第2話 三校対抗戦!?
新入生歓迎会が終わったとはいえ、生徒会の山場はこれからになる。
生徒会本部の三人は、毎日声をかけて回っているが、やはり聞いていたとおり、三校対抗戦のメンバーは全く集まらないようだ。日野たちは、すでに2、3年には、ほぼ全員に声をかけたようだが、成果はゼロ。昨日の新入生歓迎会でも、日野が挨拶の中で呼びかけていたが、1年には朝のホームルームで正式に募集をかけていくという。
翌朝のホームルーム、教室のスピーカーから日野会長の溌剌とした呼びかけが校舎に響き渡った。
日野の三校対抗戦募集の放送が終わると、俺はクラスに申し込み用紙を配ったのだが、1組の反応も、やはり芳しくない。
「まあ、みんな学校を代表して盛り上がるっていうのは、いいもんだぞ。是非前向きに考えてくれ」
「いやあ、先生、今年の種目っていうのが、ネックでしょ。『かるた』だもん」
と、元気者の井澤が、したり顔で言うのも仕方のないところだ。
「『かるた』って、あの小学校のときにやったやつか?」
伊山の言葉に、井澤が後を向いて説明してやっている。
「違うよ、ほら、これちゃんと読めよ。百人一首だよ」と今配ったチラシを見せる。
「ああ、あの古典でやったやつか」
「そう、俺も体力なら自信あるんだけどな」
今年の対抗種目は「かるた」、百人一首の札取りだ。これは、なかなか素人にはハードルが高いと国語科の俺でも思う。部活ですら時間をとられるのをいやがるうちの生徒たちが、今さらそんなことに時間を割いてくれるとは思えなかった。
俺はざわめくクラスに、ため息をついて教室を後にした。
今日は月曜、選手名簿の提出期限は、今週いっぱいだった。
第八十九回三校対抗戦
今年度種目:競技かるた(「百人一首」)
参加人数 :男女で5名
条件 :競技かるた経験者は、1名まで
ルール :公式競技かるたに準ずる 5人による団体戦・三校による総当たり形式。
二戦の勝敗で優勝を決定する。
時 :8月6日 立秋の前日 午前9時開会
場所 :甲子社高校 総合体育館
〜君も、この夏、伝統ある戦いに名を刻め!〜
◇◇◇◇◇
その日の昼休み、1年1組の天見空(ソラ)と伊山美紅、そして2組の南條朱莉の3人が、いつものように北館一階端にある実習室でランチをしていた。
美術の作業ならいつ使ってもいいこの実習室を、ソラたちがランチタイムに使うようになったのは、この部屋が校舎の一番はずれにあって人通りも少なく、しかも日当たりが抜群という立地にあった。
3人は、入学したその日から、すぐに打ち解け、よく一緒にいるようになった。
ちょっと人見知りのところがあるソラに、
「ねえねえ、部活どうする? 演劇部見に行かない?」と、初日すぐに声をかけてきたのが美紅だった。
自己紹介でも言っていたように演劇部に入ると決めていた美紅は、入学式の日にソラを誘って演劇部に行き、その日から活動している。
美紅は、その背の高さだけでなく、切れ長の目と鼻筋の通った彫りの深い顔立ちも人目をひく。ソラは、最初、「美人さんだなあ」と少し近寄り難くさえ思っていたのだが、席の近かった美紅とは何かにつけ一緒に行動するようになり、いつの間にか彼女のペースに巻き込まれている。高校に入って、それまでのソラなら決してやらなかったことも、ためらう間もなく美紅に引っ張りまわされている感じだ。
だが、長く開かなかった建付けの悪い戸口を強引に開け放ってくれたのが美紅で、ソラは毎日新しい風に吹かれるのが心地よかった。
美紅は、亡くなったお母さんがシンガポール出身だとかで、そんなことを、会ったその日に軽い調子で話してくれる美紅を、ソラはすぐに好きになった。
そしてもう一人……、入学初日、帰ろうとしたソラの前に立ち塞がるように現れた少女がいた。
肩を超すさらさらの長い髪のその美少女は、大きな瞳でソラをまじまじと見つめると、
「あなた、宮成泉さんの親戚ってほんと!?」と聞いてきた。
戸惑うソラが、「えっ……、そうだけど」と気圧されるように答えると、パッと表情を輝かせ、いきなり両手で握手された。
「すごいわ、信じられない! 私、南條朱莉、宮成さんの大ファンなの!」
と、何が起きたのかわからないソラの手を、ブンブン振りまわすほどの激しい握手をしてきた。
宮成というのは、ソラの母方の姓だ。
宮成泉という名は確かに知っていた。
ソラの祖母、宮成滝が一年前に亡くなったのだが、その告別式の時に初めて会ったのを覚えている。祖母の妹にあたるその人は、ソラの大叔母にあたる、それまでに会ったことのない遠い親戚だ。
銀髪で背筋のピンと伸びた、闊達な人という印象だった。陶芸家をしているというのを聞いて、ソラが、自分の好きなことを追い求めている人のように思えて、少し憧れの目で見ていると、母が「どうせ気ままにフラフラしてるんでしょ」っと、影で毒を吐いていた。その時に聞いたのは、泉さんが、同じ京都の宇治に一人住んでいて、陶芸の世界では名の通った人だということだった。
そんな泉さんの大ファンだという朱莉とも、すぐ友達になり、彼女がいかにして陶芸の世界にはまって行ったのかを聞くことになる。
朱莉の家は八坂神社近くにある大きな陶芸店で、彼女はそこの一人っ子だ。
店には当然、いろんな陶芸作品が並べられていたのだが、その中で、一つ朱莉が小さい頃から大好きな大きな壺があった。それは、美しい薄緑で樹々の連なる風景が描かれている。その薄緑の中に一本だけ、桃色に彩られた桜の木があって花びらが舞い散っている。そんな淡い色彩の大きな壺。朱莉が一番好きだったのは、その桜の下に、よく見ないと見落とすほど小さく描かれた一人の女性の姿で、そこが別世界のように思えたのだという。
「その壺が買われちゃった時はね、私、何日も泣き通したの。それが小学二年の時。私、こんな作品を作った人に会いたいって、ずっと思ってたの」
そんな憧れから彼女は陶芸の奥深さにはまっていき、今も放課後や休みの日には、陶芸の先生のところに通っている。
「宮成泉といえば、江戸時代の仁清の再来と言われたほどの人なのよ。ほんとすごいんだから。ソラがその親戚ってだけで、もう手が震えてくるわ」
陶芸のことを語り出すと、スイッチが入ってしまって、周りが見えなくなる朱莉。
クラスの違う彼女とも、ゆっくり話せるこのランチタイムは、3人にとって大切な時間になっていた。
「もう、聞いてよ。パンがさ、危なく見つかりそうだったんだよ。しかも、あの一番うるさい誠吾によ!」
朱莉が、弁当をひっくり返しそうな勢いで、今日の出来事を二人に訴える。
4限目は1年共通の美術の授業だった。美術はこの学校の大きな特色になっている選択教科だ。多くの場合、選択科目は美術や書道といった教科を選ぶのだが、ここ鴨川では美術は必修で、その中で、日本画、洋画、陶芸、彫刻、デザインの中から専門コースを選ぶのだ。1年生は普通科の生徒も含めて、2種類の専門的な実習を学んでいけるようになっている。ソラと美紅は日本画と洋画、朱莉は陶芸と日本画を選んでいる。その授業中、陶芸コースの朱莉のいた実習室に、パンが、ひょっこりと顔を出したという。パンというのは、ソラたちがつけた名、1匹のネズミだった。
朱莉がその4時限目に、みんなを誤魔化すのに、どれほど大変だったか力説しているところに、「チュッ!」と小さな鳴き声が聞こえた。
「あ〜」と3人が、声を揃えて見たその先、窓の所に、掌ほどの大きさのネズミが1匹ちょこんと座ってこちらを見ていた。
春の陽だまりにその白黒のかわいいふわふわの毛玉は、鼻をヒクヒクとさせ、黒い大きな目を輝かせて3人を見ている。綺麗な白毛に、手足と目と耳の周りが黒毛になっているところは、まさしくパンダ、パンダ柄のネズミだった。
「もう、パン、あんたわかってるの、絶対みんなのいる所に出ちゃダメって言ってるのに! もー、そのかわいさは反則なんだから」
今まで怒っていた朱莉も、掌に飛び乗ってきたパンに、たちまちとろけてしまう。
「朱莉ばっかずるいぞ。パン、こっちへおいで」
美紅が騒ぐと、パンは「チュッ」と返事をした。
――も〜、この子はほんと自分の武器を知ってるわ。
と、ソラは呆れ顔でいる。
パンは、迷子のファンシーネズミ。初めは、ソラがこの実習室で授業中に見つけた。
後から分かったことだが、パンは近くのペットショップから逃げ出してきて、この校舎に隠れていたのだ。パンの名は、ソラたちがあげるパンが好きなことと、その模様、パンダ柄の極めて目立つ姿からきている。ソラがつけた時、2人は安直だと騒いだが、結局、それを超える名前は上がらず、彼の名はパンになった。それ以来、ソラたち3人は、お昼に野菜の切れ端なんかをあげている。もちろん、このままずっとここで飼えるとは思ってはいないのだが、3人の家ではどうしても飼うことができず、とりあえず、ちゃんとしたところが見つかるまではとなって、このことは3人だけの秘密になった。もしパンの存在が、知られたら、学校中が大騒ぎになることは必然! 鴨高の女子率の高さを考えると、このかわいさは、爆弾級、危険だと3人は判断したのだ。
入学初日、美紅に引っ張って行かれた演劇部を早々に退散したソラも、ようやく部活を決めた。陸上部だ。体育の時間に、ソラが久しぶりの運動が嬉しくて全力で走っていると、その授業の終わりに体育の先生に声をかけられた。何でも、陸上部、リレーのメンバーが揃わないとか。それで、放課後、見に行き、そのまま入部することになった。全力で走ったときの、自分を思いっきり解放できるのが、ソラには気持ち良かった。なんちゃって部の多いこの学校は、大会もほとんど出ない。部活紹介のとき、校長先生がうちは大会を目指して頑張る部はないと、初めに話していたくらいだ。なので、純粋に走ることだけを楽しめた。放課後も毎日でなくてもいいし、いつ帰ってもいいというのが良かった。
そんなふうに、いろんなことが始まった高校生活だったが、4月も終わろうとする週末の金曜に、ソラにとって大きな出来事が待っていた。
昼休み、ソラと美紅が、その日も弁当を手にいつもの実習室へ向かっていると、階段ホールで、生徒会の人たちが、大きな声で呼びかけをしているのに出会った。
「おお、そこを行くのは、この間の新入生じゃないか」
と、ソラたちを呼び止めたのは3年の日野咲良々(さらら)、生徒会長だ。長身でショートカットの髪をはずませ、こちらに駆けてくる姿は今日も光ってる。
「ちょうど良かった。君たち2人しかいない。これはまさに運命の出会い。そうこれは運命だ。よし、ここにサインをしてくれ」
日野先輩は、ソラにペンを持たせると、紙を差し出した。そこには、「三校対抗戦参加申し込み」と書いてある。
「え、どういうこと?」と戸惑っていると。
「咲良々、さすがに、ちゃんと説明しないと」
と、横からメガネの似合う副会長、岡崎先輩が凛とした声で話しかけてきた。
「ごめんね。君たちさ、対抗戦、参加する気、ないかな。いや、どうか参加してくれないかな。参加者、集まらないんだよね」
「頼む、君たちなら大歓迎だ。実は、選手報告の締め切りが今日までなんだ。それに間に合わないと、戦う前に不戦敗という対抗戦始まって以来の不名誉なことになる。ここは、学校を助けると思って、一緒にやってくれ。お願いだ」
「ほんとに、一緒にやらないかな。うちは部活といっても、対外試合とかはほとんどないから。こんなふうに学校として、真剣にやるっていうのは、貴重な体験になると思うし」
「しかも、この学校の歴史に名も残るんだぞ」
と、日野先輩が申込用紙を差し出した。
2人の真剣さに、ちょっとソラの心が動いた時、隣の美紅が、その紙を横から取って言った。
「いいっすよ、先輩、やります。な、ソラもやろうよ」
「先輩、私5時になったら帰らないといけないですけど、それでもできますか」
「全く問題ないよ。自分のできる時間を有効に使ってくれればオッケーさ」
日野先輩が、ニコリとして答える。その笑顔と一緒に過ごしたくなっていたソラは、「それなら、やります」と答えていた。
それを聞いた日野先輩が、「うお〜!」と雄叫びを上げる。
「さすが、私が見込んだだけある、ありがとう」
横でホッとした笑みの岡崎先輩がいた。
というわけで、ソラたちは、ほとんど勢いだけで、この歴史ある三校対抗戦に参加することになってしまった。
しかし、話はまだ終わらなかった。
「ええ? 先輩、まだ足りないんですか⁉」美紅が悲鳴のような声をあげる。
「うん、残念ながら、あと1人、まだ足りないのよね」と岡崎先輩。
「でも生徒会の先輩たちで3人いるし、そこへ私たちで、5人じゃないんですか」
美紅は、後ろで静かにひかえる、生徒会書記、2年の倉木澪(みお)先輩の方を見る。
「今回の選手ルールには、『男女で』とあるんだ」
日野先輩が、この間の大会チラシを見せて説明した。
「つまり、選手には、男子が1人はいるということだ」
「私、一応帰国子女で、漢字とか、まだ自信ないもんで。とりあえず補欠ということで」
後で手を上げた倉木先輩が、さらっと付け足した。会長が、これまでのことを説明する。
「うちは元々男子少ないだろ。なんせ、五対一の比率だからな。ちょっと私たちの読みも甘かった。5人くらいすぐ集まるだろうと思ったんだけどな。うちの生徒は、美術にはいくらでも時間をかけるけど、他のことに時間をとられるのを嫌がる。しかも、今年の種目は、百人一首だろ。あれ、まず全部覚えてるのが前提の競技だ。しっかりやるとなると、当然、練習もいるしな」
「え、あれ全部覚えるんですか」
美紅がここで反応する。ソラも、同じだ。百人一首って、何度か遊びで少しやったくらいだった。百も覚えるなんて、とんでもない。急に青くなっているソラたちに気づかず、いや、あえて無視してか、先輩達は、「昼休み、もう少し声かけていこう」と、散って行った。取り残されたソラたち2人は顔を見合わせた。
「美紅、百人一首、どれだけ知ってる?」
「う〜ん、中学の国語で出てきたのぐらいかな」
もう2人して笑うしかない。
「まあ、乗りかかった舟だ。なんとかなるか」
「これ、ほんとに泥船だよ。ボク、あっ、私、泳ぐの得意じゃないんだけど……」
ソラは、「溺れませんように」と天に祈った。
「そうだ! 男子、うちのクラスの奴らに、声かけてみようよ」
と、すぐに前向きな美紅とクラスへ戻ることにする。
お弁当を持ってやってきた朱莉に、ことを説明し、「朱莉もやらないかな」と聞いてみたが、
「いや、私は放課後、陶芸行かなきゃいけないし、無理」
と一蹴された。勧誘は手伝ってくれるというので、ソラたちは、「とにかく男子だ」と、クラスを問わず、一年の男子に声をかけて回った。が、先輩のいう通り、男子たちは一様に後ずさりした。
放課後になっても、状況は変わらず、男子が少ないため、声をかける対象も限られて、すぐに3人で、ため息をつくことになった。今日が申し込みの締め切りだというのに。
――せっかく思い切ってやるって言ったけど、無駄になるのかな。
ソラは、かえってその方が良かったかもと思い出していた。
そのうちに朱莉は、陶芸があると先に帰ってしまう。
残された2人は、生徒会室へ行く前に1階の実習室へ行くことにした。2人は、大事なことを忘れていたのだ。
実習室の戸をガラリと開けると、中に1人、絵を描いている生徒がいた。2組の男子だ。ソラは、まだ話したことはなかったが、背の高い、少しくせ毛の彼が、時々この部屋で絵を描いているのを見たことがある。
「柊、こんなとこで何してんの?」
美紅の言葉に、彼は顔を上げてチラッとこちらを見たが、すぐに視線を画板に戻して鉛筆を動かし続けた。
作品に集中のときは、お互い邪魔はしないのが鉄則だ。
でも、ソラたちにはやらなければならないことがある。
――週末だから、絶対食べさせてあげなくっちゃ。どうしよ?
と、美紅と目で会話する。
2人は、何気なさを装って後ろの戸棚へ行くと、パンがいないか、あちこち目を走らせた。
すると、絵を描いていた柊がこちらを見ずに、しゃべった。
「君ら、そこのネズミのこと知ってるの?」
ええ! ソラたちは、いたずらがバレた子どものように固まった。
「え、柊くんネズミ見たの?」
ソラが、思わず言ってしまう。
彼は、こちらを向いて鉛筆を置いた。
「うん、放課後何回か、ここに通って絵を描いてたら、何かいるなって、そしたら、さっきそこんとこに変わった毛色のネズミがいた。でもすぐに引っ込んじゃって。そこへ君らが来たから、もしかしたらって思ってね」
――うわ、バレてるよ、美紅。今日はお昼に来れなかったから、パン、お腹空いて、私たちが来たと勘違いしたんだ。
「お願い、柊くん、このこと黙ってて、必ず、何とかするからさ。今ばれて、大騒ぎになったら、あの子、どっかへ逃げちゃうかもしれないから」
ソラは手を合わせて頼んだ。
「ああ、僕は特に今、ネズミに興味ないから」
2人はほっと顔を見合わせる。すると、美紅が、彼に聞いた。
「なあ、知ってるなら丁度いいんだけど、あの子さ、迷子ネズミなんだよね。ただ、わかるだろ、いつまでも学校にいられないしさ、それで、今、この子の飼い主探してるんだけど。な、柊、ネズミ飼ってくれないかな」
「いや、そういうのは無理だ。うち、ペット飼う余裕はないから」
「そうか、わかった、ありがとう。ついでにも一つ聞くけど。柊、百人一首って、知ってるか」
「え、ああ知ってるよ。おばあちゃんと、よくやったから」
「何? ええっと、その百人一首で、三校対抗戦ってやつがあるんだけど。出てくれないか」
「……いいよ」
「……ええ!?」
ソラと美紅は、同時に声をあげた。
「ほんとか、絶対か? 冗談は聞かないぞ」
「僕、部活も入ってないし。それ、夏までだろ。そのくらいなら、付き合うよ。メンバー、足りないんだろ」
「うわ、なんか急に、柊、お前が輝いて見えるぞ! すぐ、行こう、生徒会室へ来てくれ」
美紅は、有無を言わさず、柊を引きずるようにして教室を飛び出して行った。
机の上には、彼が描いていた絵が残されていた。ソラはそれを見て、思わず見入ってしまう。
――すごい! こんな絵を描くんだ。
それは今にも飛び立とうとする烏のデッサンだった。そのリアルな黒光りする生命感に、ソラは目を離せなくなってしまう。と、そんなソラの上靴をつんつんする何かに気づく。
足元には、掌ほどの大きさの1匹のネズミがいた。パンだ。パンダ模様のネズミがソラの足元からキラキラした目で見上げていた。
「あ、いたんだ。お昼に来れなくて、ごめん、ご飯持ってきたよ。ありがと、メンバー見つかったの、パンのおかげだよ」
ソラは、パンに、人参とさつまいもの切ったのをあげて、美紅たちの後を追いかけた。
ソラが生徒会室に入ると、中はもう大騒ぎになっていた。日野会長に両手でブンブン振り回すほどの握手をされて、柊くんは放心状態のようにも見えた。
こうして、鴨川高校は、締め切り間際、滑り込みでなんとか選手報告を終えることができたのだった。
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