第5話

数年前、東上洞。

レイ、戦、清良はみよりのない子ども同士、気づけばいつも一緒にいた。

食べ物を分け合い、小さな毛布を3人で掛けて寒さをしのいできた。


そんなある日、戦が壊れたアンドロイドを見つけた。

東上洞では珍しくないことだったが、そのアンドロイドは少し様子が違っていた。


『か、かわいい、こどもたち…こっちに…こっちに・・・』


3人は顔を見合わせる。


「おかしいよ、これ。近づかない方がいい」


戦が言った。


「そうだな」

「…でもかわいそうだよ?」


清良だけはその場を離れようとしなかった。


「だめだ。危険なアンドロイドにつかまるとどうなるかなんて知ってるだろ。命とられるぞ」

「でも…」

「俺たちは仲間が大事なんだ」

「わかった」


レイと戦に言われ、清良もしぶしぶその場を離れる。



数日後、いつもの場所に集まった戦とレイ。清良がいつまでたっても現れなかった。

二人は清良を探しに行くことにした。


そして、見つけたのは、先日のアンドロイドと談笑する清良の姿だった。


「あ!戦!レイ!このアンドロイド、危なくなかったよ!優しいんだ、いつもボクの話を聞いてくれて、頭を撫でてくれるんだよ!ね!ママ!」


戦とレイは顔を見合わせる。


「危なくなったら離れろよ。いつ暴走してもおかしくないからな」


戦はそれだけいうと、路地を後にした。


「戦はいつもあぁなんだ。少し頭が良いからって、ボクらのことをバカにするんだ」

『か、、かわいそう、、、かわいそうね、、、いいこ、、、いいこ、、、』

「ふふ、ありがと、ママ」


それから、清良はほとんどの時間を壊れたアンドロイドと過ごす様になっていた。


そして、事件は起こった。


いつものように散歩をしていた戦とレイ。

ついでに清良のいる路地裏を覗いた。


「わぁ、、、戦とレイだぁ、、、、、、」


そこには、首元をアンドロイドに噛まれる清良の姿があった。


「「清良!!」」


戦はアンドロイドの顔面に鉄パイプを思い切りぶつけ、吹き飛ばす。

レイは清良の体を引き寄せた。


「おい、だいじょぶか、清良!」

「ママ、、、壊れちゃった、、、ボクの、、、ママ、、、」


レイは顔をしかめた。


「大丈夫か清良」


アンドロイドを粉砕した戦が戻る。


「え、戦、なにしたの」

「もう心配ない。あのアンドロイドは再起不能にした。」

「どうして!どうしてそんなことしたの!ボクの!ボクのママなのに!!」

「落ち着け、清良、あれはお前のママじゃない、子育て型アンドロイドだ。それにもうあのアンドロイドは壊れてたんだよ、暴走してお前が襲われたんだろ!」


取り乱す清良に、レイが声をかける。


「そうだ!レイ、直してよ、レイは機会直すのが得意でしょ、直してよ、ボクのママ!」

「・・・清良!!」


清良はレイをアンドロイドのかけらが散らばる場所まで押し込んだ。


「清良、やめろ」

「戦は黙っててよ!ボクの一番大事なものを壊したんだから!」

「清良、俺はお前をたすけようと」

「頼んでないでしょ!そんなこと!戦には関係なかったでしょ!」

「清良…」


清良はかけらを拾ってレイに渡す。


「ね、レイ、早く治してよ、ボクのママ!ねぇ早く!」

「・・・・」


レイはぎゅっと唇をかみしめて立ち尽くす。


「できないよ、清良…」

「どうして?」

「おかしいよ、清良、だからあれはお前のママなんかじゃない!子育て型のアンドロイドだろ!壊されて記憶装置が曖昧で、知能装置も壊れていたからおまえのことが誰だかなんて知らないんだ!だから一度だってあのアンドロイドは清良の名前を呼んでないだろ!」

「何言ってるの?レイ。あれは、ボクのママだよ」

「清良こそ何言ってるんだよ!それにもうこんなに壊れた!これ以上は清良が壊れちゃうよ…」


レイはそう言い切ると、ぽろぽろと涙をこぼした。


「・・・レイ、直して。」

「できない…目を覚ませよ、清良!」

「うるさい!」


清良は、落ちていたガラス片を掴み、レイの顔目掛けて振り下ろした。

レイはぎゅっと目を閉じた。

衝撃がこない。

レイは恐る恐る目を開けると、そこには右目から血を流した戦がいた。


「戦!戦!」


レイが駆け寄ると、戦は手を挙げて制した。


「大丈夫。騒ぐな、目がいかれただけだ」

「清良!お前・・・」

「ボクは悪くないよ、戦とレイが壊したんでしょ、ママとボクのこと」

「清良!!」

「う、うわぁぁぁぁ」


清良は叫びながらそこから逃げ出した。

レイは血を流す戦を背負って、闇病院に連れていった。


それから、清良は東上洞から姿を消し、また出入り禁止となった。




ジホとシャオは黙って聞いていた。

レイは今にも泣きそうだ。


「レイ、ボクのママ、今どうしているか知っている?」


清良が言う


「…知らない」

「まだ壊れたままなの。ボクはまだあきらめてないよ。レイ、ボクのママ、直してよ」


清良はそういうと、押さえていたジホを振り払って、ポケットから何かのかけらを取り出した。


「集められるだけのママのかけらだよ。少しでもあればアンドロイドは修繕が可能だ。ほら、直してよ、レイ」

「お前…」

「……なに、その顔。なーんか冷めた。もっとかけらを集めてレイに直してもらうからね。じゃあ、またね、レイ」


清良はそういうと、窓から飛び降りた。


「レイ、大丈夫ですか」

「あぁ…。」

「勝手なやつだったナ。このアンドロイドどうするヨ」

「サクラ…強制終了はとめられなかったか…」


レイはサクラの側によって、そっと髪を撫でた。





戦は、鏡虎団の事務所にきていた。


「悪い、捕まえられなかった。」

「…問題ない。あいつの噴水広場での行動が他の組織にも広がり、うちの部下も使われていたことが相手に伝わり解放された。」

「そうか」

「それに、依頼は断られたと思っていたが」


戦の言葉に苦笑するレイ。


「そうだったわ。そんで、お願いがあるんだ」

「サクラ、といったか、そのアンドロイドだろ」

「あぁ、お前の所で引き取れないか。」

「みたところ、記憶装置も知能装置もリセットされているな」


戦は、事務所の端に目をやった。

そこでは、生まれたてのような表情をしたサクラが、シャオの真似をしていた。


「お前はサクラネ。わたしは、サクラ、言ってミロ」

「オマエハサクラネ、ワタシハ、サクラ、イッテミロ」

「下手くそだナ」

「ヘタクソダナ」

「あぁ?!やんのカ?!」

「あぁ?!やんのか?!」

「お、今のは上手に発音できていましたね」



「問題ない。うちで引き取ろう。」

「…あいつが追ってくるかもとも思ったんだけど」

「……望みは薄いだろうな」

「やっぱりそうだよな」

「心配するな」


戦はレイの肩をたたいた。


そうして、サクラは戦の会社で引き取られることになった。

受付アンドロイドとして教育を受けるそうだ。

清良はしばらく警戒していたが、姿を見せることはなかった。



「わーうまそうなハンバーグ!」

「頑張ったレイにご褒美ですよ」

「ん!ん?!!!!!!から!!辛い!なんだこれ!!辛すぎて痛い!!」

「ご褒美の、激辛ハンバーグです」

「なっ!!!!俺辛いの苦手なの知ってるだろ!」

「えぇ、もちろん。だから、ご褒美、ですよ」

「レイが私たちを頼らないで一人で突っ込んでいった罰ヨ」


シャオは涼しい顔をしてハンバーグを食べている。


「お前ら…自分たちが辛いの大丈夫だからって…こんなこんな!!」

「では、これからは、”俺の問題“などといって、一人で抱え込まないでくださいね」

「そうヨ。どうせ一人じゃ抱えきれないんだからヨ」


ジホは笑顔でヨーグルトをレイに渡した。


レイはなんとも言えない表情になる。


「悪かったよ」


レイの素直な言葉に、ジホとシャオはにっこり笑う。


「わかったなら、イイヨ」

「えぇ、よかったです。」

「ご褒美に、しばらく休みにシロ」

「わぁーったよ、ここのところ働きづめだったしな」


外で、風が強く吹いた。


レイが


「ひぃ、辛い辛い」


と言いながら、看板をひっくり返す。



【何でも屋 鏡虎団  おやすみ中】

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