと一緒に行こう」
「どこに」
「理想の世界にだよ。おれはヒューマノイドに進化した。もう死なない。もう冥蘭を悲しませないよ」
「な、ん、なんなんだ…」
冥蘭はゆらりゆらりと紅蘭に近づいていく。
「おい、待て冥蘭」
レイが制止するが、冥蘭には届かない。
「それは紅蘭なんかじゃないぞ!」
「何言ってるんだ、レイ、お前は知らないかもしれないが、この姿は紅蘭以外の何物でもない」
「冥蘭…」
レイは慌てて冥蘭を追いかける。
「待てって、冥蘭!」
冥蘭は駆け出し、紅蘭に抱き着こうと手を伸ばす。
一歩、届きそうなところで、紅蘭の身体が横に吹っ飛ぶ。
音を立てて紅蘭の腕と足が本体から外れて転がった。
「レイ!なにしやがるんだ!」
冥蘭が叫んだ。
「目をさませ!冥蘭!お前はその手で紅蘭を弔ったんじゃないのか!これは紅蘭じゃない!何者かに利用されているんだ!」
レイが言う。
「パチパチだよぉ~!」
紅蘭の背後から、誰かが手を叩いてやってくる。
「見事な推理だねぇレイ」
その姿を確認したレイは全身に嫌悪感を巡らせる。
「…清良」
そこには、清良の姿が。
清良は、紅蘭の姿をしたアンドロイドの頭からメモリーカードを抜き取り、満足そうに眺めた。
それを手元の端末に差し込み、液晶を確認すると笑みを深くして頷いた。
「ウン。いいデータも取れた。もう君たちには用はないよ、フェニックスディグ」
清良は手を叩くと、周囲が途端に静かになる。
もう一度手を叩くと、どこからともなく黒ずくめのアンドロイドが現れた。
黒ずくめのアンドロイドが紅蘭を背負い、清良と共に去っていく。
「じゃあねぇ、レイ。今日は君には用はないんだ。会えてうれしかったよ。また会おう」
「待て!清良!」
レイは追いかけるように駆け出すが、どういう仕組みか、清良たちは消えていった。
「くそっ!」
レイが地面をたたく。
「なにがどうなっているんだ」
「俺にもさっぱりわからねぇ」
冥蘭も不快感を示す。
しばらくすると、大勢の足音が聞こえてくる。
「ボス!」
幹部たちが冥蘭に駆け寄る。
「お前たち…どうしたんだ」
「すみません、俺たち、なにがなんだかわかっていなくて…」
「何をしていたか記憶がないんです」
「それで、さっきそこの男女二人に状況を聞きました」
「すみません。俺たちボスにひどいことしていたみたいで」
幹部たち、メンバーたちが次々に冥蘭に謝罪する。
レイはジホとシャオを見た。
「どうやら、清良は洗脳のようなものを使うみたいダ。こいつらも操られていたんだロ。」
「ぴたりとうごきを止め、意識を取り戻すと皆さん動揺していました。」
「ごめん」
レイが冥蘭に謝る。
「レイが謝る必要はない。むしろ、助けてくれたことに感謝しかない。」
「でも…」
「あの男がレイとどのような関係なのかは俺達には関係はないし、深堀するつもりもない。部下たちが洗脳され、それに気が付かなかったことは俺の過失だ。レイのせいじゃない。」
冥蘭はそう言いながらレイの肩に手を置いた。
「それに、個人的に紅蘭を利用されたことに腹が立っている。あの男には俺個人の恨みもいつか晴らさなけらばいけなくなった。」
「あぁ…そうだな」
「これからどうするネ」
シャオが聞く。
「そうだな、もう一度一から組織を立て直そうと思う。どうだろうか、みんな」
冥蘭が振り向くと、フェニックスディグの面々が大きくうなずいた。
「ボス、もう一度やり直すチャンスを下さい」
幹部が頭を下げる。
「…それは俺も同じ気持ちだ」
結局、フェニックスディグはそれ以降、暴徒化することはなかった。
「冥蘭、頑張っているんだナ」
「あぁ、そうだな」
そう話しながら、3人は羊のバーにいた。
「悪い。解決はできなかった」
レイが下唇をかんで羊に言う。
「…いや、俺の依頼は達成されている」
「は?」
「…感謝する」
レイはわけがわからないという顔で羊を見る。
羊は珍しく微笑んでいた。
「…俺は理不尽なことをするやつらを抹殺してほしかったんだ。生まれ変わったあいつらに興味はない」
「知ってるのかよ」
「…俺は情報屋を生業としているからな」
レイは唇を尖らせた。
ジホはゆっくりとグラスを傾けた。
「羊さん、いつおうちに伺いましょうか」
羊はこれまた珍しく嬉しそうに笑う。
「…ありがとう、ジホ」
3人が事務所に帰るやいなやミゲルが事務所にやってきた。
「やーやー!大変だったみたいだね!よくやってくれたよ!」
「結局なんなんだったんだよ」
「いやあ、ミゲルとしてはね、街が平和になればいいんだよ」
レイはまた表情が険しくなる。
「なんなんだよ、どいつもこいつも」
「納得いかないかい?」
「納得できるわけがないだろう。なんだか雲をつかまされてるようだ。解決した気持ちにはまるでならない。」
レイの様子を見てミゲルはにっこりと笑った。
「君がそうやって“いて”くれるから、この街が平和になるんだよ」
「意味がわからねぇ。」
3人にとっては納得のいかない結果であったが、この事件は収束した。
特にレイはずっと機嫌が悪かった。
「そもそも清良はなにをしようとしているんだ」
「奇妙でしたね」
「嫌な予感がするヨ」
「一番きもち悪いのは、紅蘭が“ヒューマノイドに進化した”っていう言い方をしていたことだ。進化だなんて…」
レイの様子を心配そうに見るジホとシャオ。
「ヒトはヒトだ。アンドロイドはアンドロイド。どちらもいいものだ。進化もなにもないはずなんだよ」
レイの言葉を聞いてシャオとジホが顔を見合わせる。
そしてすぐに笑顔になり、
「でもとにかく、もう依頼主がいいっていうんだからイイダロ!」
「それに、冥蘭さんとは仲間のような関係になれました。」
「そうだナ!仲間がふえると、街の中で動きやすくなるヨ!」
2人の様子を見て、レイも少し力が抜ける。
「あぁ、もういいや、難しいこと考えるのは俺の仕事じゃない」
「そうヨ。らしくないからやめろ」
「さ、おいしいものでも食べましょう」
「そういや、この前の服かわいかったナ。」
「今度服でも買いに行きましょうか」
「え~…シャオの買い物長いじゃん」
【なんでも屋 鏡虎団 少し休憩】
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